秘太刀ー孤狼剣
50代後半  北海道(道北)
2018/08/27 7:10
秘太刀ー孤狼剣
風が舞う


じりじりとした殺気が

剃り残しの目立つ

月代を貫く


喉元にピタリと狙いをつけられた

切っ先から

吸い寄せられた様に目が離せなくなった


まずい

このままでは・・


美しい青眼だった

けして頑健とは言えない体躯なのだが

すらっとしたその佇まいからは

およそ想像もできない

強靭な殺気が放たれている


「見誤ったか・・」

悔やんだ所でもう遅かった


いつもの飯屋で

ちょっと一杯引っかけて

暖簾をくぐって通りへ出た時だった


ふいに足をとられぐらついた

体勢を立て直そうとした

その時

刀の鞘が誰かの足にぶつかった

酔いが回っていたせいか

いつもの怠惰な生活のせいか

もんどり打って倒れ込んだ


「あっ!これは失敬」

そう言いながら

ぶつかった男は手を差しのべてくれた

若い侍だった

大方、道場で稽古した帰りと言うところだろう

揉み上げに面擦れができている

剣士ならば一目でわかる


自分も昔は励んだものだ

剣術で藩随一の使い手になる

それだけを胸に

朝から晩まで

ひたすら稽古の日々だった


それが今では

こんな食い詰め浪人だ


侍とは悲しい生き物だ


所詮

藩が無くなってしまえば

奉公先が無ければ

ただのいらない人間だ・・


藩はお取り潰しの憂き目に合った


きっかけは

跡目争いだ


家老派が推す世嗣と

江戸藩邸派が推す次男

藩の様々なしがらみを巻き込んだ争いは

やがて目付けによって幕府の知る所となり

断罪された


地方の

外様の小藩等は

幕府にとっては

正にとるに足らない

どうとでもなる存在に過ぎないのだ

藩主や家老や

首謀者達は友藩や

血縁、一族の藩の預りの身となった

事実上、幽閉扱いだが

なんとか死なずに済んだらしい


私の様な末端の藩士は

彷徨い

やがて食い扶持を求め

江戸へ流れ着いた


それからは

人づてを頼りなんとか生きて来た



つづく・・のか?
コメントする

…━…━…━…

無料会員登録はコチラ

…━…━…━…