どん底まで堕ちたから、優しさを知ることができた
★ ★ ★
過去に、自堕落な生活のため多額の借金を背負って、ホームレスにまで堕ちた事がある。
住むところを追い出され、公園デビューとなった。
真冬の寒さに震えながら、公園のベンチで寝た。
見上げた夜空の星は、鈍く歪んでいた。
寒さより痛みで眠れない。
「俺も堕ちるとこまで堕ちたなあ」
ため息があふれた。
わずかばかりの小銭でパンの耳を買い、後は水ばかりを飲んでいた。
体重が2ヶ月で20キロ消えうせた。
さすがにその時は、餓死の恐怖に怯えた。
亡き両親に申し訳なくなり、泣いた。
野垂れ死になんてなったら、何の為に親は貧乏の中で苦労して育ててくれたのだろう。
「もう一度やり直そう」
と決意した。
★ ★ ★
幸い「自立支援施設」に入ることができたので、命を落とすことは免れた。
自立支援施設は、行政がやっている、住むところと食事が支給されるシェルターだ。
仕事をみつけ金を貯め、社会復帰を支援する場所である。
一部屋10人のザコ寝で、古米の飯がでる。
飢えた俺には、そこは天国に思えた。
80人ほどが集団生活をしている。
ホームレス、夜逃げ、刑務所上がり、廃業した相撲取り、ドサまわりの芸人・・・
いろんな人がいた。
みんな人生の底辺をのたうち回っていた。
家族を失っていた俺には、集団生活はとても新鮮だった。
当時の俺は世をすね、人間嫌いで、何も信じられないくせにチンケなプライドだけが肥大した、実にイヤな人間だった。
大勢でワイワイと食べる食事。
それが楽しくて仕方なかった。
自分より歳上の人がほとんどだったから、皆にとてもかわいがってもらえた。
★ ★ ★
その時世話になった職員のAさんの言葉を今も覚えている。
「堕ちたことに対して私は何も言わない。だけど、ここから這い上がっていこうと努力しない事に対しては許さないから」
Aさんの言葉は、今も俺の心の礎である。
堕ちた事を悔やむより、ここから這い上がっていけばいい。
絶望に安住してはならない。
もちろん這い上がるのは簡単ではなかった。
俺も1日10数時間、アルバイトをかけもちし金を貯め、休日は介護の学校に通った。
就職の面接では数十社も落ち、もがきながら、ようやく介護士として職を得た。
「君は人生のどん底に堕ちた。それなら弱い人の気持ちが誰よりも分かるんじゃないかな」
そう言って雇ってくれたのが今の職場だ。
涙が出るくらい、ありがたかった。
アパートを借りた俺は、施設を卒業し社会復帰の第一歩を踏み出した。
同じ失敗を二度としたくはない。
★ ★ ★
介護の仕事は想像していた以上にきつかった。
肉体的にも精神的にも。
だけど、仕事仲間や利用者さんに支えられたから、頑張れた。
介護福祉士やケアマネ、たくさんの資格も取った。
あれから10年以上がたつ。
この業界では「ベテラン」と呼ばれるようになった。
だけど俺の原点は、あの自立支援施設に入ったあの日だ。
あの日から俺は生まれ変わった。
人生は何歳からだって、どんな境遇からでもやり直していけるんだ。
「自分が一番」
だなんて思いあがっていたら、いつか足元をすくわれ、地べたに叩きつけられる。
人は誰も一人で今のポジションにいるわけではない。
目に見える、見えない関わりなく、いろいろな人の助けや支えで今日がある。
だから感謝の気持ちを忘れてはいけない。
人に感謝できない人間は、いつかしっぺ返しを食う。
愚かな俺が、自分の身を切り裂いて学んだことがそれらだ。
ずいぶんと回り道をしてきた気がする。
でもその日々があったからこそ、今の自分がいる。
ただただ感謝の気持ちだ。
ありがとうございます!