先日の夜、ビールを買いに近所のコンビニに行った時の話。
レジで会計を済ませて店を出たら、気持ちが良い風の吹く夜だという事に気が付いた。
夜風に当たりながらのビールも悪くないなぁ~と思い、お店の出入り口横にあるベンチに座ってビールを飲み始めた。
その時、三台の電気高所作業車が連なって、コンビニの駐車場に停車した。
ナンバーを見ると3台とも岩手ナンバーだった。
先日の台風の影響で千葉の停電はこれまでに無い悲惨な状況だ。
全国から電気の復旧作業者が千葉に来ていると聞いた事がある。
この人達も岩手から電気の復旧の為にわざわざ来てくれたのだろう。
一台にそれぞれ二人、作業員さんが四人、警備員さんが二人の計六人が疲れた表情で車から降りて来た。
一番最初に店の入り口に立った 身体が大きくて真っ黒に日焼けをした、40代半ばくらいの作業員さんが、後続の人達に声をかける。
「メシ代はおらが出すから、好きな物食べろ~、だども酒はダメだぞ~」
周りの人達は苦笑いをしながら、
「へ~イ」
それぞれ返事をした。
そんな中、後方にいた茶髪のヒョロッとした20代前半くらいの若い子が、少し甲高い声で、先頭の作業員さんに声をかける。
「ハンチョ~、ノンアルはどうだべ?」
ハンチョ~と呼ばれた先頭の作業員さんは、
呆れた顔で、「我慢しろ~」
と小さく返すと、
茶髪のヒョロッとした子は、
つまらなそうに「ハイハイ
」と
返事をした。
程なく会計を済ませた作業員さん達は、それぞれの晩ご飯が入ったビニール袋を手にぶら下げて、店から出て来た。
そしてそれぞれの車に乗ろうとした時、
先程 “ハンチョ~”と呼ばれた身体の大きな作業員さんが、皆を呼び止めた。
「みんな~ちょっと聞いてくれ~
これを食べ終わったら、宿に帰ろうと思っていた~
だども、もう少し頑張ってみね~か?
朝から、殆ど休み無しで動いてっから、疲れてんのは分かるけど、、、
どだ~?
すると、先程の茶髪のひょろっとした子が、如何にも不服そうな顔で班長に言う
「もう 俺 ムリッす。
疲れちゃって、これ以上動いたら、倒れちゃいますよ
」
周りの人達も 俯いて下を見て誰も何も言わない。
おそらくそれが答えなのだろう。
みんな、疲れてしまって動く気力も体力もあまり無いのだろう。
そんな雰囲気を察したのか、若い子は畳み掛けるように言う。
「今日は 宿に帰って、早目に寝て
明日の朝早くからやればいいでねっすか?」
、、、周りの人達も何も言わない。
そんな重い空気の中、班長さんはみんなの顔を見渡し、少し大きな声で話し始めた。
「アラキ、そして他の皆んなも聞いてくれ! 、、、、、」
アラキと呼ばれた若い子は、少しびっくりした様子で、班長さんを見つめ直した。
そして班長さんは、ゆっくりと話し出した。
「3・11を忘れた訳じゃ無いよな?
アラキお前はまだ中坊だったか?
お前のオヤジさんが津波で行方不明になって、自衛隊や消防や警察の人達は、不眠不休で捜索してくれたよな、
オヤジさんの事は残念だったが、それでもお前のオヤジさんを懸命になって捜してくれたよな、、、
他の皆んなだってそうだ
電気が使えねー生活がどれだけ大変か忘れた訳じゃねぇべ?
避難所にいる時は、ボランティアの人達に世話になったべさ?
家に溜まった泥の掻き出しだって、ボランティアの人達のチカラが無ければ、どうしようも無かった筈だ。
あん時は自分の無力さを思い知った。
何も出来なくて、ただただ途方に暮れてた。
だども 今は違う!
おら達の力を必要としている人達が、まだまだ たくさんいるんだ。
震災の時、おら達はどれだけの人に助けられたと思う?
、、、
今 出来る事を精一杯やらねが?
おら達がもっと頑張れば、もっと救われる人達が増える筈だ。
これは恩返しだ!
あの時 震災の復旧復興に関わってくれた 全ての人達への恩返しだ!
おらはそう思ってる、、、、、」
班長さんの力説する姿をじっと見つめたまま “アラキ” と呼ばれた若い子が、暫くの沈黙の後に
声を詰まらせながら班長に言う
「ハンチョウ~ すみません
俺 忘れてました
震災があって、俺は人の役に立てる仕事がしたかったんです、、、
そう思っていたんです、、、
今なんですよね、、、
すんません、、、甘えてました、、、」
目に涙を溜めたアラキの横にいた作業員が、アラキの肩をぐっと抱きかかえて、
「も少し、がんばっぺ!!」
と 力強く 班長、アラキ、他の人達にも声を投げる。
皆んなはその言葉に 「おうっ!」と
一度だけ頷き、それぞれの車に乗り弁当を食べ始めた。
数分後、弁当を食べ終えた作業員さん達は、弁当の空き箱をゴミ箱に入れ、そこで一度班長を囲み次の現場へのルートを確認した。
確認が終わるとすみやかにそれぞれの車に戻ろうとした時、班長さんは アラキに声をかける。
「アラキ、疲れてるだろうが も少し頑張ってくれ」
するとアラキは茶化す様に
「俺が一番若けーのに、疲れたなんて言ってらんねっス
それに、地元に帰ったら飲みに連れてってくれるんすよね!
ハンチョ~の奢りで!」
と冗談交じりに、にこやかに返事をする。
「あははは~
三日酔になるまで、飲ましてやるべさ
あははは~」
豪快な笑い声をコンビニの駐車場に残して、作業員さん達は次の現場に向かった。
時刻は夜の9時
スーパーマンでもウルトラマンでもないヒーロー達が、暗闇の中 明かりを灯しに走って行く。