割りきり賛歌（その１８）

押し黙ったプチドライブでした。

ラブホをあとにして
夜の環状線京橋の駅を
ぐるり回りながら

もともと
夕食はあまり摂らないと言うので
くどく誘えなくて

終着駅から始発駅に折り返すような
なかば不自然なタクシーのように
僕たちは信号機の度にホッとして

次の言葉を捜していました。

当時の彼女は
大学を卒業してから
これといった就活もせず

好きで関わっていた
音楽ミキサーの仕事を
ずるずるしていました。
それは常識外の薄給で
そればかりか
とんでもない労働条件だったようです。

まさにブラックな
会社でした。

夜もすがら
会社に缶詰になって
パソコン相手に音を拾ったり集めたり

根を詰めた作業に
没頭する毎日だったとか・・・

どう考えても
安く理不尽にこき使われているのが
わかっていても、

そんな激務の中だからこそ
自分を見失うことで
平静を保っておれたようなんです。

ああ
お互い何処までロムったんやろう？

そうしながらも
彼女はお金のことを
一切触れませんでした。

相手がどう思おうとこんなおっさんに
曳航してくれてた23歳の若さに
ほくはせめて小遣いをあげることで

楽に
なりたかった。

狡い。

これじゃまるで
僕はが多重人格やん。

でもそれとは、
まぎゃくの言葉しか
出ていませんでした。

「今度はもっと早い目から
近場にドライブしませんか？」

これもまた唐突な提案でした、

「・・・ぃぃ・・・ですよ(..)」

えっ？
いいの？

僕はこの日
この不思議な女性に
返り討ちに合いっぱなしで

とうとう彼女が指定した場所に
車を停めていました。

そこで
ぼくはもう何の註釈も弁明もなく
財布から諭吉を二枚出して

彼女のショルダーバッグのポケットに
差し込んでいました。

(ごめんね)

～つづく～