子供教育のパイオニア
人間は、一個の精神の中に、子供と大人を同時に持っている。
子供の部分で恋を語り、芸術に接し、科学・技術や芸術を創造する。
さらには、正義を語る。
だからこそ大人は、終生、自分のなかの至純な子供をひからびさせるで
ないのだが、その方法は少年少女期の教育にある、と伊沢は思ったに
ちがいない。少年少女期に、童心を純化しておけば、老いても
その人のなかの感受性は衰えない、ということであったろう。
その方法を、伊沢は、スポーツと音楽に見出した。
とくに良質の音楽は、その人を終生ひからびさせないもとになる、と
伊沢は考えたはずである。
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街道を行く 台湾紀行 司馬遼太郎 より
注)伊沢、伊沢修二(1851ー1917)のこと。明治の教育理論の開発者であり
特に音楽教育において圧倒的な影響を教育界に与えた人物。明治10年代
「小学唱歌集」を編集。