【美処女栄欄】の覚悟と計算!…紅い蛍③
60代前半  東京都
2017/12/31 8:44
【美処女栄欄】の覚悟と計算!…紅い蛍③
ハルピン二日目の朝、中央大街のロシアンレストランで朝食を取った後、

栄欄は僕を残して町へ出かけてしまった。



五〇一号室へのルームコールは、午後二時を過ぎても繋がらない。


栄蘭はどこへ行ったのだろう?

また呑気にブティック巡りでもしているのだろうか。見知らぬ異国での放置プレイは辛かった。 


ベッドの上掛けを直していると、中から栄蘭の白いソックスが出てきた。

対のもう一つはベッドの下で見つかった。

昨夜、彼女のジーンズを引き抜いた時に一緒に脱げて飛んだのだろう。


栄蘭は冷え性だと言っていた。厚ぼったいふかふかの毛糸のソックスを畳んで紙袋に入れながら、僕は激しく自分を責めた。  


世の中で一番大切な女。それは紛れもなく栄蘭で、
それは僕が日本に戻ってからだって決して変わることはないだろう。


それほどまでに大切な彼女をを扱う自分が、このザマじゃ話しにもならない。


ドレッサーの洗面器にも、ヘヤカーラーが二個放置されていた。


窓を閉め切り空気の流れを絶った部屋には、昨夜の栄蘭の香りが生々しく残っていた。


「女が服を脱ぐと、本当に人が変わっちゃうのね。由宇って..」

栄蘭は呆れ顔でそんなことを言っていた。


もうこの部屋に来ることはないだろう。



僕はため息を吐いてベッドに寝転がった。


カヨコの舟が吉林の東方賓館に届くのは、四日後の八月二一日。


吉林行きの列車の切符は一九日に取れていた。本当に栄蘭と二人きりになれるのは今日と明日しかない。  


日記を書き終えると、僕はベッドに横になった。

やり切れなさ歯痒さと、寝不足で朦朧とした頭の中に、

栄蘭が何度か言いかけながら口をつぐんだ言葉が浮かんできた。



最初は吉林大橋で河灯(精霊流し)に出くわした日だった。

栄欄は僕が姉カヨコの存在を隠していた事に激怒した。


次は、彼女の祖父が日本軍との戦闘で戦死したと言う事。


昨日は、終戦で残された人の悲劇らしき事を話しながら、かなり興奮していた。


でもそれらは、栄蘭が生きている現代の話ではない。

文革にしたって、彼女が生まれたばかりの頃の話だ。


それにも増して引っ掛かるのは

「日本人日本人って..私だって日本人だよ」


栄蘭が僕との絡みの最中に発したのこの言葉だった。

ついさっきもレストランで、私だって半分は日本人だと言っていた。


祖父が日本軍との戦闘で戦死したと言うのが事実なら、

彼女に日本人の血が流れているとは考えにくい。


口から出まかせなんだろうか?いや、それはない。


彼女は大学の夏休みで吉林に帰省中だと言った。


母親が三年前に他界して父親が渡米中だと言うなら、

栄蘭は祖母を頼って帰省したことになるのだが…




突然電話のベルが鳴った。
栄蘭かも知れない!と受話器を取ると知らない女だった。

ねっとりした中国語で何かまくしたてている。何かのセールスか春を売る女だったのだろう。

ソリーノーセンキュウと言うと意味が通じたのか、いきなり電話が切れた。 


     ★☆★


ドアがノックされたのはその直後だった。


ドアスコープを覗くと、両手に大きな手提げ袋を三つ下げた栄蘭が立っていた。


僕は慌てて周りを見渡し、ドアを開けるなり思い切り栄蘭の手を引いた。


「誰にも見られてないな?」


「鈍いわね。五〇人民元札二枚の意味が分からなかったの?」

そうか!さっきレストランで栄蘭に手渡した五〇人民元札二枚は、服務員対策だったのだ。


「二日だから百元札じゃなくて、五〇元札二枚だったのか?」


「もう!鈍いんだから‥当然気づいてくれてると思ったわ」


栄蘭は部屋に入るなり肩で大きく息を吐き、僕に大きな手提げを一つ手渡した。

中身は食糧のようだった。


「どこに行ってたんだ?ひどく心配したよ」


「ごめんなさい。和興路の大学村まで行って本を探してたのよ」


栄蘭はそう言いながら、部屋の奥の小さなデスクの上に三冊の本を積み重ねた。


装丁に痛みがあるのでどうやら古本らしい。

「東洋経済史」
「文革以降の中国経済」

どちらも日本の本だった。

あと一冊は日本のファッション雑誌。それは去年の四月号だった。


「和興路の大学村には不真面目な学生も多いからね。必要な本が安く手に入るのよ」


栄蘭はそんなことを呟きながら、デスク回りに自分のコーナーを作り終えると、いきなり真顔で僕に向き合った。


「ねえ由宇、あなたとの契約はあと六日よ。吉林に戻ってからは四日しか残ってないわ。


あなたの計画を終わらせて、また哈爾濱国際空港に戻って新潟行きに乗るなんて、きっと無理だわ。だから私、決めたの!」


