こう言ってしまうと身も蓋もないですが…
僕が日記に書いた怪談って、正直、どうとでも解釈できるというか、「気のせい」と言われればそれまで、という話ばかりでした。

例えば金縛なんて、身体が眠っているのに脳が覚醒していり状態、ということで、霊現象とは無関係でも起こりますし、そんな時はありもしないものを見たり聞いたりした気になる事だってあり得ますから。


ただ、どうにも説明しようのない事だってあるわけで。



子どもの頃、僕はあまり体が丈夫なほうではなく、また精神的にも弱くて、学校を休みがちでした。

…メンタル弱い部分がまんま息子に遺伝してるのが、ちょっと情けなくもなるんですが…

ともかく。

両親とも仕事をしていたので、学校を休んだ日はひとり寝室に横になっていました。
部屋は二階にあり、トイレとか行きたくなると、二階にはないので一階に降りなければならなかったわけですが、いつもギリギリまで我慢していました。

熱があると動くのが億劫だ、という事もあるんですが、別の理由もありました。

一階に降りるのが怖いからです。

何が怖いかって、僕ひとりでいるときに限って、戸棚やドア、襖などが、ガタガタ小刻みに震え、音を立てるんです。

それに、何となくザワザワした気配のようなものを感じて…


ある日、ひどい腹痛と高熱で学校を休んだ時のこと。

とにかくその腹痛というのが尋常じゃなくて、下痢も酷く、ずっとトイレにこもっていたほうがいいんじゃないかという程、間断なくトイレに行きました。

洋式トイレなら座って用を足せるのでまだラクだったかも知れませが、当時の我が家は和式でした。
正直、40度の高熱で朦朧としたなか、和式トイレにしゃがんで用を足すというのは、なかなか拷問に近い感じです。

なので、用を足したら布団に戻り、また催したらトイレへ…


そんな有様なので、仕事に行く前に母親は一階に僕の布団を敷こうとしましたが、僕は二階のままでいいと言ってききませんでした。

なんせ、一階が怖いので。

ともかく、朦朧とした中、何度もトイレに通いました。

そして、何回めか、何十回めか、用を足している最中、突然目が霞んだかと思うと、スーッと視界が暗くなり、何も見えなくなったのです。

高熱と、下痢による脱水症状のため、一時的に目が見えなくなったようです。

とにかく、僕は手探りでトイレを出て、トイレから一番近い和室に倒れ込みました。

当時の僕は一時的に、なんて思わず、失明してしまったんだと思い込みました。

そして、恐怖と悲しみで、涙が溢れました。

……

どれだけの時間、そうやって横になっていたのかわかりませんが、どうやらいつの間にか眠ってしまったようです。

目をあけると、光が戻っていました。
夕方の薄暗い部屋。
窓から差し込む光が、部屋の中を照らしています。

僕はまだ頭が働かず、しばらくボーっと天井を見上げていました。

やがて、部屋の襖がガタガタと小刻みに音を立てていることに気づきました。
そして、たくさんの何かの気配が。

僕はガバっと起き上がりました。

そして、見ました。

僕の周りを、民芸品の人形たちがぐるっと取り囲んでいるなです。


この民芸品の人形たちは、母方の祖母が作ったもので、土産もの屋さんなどに卸して、販売していたものです。
その一部を祖母がくれたのです。

これを見た瞬間、ザワザワの気配の正体がばっきり分かりました。
この人形たちです。

そしてこの時、人形たちが僕を心配していたのが、感じられたのです。


ジワリと心に沁み入りました。


それからすぐに、腹痛はおさまりました。
熱もスッとなくなりました。