先週、夏休みで家族旅行に出かけて来た。

予算をひたすらケチった貧乏旅行なので、出かける前からイヤな予感しかない。
なにしろ旅程表には9/1出発としながら、9/1当日には何の予定もない。
日付が変わった9/2の深夜0時半の飛行機で出発だ。
かくして珍道中が必定の旅は始まった。

貧乏旅行にはお決まりのエコノミークラス、しかも家族３人席はバラバラ、私は妻とも娘とも遠く離れた席に押し込まれた。
時差ボケが出やすい西回り航路、時差ボケを吸収させるためにはひたすら眠るに限る。
隣の席はなぜか若い女の子だったが、私は飛行機の離陸を待たずに爆睡を決め込んだ。
離陸後しばらくして深夜２時に軽食、そこでまた２本のビールを飲み爆睡の続き、のつもりだった。

が、隣の彼女がそれを許さなかった。
彼女は爆睡しているのだがとにかく寝相が悪い。
座席の間にはアームレストがあるのだが、彼女は寝返りのたび越境してくる。
彼女の寝返りのたび私は頭突きで起こされヒジ鉄で起こされる。
しまいには膝でアームレストを跳ね上げておしりが押し寄せて来た。

本来なら若い女の子が胸やおしりを押し当ててくるのは大歓迎だが、日本時間では午前3時、色気より眠気だ。
少し眠っては起こされを繰り返しているうちに寝不足のまま朝食の時間が来た。
朝食を取りながら彼女が尋ねてきた。
「今どのあたりですか？」
「ペルシャ湾の入り口、もう少しでホルムズ海峡だよ」
「え"っ!?、ホルムズ海峡ってイランがミサイル攻撃してきたところじゃないですか !? 怖い !!」

私は目が点になった。

この飛行機の行き先ドバイはホルムズ海峡の南側、対岸のイランとは100キロくらいの距離だ。
どうやら彼女は飛行機をドバイで乗り継ぐことは知っていたが、ドバイがイランとペルシャ湾を挟んで向かい合う隣国であることは知らなかったらしい。
私は「心配ないよ」と伝えるが、彼女の不安は収まらない。

高速で移動する飛行機はレーダーで狙わなければミサイルは当たらないこと、
地球は丸いため100キロも離れていれば地球の陰になってレーダーのような直線では狙えないこと、
そもそもドバイ(アラブ首長国)とイランは友好国なのでこの飛行機が狙われるはずがないこと、
私は眠い頭でつっかえながら説明し、やっと彼女の不安を解決できた。

安心した彼女はいろいろと話し始めた。
彼女の最終目的地はスイス、ジュネーブの近くにある大学に進学するとのこと。
私もドバイは中継地であり目的地までさらに飛行機で５時間と話し「おたがい大変だね」と笑った。

ジュネーブはアルプスの麓で涼しくて過ごしやすいだろうねと私が返すと彼女は寒いのが苦手で逆にそれが不安らしい。
私は北海道から来たことを伝え、東京から北海道に来た人の大部分は１年で冬の寒さに慣れることを話すと、「ふ～ん、じゃあ大丈夫かなぁ？」
彼女は一人旅、それどころかこれから始まる一人暮らしも初めてとのこと、驚くべき行動力だ。

食事が終わる頃には眠気もさえ、会話が弾み始めた。
学校のこと、家族のこと、着陸するまで話し続けた。
話の合間に「私、寝相が悪くてごめんなさいね」
どうやら彼女は昨晩の寝相の悪さを自覚していたらしい。

「デカいおしりで体当たりして迷惑だったでしょ？」
私は「いや、むしろうれしかったよ」と言いたいのをグッとこらえ、「いや～ぼくも眠るのに忙しかったから全然～」と返すと、
彼女は意味深にニコッと笑って肩で私の肩を突く素振りをした。

飛行機を降りるとき、最後に彼女から握手を求められ、お互いに名乗り合い握手して別れた。
ほんの２時間ほどではあったが、私にとっては久しぶりのデート感覚、至福のひとときだった。
家族旅行の合間に自分だけの秘密の出会い、この夏休み一番の思い出かもしれない。


あ…もちろんついでに家族旅行も楽しんできましたよ (^^;;

#1. 秘密の出会いを与えてくれたエミレーツ航空
#2. 旅先にて、観光客のため展望台つきの橋
#3. 時計台は改装中（札幌と違い時計だけ出している律儀な英国）