哈爾浜(ハルピン)の危険な第一夜…紅い蛍②
何を血迷ったか、自ら進んで日本オオカミの檻の中に入ってきた通訳の栄欄。
そんな彼女を脅かし軽く弄んでいた僕だが、
ふと、とんでもない事を思い出して背筋が凍りついてしまった。
「そう言えば栄欄…おまえどうやってこの部屋に入った?」
「魔法を使いました(笑)」
直前まで腕を突っ張り、顔を強ばらせて僕を怖がっていた栄欄は、
僕の腕から逃げると、ピースサインを見せてクスクス笑っている。
「そうだ、服務員だ!ヤツはどうした?見つからなかっただろうな?」
中国のホテルには、日本ではあり得ない恐ろしい規約があって、
結婚証明書を持たないカップルがホテルで同室したら、官憲に逮捕されてしまうのだ。
例え新婚旅行であっても、証明書を忘れたら同室は許されない。
それを監視する服務員と呼ばれる小役人が数人、
ホテル内を巡回しているのだ。
「服務員?大丈夫です。五〇人民元で買収しました。カギも開けてくれましたよ」
「え?たった七五〇円でか?」
「はい、良くないことですが、彼らには二日分の給料ですから」
栄欄は、クスクス笑いながら、ベッドにうつ伏せになり、ウォークマンをかまい出した。
喧嘩の仲直りのため吉林で買ってやったMDウォークマンだ。
余程気に入ったようで片時も離さない。
なんてヤツだ。
呆れると同時に、栄欄の機転が頼もしく思えてきた。
僕は吉林の町中や列車の中で、幾度となく栄欄に助けられている。
もし、ここが日本で同じ情況なら、
僕は迷いもなく全身全霊を駆使して栄欄を口説き、溶かしにかかっていただろう。
でも、ここではそうは行かなかった。
賢く優秀な通訳である栄欄は、中国語がまるでダメな僕にとって一本きりの命綱なのだ。
彼女とトラブルを起こす事だけは避けなければならなかった。
もう一つの理由は、僕は本気で栄欄に魅せられていた。
でも、それは普通の恋愛感情とは少し違って、上手くは言えないが、
二人はずっと以前からお互いを知っていた気がするのだ。
栄欄のベッドホンから、
甘い女声ボーカルが洩れ聞こえてくる。
短いTシャツが少し上ずり、栄欄の背中が見えていた。
腰骨から脇腹まで、まるで砂丘のような滑らかなラインに僕は思わず息を呑んだ。
「栄欄…」
「どうしました?安心したでしょ?」
「明日までここにいるの?」
「由宇が優しくて、オオカミじゃなかったらね。でも少し迷っています」
「オオカミなんて言葉のアヤさ。どんなに優しくしてても、最後は女だってオオカミになるんだよ」
「えっ、私もオオカミになるのですか?」
吉林で通訳の契約をする時、紹介者から言い渡されていたことがもう一つあった。
栄欄は未通女だから、厳しく自重すること。
「栄欄キスをするから目をつぶってごらん。それでキミは部屋に帰るんだ」
「待って!キスは恋人同士がすることでしょ?」
「僕が恋人じゃイヤか?」
栄欄は、ほんの少し躊躇ってから小さな声で答えた。
「イヤじゃありません」
-続-
ちょっと、まどろっこしい展開がもう少し続きますが…
この後、栄欄との交情の中で、彼女の驚くべき素姓が明らかになって行きます。
コメント
2017/12/30 10:17
3. ツブ猫のアニキ。
![[ウッシッシ]](https://img.550909.com/emoji/ic_face_foppish.gif)
おはようございます。
お互いに連載ものですねー。
自分は久しぶりに創作ゆえ、
どこまでイメージが膨らむのか、
ワクワクしながら、
描いています。
返コメ
2017/12/30 10:13
2. >>1 銀毛狐 …真野の草原遠けども面影にして見ゆといふものを…さん
満族は清国を支配した北方民族で、女性は色白大柄で美人が多いですよね。
僕も一人と少しの間付き合いました。
返コメ
2017/12/30 9:59
1. お疲れさまだす<(_ _)>
そいえば学生時代たまに遊んだりしとった満民族の留学生の女性思い出しましたわい(ΦωΦ;)~゜
返コメ