形見のズボン
私は、形見の紺のズボンを穿(は)く度に
従妹の婿に入ったY君の明るい笑顔を
思い出す。でも次第に一緒に暮らす妻や
子供、そして舅と上手くいかなくなった。
そして従妹の妻と離婚をしたと風の便りに
聞いた。
それからしばらくしてY君は病で亡く
なったらしい。
50才前後だった。
二人に間に娘二人がいたが、既に娘達は社会人と
なっていた。
何時の間に夫婦の歯車が、同じ屋根の下で暮らして
いて狂い始めたのであろうか?
Y君が婿に入った頃の、初々しく笑顔が可愛らしく
今も私の脳裏に鮮明に焼き付いている。
数年前 伯父(舅)から「Y君のズボンが3本程
あるが、良かったら穿(は)いてくれ」と言われた。
Y君の体型は私より少し身長が低く
合うかどうかなと思ったが、ピッタリサイズであった。
だから、形見のズボンを穿くと、Y君が私にいつも一緒に
行動しているような気になる。
Y君、何時も私をしっかり見守ってね。
Y君がいなくなって早いもので10年の
歳月が過ぎた。