大和君
大和君無事で良かった。
一緒にニュースを見ていた98歳の母が、突然「柿の木に縛られたのは、おまえだったね。」と言った。
ぼくは、60年ほど前の出来事を思い出した。幼い頃、誤って茶碗を落として割ったことがある。父は、訳も聞かずにいきなりぼくを庭の柿の木に縛り付けた。ぼくは、暗い星空の下、なぜこんな目にあわなければならないのか悲しくて涙があふれ出たのを覚えている。
母も、覚えていたのだ。この60年間一度も、このことに触れたことがなかったのに。母は、父の手前何も言えなく悲しんでいたのだと今、ぼくは気づいた。