ビートたけしと大杉蓮
TVタックル収録日の休憩中での事。
たけしのマネージャーが、血相変えて、たけしのもとへ走って来た。
「殿、今連絡が入ったんですが、
大杉蓮さんがお亡くなりになったそうです...」
訃報を聞いた、たけしはキョトンとした顔でこう答えた。
「ん? 大杉蓮? 誰それ?
大杉蓮さんって、オイラの知ってる人?」
マネージャーはそれ以上何も言えなかった。
その後、番組の収録は再開された。
しかし、そこからのたけしは一言も発さず、只々、呆然としていた。
まるで、刻が止まったかの様に...。
たけしと大杉蓮との出会いは、25年前。
北野映画のオーディション。
「これでダメなら役者はもうやめよう」
40を過ぎて鳴かず飛ばずだった大杉蓮は、最期の望みをかけてオーディションで挑む...はずだった。
しかし、よりによって、その勝負の日に遅刻してしまったのだ。
急いでオーディション会場に駆けつけた蓮。
すると視線の先には、関係者と談笑している北野監督がいた。
蓮にとって、たけしは特別な存在だった。
役者として陽が当たらない時代、たけし作詞作曲の「浅草キッド」を何度も聴いては、自らを励ましていたからだ。
「今日は申し訳ありませんでした...」
恐る恐る小声で詫びを入れる蓮。
本来は大声で謝罪せねばいけないところを、たけしを敬愛するあまり、小声になってしまったのだ。
ペコリと、頭を下げる蓮。
たけしは、そんな蓮に対して、こう言った。
「もう、帰っていいよ...」
「落ちた...終わりだ...
よりによって、俺は何でたけしさんのオーディションに遅刻なんか...」
蓮の頭の中は、後悔でいっぱいだった。
「あの人、使うから...」
「え? でも、たけしさん、
あの人、遅刻して来たんですよ?
それに役は、もう埋まってますよ」
「うん、でも、使うから...」
本当なら、オーディションに遅刻して来た大杉蓮は、不合格だった。
それに、配役はすべて決まっていた。
しかし、たけしのひと声で、急遽、シナリオが書き換えられ、蓮は役を与えられた。
たけしは、後に、インタビューで「自身の映画で使う俳優について」こんな事を話していた。
「オイラね、いかにも自分は主役って態度してる俳優は好きじゃない
それよりは、気の弱そうな、申し訳なさそうにしている人がいい
そういう人にチャンスをあげると、それ以上のモノを返してくれるから
こっちが与えた役を有り難いって思ってくれる人がいいよね」
大杉蓮は北野映画の常連となり、日本を代表する名俳優となっていく。
その役幅は広く、
ある時は、死に場所求める身体障害者。
ある時は、お茶目で頼りない上司。
また、ある時は、強面のヤクザ。
その後も蓮は映画やドラマだけではなく、バラエティなどにも出演。
そのダンディな容姿と、気さくな性格で、多くの共演者やスタッフから愛された。
昨年、たけしと揃って「ぴったんこカンカン」に出演。
司会の安住アナも一緒に3人で浅草をぶらり旅。
「俺、初めて、監督とキャッチボールするよ!!」
蓮は、子供の様にはしゃぎながら、河原でたけしとキャッチボールをした。
番組の後半では、酒を酌み交わしながら、思い出話しに花を咲かせ、
蓮が演奏するギターで、たけしが「浅草キッド」を熱唱した。
そう、たけし作詞の「浅草キッド」は、俳優大杉蓮を支え続けた歌だ。
それから4ヶ月後。
たけしと安住アナは「ニュースキャスター7Days」に出演。
冒頭、冬季オリンピックのメダル獲得で明るい話題。
いつも以上に安住アナが明るく振舞っているのがわかった。
たけしも、妙にハイテンションな安住アナに思わず笑みがこぼれていた。
安住アナは、この後「触れなければならないニュース」の事を少しでも、たけしの頭から消したかったのかもしれない。
そして、大杉蓮訃報のニュースへ。
4ヶ月前の「ぴったんこカンカン」のVTRが流れた。
河原でのキャッチボール...
3人での乾杯...
浅草キッドの歌唱...
目をパチパチしながら、VTRの蓮を見つめるたけし。
映像が終わると、スタジオには静寂が流れた。
「寂しいですね...」
安住アナがそう言うと、たけしは小さく頷いた。
「うん...」
そして、こう話し始めた。
「同じような人が世界中にいっぱいいるからしょうがない...
だけど、やっぱり人間っていうのは自分の近い人の死とかは堪えるね...
父親とか母親とか死ぬのこたえるのと同じように...
友達や長い関係がある人がなくなると、相棒がいなくなったような寂しさがあるよね...
縁があって自分の映画を支えてくれた人だからね...
今ごろ何してるんだろう...」
そう言うと、たけしは目柱を抑えた。
大杉蓮は、以前にある番組でこんな言葉を言っていた。
「自分は北野監督によって命を与えられた」
そう、あの日、遅刻したあのオーディションで...
敬愛する、たけしと出会ったあのオーディションで...
ゆうきです。
オレが初めて大杉蓮さんを知ったのは、たけしさんの映画「HANABI」でした。
それから、同じサッカー好きという事で、親しみを感じました。
ダンディな見た目とは違って、一旦サッカーを話し始めたら、止まらなくなるところが、面白く、
オレの中では、強面な俳優から、一気にお茶目なオッチャンといった印象に変わりました。
そこからは、映画やテレビに出ているのが、当たり前な有名俳優で、いろいろな役柄をされていましたね。
あるドラマで、オカマ役をやった時には、笑ってしまいました(笑)
40歳を過ぎて、ブレイクした遅咲きの方で、若い頃はかなり苦労されと後で知りました。
オレの中では、いつまでも「しぶく、面白く、最高にカッコいい」そんなオッチャンです。
お悔やみは申し上げません。
最後に、下積み時代の蓮さんが、聴いていたという「浅草キッド」の歌詞を。
きっと、今でも、たくさんの売れない俳優や芸人が、この歌を聴きながら、夢という人生を生きているんですね。
浅草キッド
作詞 ビートたけし
お前と会った仲見世の
煮込みしかないくじら屋で
夢を語ったチューハイの
泡にはじけた約束は
灯の消えた浅草の
コタツ1つのアパートで
同じ背広を初めて買って
同じ形のちょうたい作り
同じ靴まで買う金は無く
いつも 笑いのネタにした
いつかうれると信じてた
客が2人の演芸場で
夢をたくした100円を
投げて真面目に拝んでる
顔にうかんだおさなごの
むくな心にまたほれて
1人たずねたアパートで
グラスかたむけなつかしむ
そんな時代もあったねと
笑う背中がゆれている
夢はすてたと言わないで
他にあてなき2人なのに
夢はすてたと言わないで
他に道なき2人なのに
コメント
2018/03/02 23:01
2. >>1 しゃーれんちさん
こちらこそ、
コメントありがとうございました
返コメ
2018/03/02 22:59
1. 言葉が出ません、ありがとうございました!
返コメ