介護に必要な心を、爪切りが教えてくれた
☆ ☆ ☆
もう10年以上も前の話になる。
その年も、底冷えの厳しい冬だったと記憶している。
人生いろいろあって、さまざまな思いを抱いて飛び込んだ介護士という仕事。
勤め先の介護施設でいちばん歳を食ったいちばん仕事のできない新人である僕は、毎日がとまどいと悩みの日々だった。
体のしんどさは我慢できても、精神的な負担がこれほど大きい世界だとは思いもしなかった。
人様の命を預かっている仕事だから当然ではあったけれど、自分が何もできず、ただ翻弄されている無力な存在であることを、痛いほど目の前につきつけられた。
仕事の覚えも悪く、失敗続き。
「この仕事向いてないな」
そう実感した。
何度かここの日記で書いたけれど、僕は自堕落な生き方をしていた。
多額の借金を背負って、最後にはホームレスにまで堕ちたほどだ。
(もちろん借金は後に返済はした)
住むところを失い、自立支援施設の10人で一つの部屋で生活していた。
また元の生活に戻ってしまったら、何より自分を支えてくれた多くの人に申し訳ない。
でも、行くも苦難退くも苦難。
そんな毎日だった。
介護士を辞めることばかりを考えていた。
冬の寒さより、自らの凍り付いた気持ちがよけいに痛みを伴っていた。
☆ ☆ ☆
そんなある日、利用者さんの爪を切っていた時だ。
高齢者の爪って固く変形していることが多い。
その利用者さんの足の爪も、巻き爪が酷く、爪切りバサミさえ拒否していた。
「ごめんね、私の爪切りにくいやろ」
利用者さんは申し訳なさそうな顔をした。
「心配しなくても大丈夫ですよ、でもずいぶん伸びてますね」
「そう私の爪切りにくいから、介護士さんも嫌がって、なかなか切ってくれなくてね」
(切りにくいから放置しているって?)
その時僕の心に怒りに似た気持ちがわいてきた。
たかが爪切りと侮ってはいけない。
足のケアを疎かにしていると皮膚病の原因にもなりかねない。
(誰もが嫌がるなら、よし自分がきれいに切ろう)
そう考えた。
とは言え、ハサミやニッパーでは無理なんで、やすりを使って少しづつ爪を削っていくことにする。
削った爪が細かな粉になって落ちていく。
かなり時間はかかったけれど、ようやく短くそろえることができた。
「嬉しいわ、こんなにきれいにしてくれて、ありがとうね」
利用者さんは、ぱあっと顔を輝かせた。
「喜んでいただいて、こちらこそ嬉しいですよ」
僕も晴れやかな気持ちだった。
その時自分の中で、何かが吹っ切れた気がした。
削り取った固い巻き爪みたいに、頑なな心さえもがサラサラと崩れ落ちた。
グダグダ悩んでいる自分が情けなかった。
ウジウジしている自身がみっともなかった。
こんな自分でも必要としてくれる人がいる、その喜び。
「爪切りなら誰にも負けない、そんな技術を身につけよう」
と考えた。
だからすき間時間を見つけては、誰よりも爪切りに励んだ。
これだけはいちばんになってやろう。
☆ ☆ ☆
午後の少し落ち着いた時間、その日も僕は利用者さんの爪切りに励んでいた。
その利用者さんの後ろには、別な利用者さんが2人並んでいた。
「こっちも空いてますよ」
と先輩職員が、爪切りバサミを手に声をかけた。
すると並んでいた利用者さんが
「アンタは雑やないの。私はこの兄ちゃんに切ってもらいたいねん」
と首を横にふった。
先輩職員は苦笑いしている。
もう一人の利用者さんも
「〇さんがいちばんていねいで上手やからね」
僕を名指しでそう言ってくれた。
利用者さんの言葉に、涙が出そうなくらい嬉しくてね。
この世界でやっていける、よしやっていくんだって、ようやく心に決められたんよ。
☆ ☆ ☆
あれから長い月日がたち、右も左も分からなかった新人のオッサンは、まあ今もオッサンには変わりないけど(笑)
ベテランと呼ばれるようになった。
最近はケアマネの方に仕事がシフトしていっているけど、書類仕事よりも、現場の第一線でガンガンやっている方が自分には向いているし、好きだ。
新人や中堅職員の教育や指導の仕事も任せられている。
「教え方が上手い」
ってみんなにほめられるんやけど、これは僕が人より優れているからではない。
反対に、これまで誰よりも多く失敗をしてきたからだ。
だからこそ他の職員がどこでつまづいているのか、何を悩んでいるのかが理解できるからなんだろうと思う。
これまでの失敗や悩みが全部、自分の財産になって活きている。
後輩たちにいつも教えることがある。
「誰にも負けない自分の得意なものを見につけなさい」って。
そこからすべてに繋がっていく。
僕の場合はそれが、爪切りだった。
☆ ☆ ☆
「介護ってなに?」
この質問には、そこに携わる人それぞれの数だけ答えがあると思う。
これが正解だ、ってものも無いかもしれない。
僕の答えはシンプルだ。
「人様に笑顔になっていただけること」
これだ。
すべてがそこに集約される。
「でもアンタのダジャレは、あんまし笑えんけどな」
そう利用者さんからツッコまれることも多いけどね(笑)
コメント
2018/02/16 12:04
12. >>11 みこさん
こんにちは(^o^)
たかが爪切りされど爪切り。
まさにその通りで、一つ間違うとけがをさせてしまうんで熟練さが必要になるんよね。
確かにそんな出来事があったらトラウマだよね。
でも俺は仕事では失敗しないけど、自分の爪はなぜかうまく切れない(笑)
極寒ギャグに同意せんでよろしい(;^ω^)
返コメ
2018/02/16 11:24
11. こんにちは!
