3本足の仔犬
これは、僕が小学生の頃のできごと。
☆ ☆ ☆
町内に、やせ細った柴犬が棄てられていた。
まだ仔犬だった。
もともと飼い犬だったようだけれど、飼い主が引っ越し先では飼えないということで、無慈悲に棄てられたらしい。
狂ったように飼い主を捜してさまよっているうちに事故にあったらしく、右の後足が半分腐ってちぎれかけていた。
不憫に感じた町の人たちが保護しようとしても、かわいそうにすっかり人間不信になった仔犬は、人を見ると怯え、足をひきづりながら逃げてしまう。
町内に、ケンさんという60代のひとり者の男性がいた。
もともとは腕のいい大工だったけれど、現場で木材が崩れる事故に巻き込まれ、利き腕が不自由になってしまった。
それ以来荒れた生活をするようになり、廃品を売ってわずかばかりの金を稼いでは酒ばかりを飲んでいた。
そればかりか、酒を飲んではケンカをし、すっかり町内の鼻つまみ者に成り下がっていた。
☆ ☆ ☆
ある日ケンさんが気まぐれに、酒のつまみにしていたソーセージを3本足の仔犬に差し出した。
最初は怯えていた仔犬は、ゆっくりケンさんに近づいてきてクンクンとにおいをかぎ、ソーセージをがつがつ食べ始めた。
よっぽどお腹が空いていたのだろう。
誰にもなつかなくなった仔犬は、ケンさんだけには心を開いたのだ。
「俺もこいつも3本足で棄てられた身やから、気が合うんやろなあ」
ケンさんは寂しそうにそう言った。
仔犬は「マメ」と名づけられ、ケンさんに飼われることになる。
町の人たちがお金をカンパして、獣医にみせることになった。
衰弱はひどかったが、命は持ち直した。
ただ、腐りかけていた足は救えず切断された。
☆ ☆ ☆
マメと暮らすようになってケンさんは酒を一切飲まなくなった。
現場での軽作業の仕事も始めた。
「こいつの医者代を稼がなあかんからな」
ケンさんはニコニコしながらマメの頭をなでていた。
マメも嬉しそうに、ケンさんをペロペロなめていた。
失った足に、ケンさんは木材とゴムを使った義足を作ってはめてやった。
腕利きの大工だったケンさんだけど、利き腕が不自由になったからかなり苦労したようだ。
義足をつけたマメと散歩するケンさんは、晴れ晴れとした顔をしていた。
☆ ☆ ☆
でもその幸せは半年ほどで終わってしまった。
病気がちなマメが旅立っていったのだ。
マメを失ったケンさんは、その亡骸を抱え道の真ん中で大声をあげて泣いていた。
あまりに気の毒な姿に、周りの人も声をかけられなかったほどだ。
まもなくして、身寄りがいなくて長年の不摂生がたたって働けなくなったケンさんも、医療施設に入所することになる。
わずかばかりの荷物だけを持って。
その中には、マメに作ってやった義足も形見として入っていた。
町内の人たちにあいさつまわりをしながらケンさんは
「マメと暮らせた半年は、ほんまに幸せでした」
そう語っていた。
「マメも、ケンさんと暮らせて幸せやったはずやで」
町の人もそう声をかけていた。
うん、きっとそうだ。
短い命だったけど、マメもケンさんに愛されて喜んでいたに違いない。
☆ ☆ ☆
昔も今も、人間の身勝手さで棄てられる動物は後を絶たない。
命ある存在を、軽い気持ちで飼って軽い気持ちで棄てるその行為。
そういう者たちは、もし自分が棄てられて路頭に迷ってしまうことを想像したことがあるのだろうか。
人間だって動物だって、その悲しさやつらさは何も変わることはないはずだ。
☆ ☆ ☆
天国では、また足がはえそろったマメと、手が使えるようになったケンさんが、きっと仲良く暮らしていることやろね。
コメント
2017/06/09 19:27
60. >>59 ででぽぽ[多忙につき留守がち]さん
お疲れ。
殺処分をゼロにしたんだって、すごい!
それはありがたい努力の賜物だよね。
嬉しい話だ。
そういった話を、動物を棄てる者はどう感じているんだろう。
全国的にそうなってほしいと俺も願う。
返コメ
2017/06/09 16:29
59. 昨日読んで号泣してコメ出来なかったよー
(/へ\*)))ウゥ、ヒック
今も泣きそうだよー(ノД`)
マメもケンさんも
お互いに出会えて良かった!
短かったけど、幸せだったと思う…。
広島で保健所から殺処分対象の犬、猫を
すべて引き取り、
面倒を見て里親探しをしてる団体が
殺処分0を達成したんだよ!!すごいね♪
全国的に是非ともそうなってほしいわ!
エイ(`ω´*)o"エイ(`◇´*)ノ"オー!!
返コメ
2017/06/09 7:36
58. >>51 Mikuさん
こちらこそ、ありがとう。
ケンさんとマメも、たくさんの人に知ってもらって喜んでいると思います。
人に対しても動物に対しても、相手を思いやる気持ちは忘れたくないよね。
返コメ
2017/06/09 7:33
57. >>50 トムとジェリーさん
おはよう。
すまないすまない・・・
さあ涙を拭いて、今日も仕事に励んでくださいよ。
日々お疲れ様です。
返コメ
2017/06/09 7:32
56. >>49 じゅん(๑ت๑)さん
おはよう。
例えばねモノでも、愛着を持って使ってきたものであれば、簡単に棄てたりできないよね。
それが命ならなおさらやと思うねん。
不幸に棄てられる動物たちがどれだけいるかを考えると、胸が苦しくなるんよ・・・
返コメ
2017/06/09 7:29
55. >>48 土竜~天勅龍皇黒龍さん
ことらこそ思い出を読んでもらって、コメントまでいただき嬉しく思いますよ。
ありがとう、と言うのはこちらの方ですよ。
(^_^)
返コメ
2017/06/09 7:28
54. >>47 てんこ〓退さん
おはよう。
特に動物って、一度人間不信に陥ると心を固く閉ざしてしまうことが多い。
信じて裏切られるって、一番つらいことだよね。
だから自分を愛してくれる人に出会えた喜びは、何より代えがたいんやろなあ。
返コメ
2017/06/09 7:25
53. >>46 りんさん
おはよう。
犬と人間、姿かたちは違っていても、心は同じだよね。
嬉しいと喜び、虐げられると悲しい・・・
共に感情ある存在なのは間違いじゃないはずだから。
返コメ
2017/06/09 7:23
52. >>45 まどかさん
優しい飼い主に飼われている動物は、何よりも幸せな存在だと思うよ。
(^_^)
返コメ
2017/06/09 6:49
51. 心暖まるよいお話、ありがとうございます。
うるうるしちゃいました。
返コメ