日本語の音読みに残る昔の中国語
夏目漱石に絶賛された小説家の中勘助が漱石から推挙されて大正2年から東京朝日新聞に連載した小説『銀の匙』。中勘助の友人で灘中学校を超有名進学校に育てた橋本武先生の次の解説がありました。少し私の解説を付けて紹介しますね。
「行」という漢字の音読み
・「ぎょう」という音読みは古代中国の呉の国から伝わった発音で仏教の経典を音読みするときなどによく使われる発音。行者(ぎょうじゃ)、行水(ぎょうずい)、行事(ぎょうじ)、行政(ぎょうせい)、行儀(ぎょうぎ)、行基(ぎょうき=人名)などの日本語に残っています。
・「こう」という音読みは遣唐使の時代に伝わってきた漢音。旅行(りょこう)、行程(こうてい)、行動(こうどう)など。
・「あん」という音読みは一番新しく鎌倉時代に中国から伝わってきた発音。行灯(あんどん)、行脚(あんぎゃ)など。
で、「行」の漢字の現在の中国語の発音を調べてみると「しゃい」とのこと。中国語も時代や地方によってずいぶん変遷があるものですね。
でね、私が一番面白いと思ったことは、現在私たちが発音している漢字の読み方の中には、今ではとっくに忘れ去られた遠い昔の中国の発音がまるで地層に埋まった化石のように残っているということです。
悠久の時を越えて、日本と中国との交流の歴史が今も息づいているなんて・・・不思議ですね。