世界経済の実験室
先月、トランプ大統領が就任した。
日本人である私にはかなり意外なできごとであったが、ニュースを読むとそうではないらしい。
アメリカは「分断国家」と言われて久しい、これは私も知っている。
アメリカの歴史はその黎明期から南北戦争に象徴されるような文明化、工業化、国際化を目指す人々とひたすら保守的な人々の対立の歴史でもある。
アメリカは世界最大の工業国であり世界最先端の技術国である。
だが、そのイメージでアメリカ人をとらえてはいけない。
アメリカ人は先進国の中では最も海外渡航率が低い、これは有名な話だが、実はアメリカ人は国内の旅行率も低い。
多くのアメリカ人は自分の生まれ育った州、あるいは町だけで人生の大部分を過ごし、知人の結婚式などのイベントがなければ域外に出ることはない。
きわめて土着率の高い国民、これが平均的なアメリカ人の実像である。
アメリカの田舎町は日本以上の閉鎖社会だ。
田舎町に生まれた者は顔なじみの中で育ち顔なじみの誰かと結婚しそのまま生涯を終える。
自己完結的な閉鎖社会だが自分の居場所に安住できる、自分たちにとっては理想郷である。
そのような人々にとって国際社会におけるリーダーシップ、国際協力などは自分たちとは無縁の世界だ。
ただ、無縁なだけならまだいい。
長年の国際強調路線に加えオバマの移民融和政策によってアメリカの片田舎にまでメキシコ人などの外国労働者が入り込んできてしまった。
その移民たちが自分たちの職を奪い安住の地を破壊しつつある、これは容認できない。
そのような市民層が排外主義を掲げるトランプ氏に共感した、これが彼を大統領に当選させる原動力となったのである。
トランプ大統領は今なおその言動が物議をかもしているが、もともと不動産王と呼ばれるほどの辣腕のビジネスマンだ。
おそらく彼は自分の支持率が低いこと、批判勢力が大きいことなどを十分承知の上で計算ずくめで行動しているのだと思う。
これは私の想像だが、イスラム圏からの入国制限やメキシコ国境の壁建設など、彼はこれらが早々に頓挫することを予測しているのだろう。
まともに考えれば絶対に通用しないような理不尽なことでも公約したからには何もせず放り出すわけにはいかない。
かといってこれらの公約が将来の足かせとなるのも不都合だ。
ではどうするか、かつてない不人気と批判の中で就任した今のうちにドサクサ紛れにブチ上げて批判轟々のうちに引っ込めてしまうのだ。
私がトランプでもこの状況なら絶対にこうするだろう。
トランプ大統領は自分を大統領に当選させた支持者が彼に期待していることを十分に理解していることだろう。
それはイスラムの入国制限や国境壁建設などではない。
それは「大いなる田舎者」であるアメリカ市民の理想郷を守るための排外主義であり「小さいアメリカ」である。
この発想自体もトランプ氏独自のものではない。
モンロー宣言から脈々と続いている「偉大なアメリカ」を自負するアメリカ人たちの「自己完結主義」だ。
わかりやすく言えば「お前たちはお前たちで勝手にやれ。そのかわり俺たちは俺たちの勝手にやらせてくれ」ということだ。
農業、鉱工業とも自給率に優れていたアメリカはこの相互不干渉主義をモットーとして国内経済を発展させ、20世紀には世界一の経済大国となった。
アメリカは第二次大戦の後にこの自己完結主義を掲げる大統領が就任したことはない。
石油などエネルギー源の多くを輸入に頼り自国の単純労働力の多くを移民に頼る現在のアメリカで同じ自己完結主義が通用するものかどうか、これはわからない。
また、これまで世界経済の中心にいたアメリカがそのリーダーの壇上から降りてしまえば何が起こるか、これも想像がつかない。
想像できることはただ1つ、これからの4年間はアメリカのみならず世界全体が大きな「経済の実験場」のような状況になることだろうということ。
これを機に世界経済がどのように動いて行くか、私としては非常に興味深い。
コメント
2017/02/05 22:30
7. >>5 ウルオさん
たしかにトランプ政権は対外的にはコストパフォーマンス最優先の「株式会社アメリカ合衆国」になろうとしているようですね。
一方で国内で目指しているものは「よそ者は去れ」の古き良き「西部劇合衆国」です。
このアナクロニズムがメキシコ人労働力に頼る大都市のサービス産業に何をもたらすか、政府よりはるかに大きな経済力をもつ多国籍企業が内向き政策にどう応えるか、このあたりに未来を占う鍵があると思います。
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2017/02/05 22:18
6. >>4 不良少年マーリーさん
歴史を振り返るとアメリカは過去においても現在の国連の前身となる「国際連盟」を提唱、設立させておいて自分たちはお家の事情で加盟しないという暴挙をやらかしていたりしますから、今回のトランプ大統領もさほど驚くには当たらないのかもしれませんよ(笑)
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2017/02/05 21:50
5.
日本を含めた世界の政治で
とことんコストパフォーマンスを突き詰めた歴史はありません
その意味でトランプ氏に期待はあります
ただ政治の全てがコストで計れるとも思ってもいないので
そのバランスがU助さんの言う『実験』に盛り込まれることを望みます
4年後歴史に残る大統領になる確率は3割はあると思うんだよなぁ
(ニヤリ)
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2017/02/05 21:06
4. U助さんのおかげで今のトランプ氏に関する報道が見やすくなったし何だか納得いきました。ありがとうございます
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2017/02/05 20:20
3. >>2 U助さん
意外です。外側からのイメージと、実情とは違うんですね。
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2017/02/05 19:39
2. >>1 えまりん(*^-^)さん
こんばんは
私もアメリカには何度か旅行した程度なのでその閉鎖社会を感じたことはありませんが、留学するとかなりの都市部でも至るところで閉鎖社会が形成されていることを実感できるそうです。
西部劇の「よそ者は死ね」ばかりではなく、現代映画でも都会から田舎町に赴任した教師の物語とか、ミステリードラマ「ツインピークス」などでも田舎町の閉鎖性がテーマの1つになっています。
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2017/02/05 18:28
1. アメリカは、日本以上に閉鎖社会なんて、知りませんでした。
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