愛する家族を傷つけられた男の勇気
★ ☆ ★ ☆
俳優のウィル・スミスが、アカデミー賞の舞台で、妻を中傷した司会者を殴る事件があった
それに対してどうのというのは、今回の日記の趣旨ではない
この件に関しては、人それぞれ考えるところがあって、意見も違うだろう
ただこのニュースを聞いて、昔の想い出が甦ってきた
そのことを今回はお話ししたい
それは僕が若いころ、会社勤めをしていた時の話だ
★ ☆ ★ ☆
僕の働いていた部署に、下請け会社から出向してきている、正さんという40歳過ぎの男性がいた
穏やかで仕事熱心な人だった
うちの社には、軽井という横柄で口の悪い男がいた
年齢は正さんと変わらない
おとなしい正さんを、いつもからかっていた
そのからかい方が度を越していると感じたから、僕は軽井に何度か進言したが
「あいつは出向の人間やん」
と見下して、聞く耳を持たない
逆に正さんの方は
「いいんですよ、仲良うしてもらってるだけですから、気にしてませんので」
とニコニコしていた
その時の僕は、正さんのことを、なんだか頼りない人だなと感じた
(ガツンと言い返したらええのに)
頼りない・・・それは誤解だったことを後に知る
★ ☆ ★ ☆
ある日の昼休みに事は起きた
外で昼飯を終えた軽井が、自分の机で弁当を食べていた正さんに対して
「正さん、外食もせんと今日も安っぽい弁当持参で、金ためてるんか」
と、いつものようにからかい出す
正さんはその侮辱に対して、やんわりした口調で
「貧乏所帯ですから」
とだけ返した
「生活かなり苦しいんやろ? 下請けやもんな」
さらに軽井は追い打ちをかける
「ええ、やりくりはたいへんですわ でも妻が毎日弁当こさえてくれるんで、ありがたいです」
正さんは静かに、愛妻弁当を食べ続ける
「ああ、そうかいな そない苦しかったら、女房と子供を売りとばしたらええやん、金になるで」
笑いながら軽井は、そんな下卑た言葉を口にした
場の空気が一変した
★ ☆ ★ ☆
「軽井さん! 今なんて言うたんですか? もういっぺん言うてください」
いつも穏やかな正さんの顔が引きつっている
「おいおい、なに真剣な顔してんねん 冗談で家族売れっていうたくらいで」
動揺した軽井がはぐらかす
正さんは立ち上がった
バンッ!
稲妻が天を切り裂くような音が部屋に響く
軽井を殴ったのでは無い
その音は、正さんが机を叩いた音だった
机の上のお茶が揺れ、こぼれた
正さんの身体が小刻みに震えている
怒りよりも、強く悲しみを感じさせる表情で
「妻と子供を売れって、冗談で言うてええことやないですよ」
初めて見る、正さんの苦しげな姿
さすがの軽井も、ようやく自分の言動が引き起こした事の重大さに気づいたようだ
言葉をつぐんだ
★ ☆ ★ ☆
しばらくして落ち着いた正さんが
「私のことやったらね、いくらでもバカにしてもろうてもかまいません」
そう続ける
「その代わり、家族をからかうのだけはやめてください お願いします、本当にお願いします」
いつしか涙声に変わっていた
軽井は何も言えず、すっかり黙ってしまう
「すんませんでした 私も熱くなりました 許してください」
正さんは周りにいた皆に頭を下げた
ハンカチで机の上のこぼれたお茶を拭く
再び静かに、愛妻弁当を愛おしげに口にした
★ ☆ ★ ☆
その様子を見た僕は
「正さんは、本物の男や」
と胸が熱くなったね
仕事でトラブルを起こしたくない
だから自分のことなら、いくら揶揄されても我慢する
しかし、愛する家族を傷つける行為だけは許さない
譲れない一線をちゃんと引き、そこから先は誰にも踏みこませない
そんな家族に対する強い愛が、正さんのいつも静かな表情の下には、熱くたぎっていたのだ
ふだんは耐え忍び、言うべき時にはきっちりと主張する
その姿勢
本当の勇気とか強さとは何か?
それを、僕は正さんから学んだ
コメント
2022/04/06 6:59
1. おはよーガロ兄ちゃん(●´∀`●)
正さんステキ(〃ω〃)
家族おもいで
ゆずれないとこはゆずれない
こーゆー人はかっこいいね
うんうん
こーゆーダンナさんアタシもほしい
ヽ(●´ε`●)ノ
返コメ