愛犬、逝く
40代前半  長野県
2017/09/16 0:01
愛犬、逝く
朝、身内の人間が部屋に飛び込んで来て、犬の様子がおかしいとボクを呼んだ。

急いで向かうと、目を見開いたままぐったり横たわっている。息をしていない。
身内が薬を与えていると、すーっと身体の力が抜けていったという。

手分けして、心臓マッサージと人工呼吸をする。
外がうるさい。サイレンが鳴り、放送で何かを呼び掛けているようだったが、それを聞いている余裕は無かった。

犬の舌が口からだらりと垂れる。舌を戻して口を塞ぎ、鼻から息を吹き込んで人工呼吸をする。
身内は、涙声で犬の名前を呼びながら、心臓マッサージを続ける。
どのくらいの時間続けたか分からない。胸に耳を当てて鼓動を聞こうとするが、自分の心拍音の方が大きくて聞こえない。
瞳孔が開いている。
愛犬の意識はかえらなかった。


目の前の出来事が信じられなくて暫く呆然としていると、身内が葬儀屋を探すようにボクに頼む。その切り替えの早さが理解できなかったが、そのまま何もしないでいる訳にはいかなかった。

候補は3件。全て訪問火葬。電話を掛けて聞くと、体重30kg近い愛犬に対応してくれる業者は1件だけ。電話対応してくれた男性によると、犬の遺体は腐敗が早く、ウジが湧くのも早い。すぐに火葬してあげた方がよいとのことだった。家族立ち合いの元で火葬してもらうようお願いをした。

(後で知ったことだが、人間は法律により死去後24時間は火葬が出来ない。業者によっては、動物も『家族の一員』と考え、人間と同様に24時間以内の火葬はしないところがある。一晩のお別れもできなかったことを後悔している。)

ボクが業者を探している間に、身内が遺体の処置をしていた。体液を拭き取り、死後硬直の状態で棺桶に入らなくならないように、足を折りたたむ。


次にボクは、お世話になった動物病院へ電話をした。診療時間中だったが、主治医の先生に代わってもらい、亡くなったことを報告。涙声になってしまい、上手く言葉が出てこなかった。先生からは、お力になれなくて申し訳ありませんと言われた。

薬はまだ半分も残っている。翌日また点滴をしてもらいに行く予定だったが、もう行く必要はない。

その間、身内は、役所へ電話して登録の削除してもらっていた。


業者が来るまでに、愛犬の身の回りを片づける。ただ、何をしたかよく覚えていない。涙が溢れ出てくるため、何も無かったことにして、無心で手を動かしたことは記憶している。

愛犬の傍を通るとき、その顔は眠っているようにしか見えなかった。いつも通り布団に包まれていて、むくっと起き上がってくるような気がした。

金具の鳴る音が聞こえた。愛犬が歩いたときや、身体をブルブルと震わせたときに、首輪に付いた金具同士が当たって音がする。まさかと思って視線を向けると、身内が首輪を外しているだけだった。
(首輪は、一緒に火葬できない。)


訪問サービスの業者がやって来た。いつも愛犬と仲良くして下さる女性。愛犬が玄関の扉を開けて出て来ないことを不思議に思ったようで、今日は居ないんですか?と聞かれた。事情を話す。すると彼女は、愛犬の頭を撫で、線香をあげていってくれた。


葬儀屋を待つ。
ハエがたかってくる。口の中に入ろうとしているのを見つけ、慌てて追い払う。口の周りにガーゼを巻く。こいつらは、玄関の扉が閉まっていても、隙間から這いずって侵入してくる。

実は数日前からハエが集まってくる状態。愛犬の身体を拭いたり、寝床の寝具を洗濯したり、玄関を掃除しても数は減らなかった。
ペットボトルを利用してハエ捕獲器を作り、設置したが効果は薄い。

(続きは、後日追記する。)
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