![[げっそり]](https://img.550909.com/emoji/ic_face_pinch.gif)
![[!!]](https://img.550909.com/emoji/ic_biccuri02.gif)
私も昔、知り合いに勧めされて掛け持ちのバイトで少しだけ介護してました。
爪切り、私は実習先で怪我をさせてしまって以来トラウマです
仕事(実習)中は、何があっても絶対泣かないと決めてた私が、初めて泣いた
他人の爪なんてあんな微妙な部分を刃物で切るなんて、難しいですもの(;´∩`)
それを得意としてしまうなんて、やはりただ者ではないですね(-ロ-;)
そして極寒ギャグについては利用者さんも同意見で笑えました(笑)
返コメ
2018/02/16 11:09
10. >>9 タイキックさん
まい丼飯(*'ω'*)
ちょっとしたきっかけで物事が大きく変わることがある。
蝶の羽ばたきが台風を起こす、いわゆるバタフライ効果って概念もあるくらいやから。
けっこう日常では見過ごしてしまうような中に、ヒントが隠されてたりするんよね。
見逃すことが俺も多いんやけど(笑)
この日記が何かの気づきにつながってくれたんなら、嬉しいよ。
返コメ
2018/02/16 10:36
9.
ガロンさん、まいどーん^ ^
気づきって大切ですよね
「自分の既成概念を何度壊せるか」
そこに本当の豊かさがあるのかなって
なんとなく思ったり思わなかったり
(思わんのかい)
きっかけはどこにでも転がってる、出会い系の日記の中にも
そんなことに気づかせてくれて
いつもありがとうございます
返コメ
2018/02/16 7:18
8. >>7 【熊本烈男会】さん
日記を読んでコメントまでちょうだいし、とても嬉しく思います。
自分は親不孝をかけ続け両親を亡くしたことも、この仕事に入った一因なんです。
だから自宅で介護されていたと聞き、心をうたれました。
お母さんをお大事に。
ありがとうございました。
返コメ
2018/02/16 7:11
7. 自分も父と母を在宅で介護してましたので…何かくるものを感じました。父は昨年亡くなり母は施設に射ます。良い日記を読ませて有難う御座いました。良い一日をお過ごし下さい。失礼しました
返コメ
2018/02/16 7:09
6. >>5 仲田さん
おお良かった!
俺の場合、開かなくなった引き出しとかもあるけど。
でもいつか必要な時に、また使えたらそれでええんよ。
どんな分野でも、経験値を増やして自分を磨くことは大切だと思う。
うん、ボチボチやりなはれ。
^^) _旦~~
返コメ
2018/02/16 7:02
5. うむ
元気出た!
今日も 励みます!
少しでも 引き出し(経験値)が
増やせるよう
笑顔が創れるよう
ボチボチやります!
返コメ
2018/02/16 6:21
4. >>2 風(フウ)さん
おはよう(* ´ ▽ ` *)ノ
うん、笑顔を見ると疲れも吹っ飛ぶよね。
誰かの役にたてることを、とても実感できる仕事だね。
日々に学びがあり、そこから成長していける。
まさに育ててもらっている感じやな。
毎日お疲れさん。
返コメ
2018/02/16 6:18
3. >>1
もも
さん
おはよう(* ^ー゜)ノ
下手な職員がやると、傷つけてしまうこともある。
だから慎重さと丁寧さ、そしてスムーズさとか。
なかなか難しいんよね。
髭を剃ってもらったお父さん、気持ち良かったと喜んでいたやろね。
お疲れ様!
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