「そうか、二日間この部屋の住人になるのか?僕は大歓迎だよ」


「待って。私も覚悟の上でオオカミの檻に入るんだからね!由宇にもお願いがあるの」


「分かったよ。君には手を触れない!努力してみる」


「ぜんぜん違うわ。私の言うこと聞いていないわね。
六日経ったからってね、私には由宇を放り出すなんて出来ないわ。
だからね、由宇には私のこの課題のレポート手伝って欲しいの。
日本語記述で三千字くらいよ。由宇ならできるでしょ?
その参考書を探してきたの」


「そのレポートが終われば、契約を延長してくれるのか?だったら、徹夜でも仕上げるよ」


「ありがとう。七日目以降の延長料金とか考えないでね。いらないから」


「それはダメだよ。逆に割増をつけるよ」


「だから、いらないって言ってるでしょ!それに‥」

「それに‥まだ何かあるのかい?」

「知らない部屋で一人で寝るのって、怖くてもういやなの!」

栄蘭は眉根を寄せ唇を少し尖らせた。


彼女の一瞬の表情の変化に、僕はふっと肩の力が抜けた。

「昨日はごめん。キミにあんな乱暴をしてしまった」

「いいの。私こそ由宇を突き飛ばしてごめんなさい」


「一番大切な人を大切に扱えない僕は日本人の恥曝しだ」


「違います。往生キワありませんは、中国女恥ずかしいです」


「栄欄、日本語ちょっと変だよ。往生キワありたませんじゃなくて『往生際の悪い女』が正しい」


僕は笑いながら栄蘭の肩に手を置いた。


紳士ぶることが紳士ではない。

女がためらっていれば、そんな心を溶かし突き通してやるのも大切な男の役目だ。


失うことが怖くて踏み切れず、結局失ってしまう例はいくらでもある。


抱いてやろう!抱いて後悔するかも知れない。でもそれは抱かないで後悔するより遥かにましだ。

「今なに考えました?ねえ、なに考えてたの?」


「三千字のレポートのことさ」


「うそですね。私オオカミの目わかります。昨日覚えました」


そのひと言で一気に堰が切れた僕は、思わず栄欄
を引き寄せ、剛力で抱き締めた。



       -続-




次回は、新年早々アダルト投稿になるかもです。


それではみなさま、良いお年をお迎え下さい。


      -つぶ猫-



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コメント

60代前半  東京都

2018/01/01 20:50

18.  >>17 Kou+さん

日清日露戦争…戦争で得たものは、戦争で失う。
でも、それだけでは済まない。多くの民が巻き添えを食って命を落とす。

戦争って、そう言う事だよ。

40代前半  京都府

2018/01/01 15:21

17. 満州国。吉林省。

日露戦争。

諸行無常の鐘の声。

( 僕が感じたインスピレーションです )

60代前半  東京都

2018/01/01 1:52

16.  >>15 海斗さん
明けましておめでとうございます。

やはり…と言う展開です。はい。
こうしないと、僕も読者さんもストレスになるんですよね。きっと(笑)

60代前半  鹿児島県

2018/01/01 0:40

15. 
あけおめ…。

今年も日記期待しています。

やはり…という展開になりますなぁ(笑)

60代前半  東京都

2017/12/31 23:55

14.  >>13 Soraさん

こんばんは。今年もあと8分だよ。あっという間だね。

「女が服を脱ぐと……」この長文の中で、ここに反応するか???(笑)

30代前半  埼玉県

2017/12/31 23:35

13. 
「女が服を脱ぐと、本当に人格が変わっちゃうのね。由宇って..」
↑↑
ここでプッと笑う私w

でも、どさくさでレポート書かせたり、栄欄さんもなかなかヤリますね!

60代前半  東京都

2017/12/31 23:23

12.  >>11 フッキーさん

年を跨いで、栄欄さんを跨ぐことになりそだ。

フッキーも今年はコメいっぱいくれてありがとうね。

40代半ば  宮崎県

2017/12/31 22:56

11. ( *´艸`)次は、アダルト?

年またぐのね~

楽しみにしとるよ[指でOK]
来年も、ヨロピンコ~!(b^ー°)

60代前半  東京都

2017/12/31 20:46

10.  >>9 ヤックルさん

こんばんは。いつもありがとう。

ツンデレの寒がりネコ[猫]に邪魔されながら、

続きは新年早々にアップしますね。

30代後半  岐阜県

2017/12/31 20:11

9. 楽しみにしてま~す(*^▽^*)

良いお年をお迎え下さいね♪

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