ゆり子が高校一年の夏

同級のたかおと
好奇心でセックスをした。

好奇心だった。

本人達は
たったの一度だけだったと
言い訳をする。

でもそんなことはどうでもよくて
肝心なのはその結果

妊娠したという事実だった。

そしてさらに
事態を悪化させたのは
ゆり子とたかおが
府内でも有数の進学校で
その中でも優等生を信望されていた
ということだった。

幼い二人は
ありえない醜聞をひた隠しにして
決断を後回しにした。

後回しにすればするほど
ゆり子のお腹が大きくなってしまって。。。

でもよゐこだから
親にも誰にも言えない。

やがて
堕胎もできなくなるまで
赤ちゃんが成長して

あげくの果てに

ゆり子とたかおは
四国にある田舎のお婆さんのところへ
駆け落ちをしてしまう。

それはまさに
親にとって

青天の霹靂
だった。

まさかうちの娘が
まさかうちの息子に限って

子ども達をなだめすかして
連れ戻してあらためて

一家騒然。

舞い戻った家には

ゆり子の兄と両親
そして祖父がいた。

そこで
まとまったひとつめの意見が

秘密工作しよう
だった。

親は兄に口止めし
家庭教師をしてもらっている
ゆり子の担任に
内々に箝口令を引いて

病欠で休学扱いにしてもらった。

父親は
なにかと顔の広い義理の兄に泣き付いて
秘かに入院できる産婦人科を
紹介してもらう。

そして
祖父が両親にこう言いはなった。

「なんてみっともないことを
してくれたんや！
御近所樣に恥ずかしい。」

16歳の娘としては
勿論褒められた行動ではなかった。

しかしここで彼らは

兄と両親
そして祖父までもが

このときの赤ちゃんを
邪魔者扱いにしたことは

それ以上
あまりにも
人でなしな所業だった。

当初は両家の親同士での話し合いで
丸く収まりそうだった。

でもそれは
たかおが18歳になってから籍をいれて
正式に婚姻するまで
ゆり子と赤ちゃんを引き取って

先方でゆり子には学校をやめて
赤ちゃんの世話をさせる
というものだった。

そこでゆり子の母親が切れた。

「なんでわたしの娘だけが将来をすてて
家に閉じ込められなあかんのか？」

母親には
成績優秀な娘の人生が
台無しなるように思えた。

とうとう子どもをさておいて
両親同士が決裂した。

不協和音は始まっていた。

たかおは休学中のゆり子の為にと
授業の内容を病院に来て毎日報告した。

が、
結局その母にしてその子ありだった。

無邪気に学校の話をするたかおに
ゆり子が切れた。

「なんであんたばかり～
わたしも勉強したいのに不公平や！」

そこに赤子を宿しても
母性はなかった。

当事者達にも
産まれてくる子は
邪魔者になっていた。

恥ずかしいことをした妹ー
親の夢と娘の将来を壊す赤ちゃんー
世間樣に顔向けできない孫娘ー

そして
自分の自由を奪う命ー

すべてが
赤ちゃんが居なければ
解決する話しのようになっていた。

そこで母親が考えた苦肉の策は
弁護士をいれて
産まれてくる子を里子に出す事だった。

究極は
娘の戸籍を汚さない？為に
父方のお婆さんの籍で
養子として出産させて

1つ身になってほとぼりが覚めてから
また籍を戻した。

確信犯だった。

やがて、
元気な男の子は
ゆり子にも
祖父母にも
祖祖父や伯父にも

祝福はおろか
顔を見られることもなく

里親の元へ届けられた。

今頃はもう
12歳になっているだろう。


その後、
ゆり子は望み通り勉学に励み
助産師の資格をえて

赤ちゃんを取り出す仕事についている。

端から見る限り
悪ぶれも悔恨の様子もなく。

そんな過去があったことなど
想像もできない。


すくなくとも僕には
彼等が
なにかかけかえのないものを
置き去りにしてきたと

思えてならない。


本人の自由
母親の娘に対して思う夢や幸せ
血を分けた子であり
孫であり曾孫である

無垢な赤子を棄てたこと。

いつしか
彼等にその人でなしの理屈の
代償を払って貰いたいと

思う。




人の世に
神も仏も
在らずとも
人の心は棄てるべからず




う～(*´ω｀*)