からっぽの玄関
40代前半  長野県
2017/09/17 0:24
からっぽの玄関
朝起きて玄関へ行く。
愛犬の姿はない。昨日まで寝床があった場所は不自然に空いた空間になっていて、花が飾られている。向かいの棚の上には写真と遺骨がある。
線香をあげる。朝食の用意はしなくてよいのだろうけど、催促されそうなので用意してお供えする。

出かける支度を済ませて、玄関で靴を履く。靴ベラを戻す。そして、いつもなら「■■ちゃん、行ってくるねー」と声を掛け、頭を撫でるのだが相手がいない。
「行ってきます」と写真に手を合わせてから家を出る。見送りはない。

昼食の時間。
油断していた。昨日のことを思い出して、目頭が熱くなるどころか、痛い。涙がにじんでくる。

用事を済ませ帰宅の途に就く。帰り道、買い物のために店へ寄る。思わずペットコーナーへ足を運びそうになる。そうか、もうおやつも食事も買わなくていいんだと認識した。

自宅に到着。
いつもなら器用に玄関の扉を開けて出迎えてくれる。これが当たり前だった。看護していた数日の間は、扉を開けて出て来ることはなかったけど、寝床で横たわったまま首だけ持ち上げて、迎えてくれた。今日からはそれすらもないのだ。

午後は、動物病院へ行って点滴を打ってもらう予定だった。また涙がにじんでくる。

台風の備えをする。
敷地のあちこちでドライフードの袋が目に入る。この袋、かなり頑丈なため、カバーやシート、廃金属入れなど色んなことにリユースしているためだ。目にするたび複雑な心境になる。

愛犬の夕食の時間になると、自然に身体が準備しようとしてしまう。

自分の夕食を済ませる。食後に、愛犬の食器を片づけていたため、つい玄関へ行ってしまう。

自分の皿を洗っていると鳴き声が聞こえた気がした。よく、植え込みや石垣で身動き取れなくなっては助けを呼ばれていたからだろうか。いないと分かっていても見に行ってしまう。

風呂に入る。回想して長湯をしてしまった。





姿が見えないのは、いつものように玄関の外で番をしながら涼んでいるからではないのかと思ってしまう。名前を呼んでみる。まだ信じられない。

寝床のあった玄関へ様子を見に行くのが行動パターンになっている。これも、いつか無くなるのだろうか。記憶が風化するのが恐い。


悲劇の主人公みたいなものを演じたくはないけど、当分引きずりそうだ。
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