散髪屋の綺麗な女将
ほとんど毎日のように水泳教室、自己練習などで通っていて
なかなか散髪に行けない。自転車で通う途中に散髪屋がないか
探していたら、偶然にもプール場から500mくらい離れた
大きなスーパーの道路を挟んだ対面に理容室があった。
プールに通う友達何人かに聞いても、その理容室を利用したことが
ないという。
やむなく入ってみることにした。
何と「いらっしゃいませ!」の言い回しやら、若い女将の独特の
雰囲気から、外国人の女性が経営していることに気が付く。
アジア系、韓国でもない、インドネシアかフィリッピン系の
女性のよう。女将さんは、身長は150~160cmくらい。
ポリネシア系の風采ではないが、目鼻立ちが整った容貌で小奇麗。
席に座って取り敢えずカットのみをお願いした。
何処の出身かと尋ねると、やはりフィリッピン出身。
助手の若い、すらりとした女性は、自分の娘だという。
目鼻立ちが、ぱっちりしていて、お母さん同様南国特有の
綺麗さを持っている。娘さんも今理容師の資格取得に
取組中だそうである。
女将さんより身長はある。私より高い
かも知れない。女将さんの日本に来た最初の目的は、
スナックで働き、お金を自国の家族に送金することだった。
やがて日本男性との結婚、離婚、自立。
16才でマニラから鹿児島から入国し、早くも30年。
今は静岡県三島近辺で暮らしている。私がフィリッピンに
仕事で立ち寄ったのも、奇しくも30年前。
その当時、とてもフィリッピンの治安が悪くて、
夜間外出も出来ないし、昼間でさえホテル近辺しか歩けなかった。
マルコス大統領の時代である。彼女もそのことはよく知っており
「今は、違うよ。マニラも平和な近代都市だよ。」と胸を
張って自慢する。
それにしてもよく日本の国家試験(厚労省)を受けて合格したと
いう驚き、彼女の頑張りに目を見張った。日本語はひらがな、カタカナ
漢字の三種類があり、語順も英語とは全く違うし、「日本語を覚えるのが
大変だったでしょう。」と言うと、とても大変であったが、インドネシア
人が介護士として日本から要請されて、彼女らが日本へ来て、介護の仕事を
しながら、介護士の国家試験の勉強をしている姿をテレビ等で見て
女将も発奮したという。この店を持ってちょうど5年目だという。
根性のある、決して負けない逞しい生命力を彼女に感じた。
カットが終わって、次のお客様(お婆さん)に声がかかる。
その理容室を出て、寒い外気が少し頬に当たっても紅潮した
頬が心地よかった。また応援したくなる母娘であった。