【双子のベビーカー】①出会いは子猫が縁だったんだね。
心に深い闇を背負った少女だった。
後で分かるのだが、美奈の心の傷の殆どは、彼女が幼い頃父親から受けた様々な仕打ちによるものだった。
そんな美奈が、故郷の東北の小さな町を捨てて上京してきたのは、
彼女が地元の高校を卒業したばかり、まだ10代だった。
僕が美奈と出会うのは、それから2年後のことなのだが、
きっかけは、僕が8年前にここで書いた何気ない猫日記だった。
「はじめまして。日記読みました。実はいま私のアパートの裏庭で子猫がずっと泣いているんです」
その日、僕が投稿した日記は、「ゴミ箱の中の天使」
今は14才になった飼い猫のツクネとの出会いを書いた日記だった。
美奈からのサイトメールが届いたのは夜の10時過ぎだった。
コメ欄が賑わっていたので、僕は彼女からのメールをしばらく放置した。
実は、山陰地方の女性からも同じようなメールを貰っていて、少し気が滅入っていたのだ。
僕は、自分が目の当たりに遭遇した幼いツクネとの出会いを書いたのだけれど、
日本中の捨て猫に関われるほどの器量も暇も持ち合わせてはいない。
気落ちしていた僕に、美奈から二度目のメールが入った。
「2階の窓から見えるんです。私、どうしたらいいんでしょう?」
そのメールには、彼女の携帯番号が添えられていた。
プロフによると、美奈の住まいは、千葉寄りの東京都だと言う。
西側の僕の家からは車で1時間ほどの距離だ。
「困ったね。雨降ってるだろ?美奈さんはどうしたいの?」
「三茶さんならどうします?」
いきなり振られて、僕は考え込んだ。
目の当たりに遭遇したら、僕は無視はできないだろう。
でも、山陰の女にしても美奈にしても、
彼女達の生活環境も性格すら僕はまるで知らない。
「オレなら?…そだな…見捨てると一生後悔しそうだからとりあえず部屋に保護するかな。その後は…」
言いかけた僕の言葉を、美奈は大きな声で遮った。
「じゃあ、私もそうします!」
「わかった。だったら、とりあえず段ボールにタオル引いてお風呂場に保護しなよ」
「はいっ、わかりました!」
多分、美奈は僕とコンタクトを取る取らないに関わらず、子猫を保護することは決めていたのだろう。
僕を巻き込んだのは、おそらく彼女の承認欲からなのだ。
その電話を最後に、美奈とのやり取りはプツンと途絶えた。
電話での彼女の印象は、あまりパッとしない東北訛りが抜けない若い女だった。
★☆★
その8日後、僕は美奈とメスの子猫「リン」に対面することになるのだが…
美奈の初対面の印象は、
若い女に有りがちな華やかさはあまりなく、化粧気もない華奢な女だった。
ただ、東北人特有の抜けるような肌の白さがやけに目立った。
部屋は、いかにも若い女らしいキラキラ感はなく、ガランとして家財道具も少なかった。
リンは、そんな部屋の隅っこに置かれたふかふかのおうちの中で固まっていた。
小さな体に大きなピンクの首輪がさまになっていない。
「二か月くらいかな?」
ピンクの首輪には「Rin」とローマ字で書かれていた。
覗き込むと、リンは僕に戦慄して震え出した。
「心配すんな。おじさんは女の子の味方だ。猫でもな(笑)」
小さな頭を撫でると、リンは、首を引っ込めてなおさら小さくなり、
「にゃー」と美奈に助けを求めた。
「飼うって決めたみたいだね。良かった」
「お留守番が多いから、リン大丈夫かな?」
「美奈…仕事は?」
僕が聞くと、美奈は少し言葉に詰まった後に、
「午後からの仕事です」と答えた。
午後からの仕事…少し引っかかったけれど、僕はそれ以上の詮索はしなかった。
「三茶さんて、少し恐い人かなって思っていました」
「恐くはないけど、別に優しくもないよ。普通だろ」
「普通ってだけで、十分優しいと思います」
美奈は、そう言うと黙り込んだ。
ふと目を見ると、睫毛に絡んだ大粒の涙がキラキラと光っていた。
普通が優しい…?怪訝な顔をしていると、美奈はやっと重い口を開いた。
どんな小さな生き物でも、生きた命を飼うこと。
それを暖かく人に認められること。
彼女の人生には、そんな当たり前のことが一度たりとも無かったと言うのだ。
僕には十分衝撃的な、そんなことを、美奈は笑いながら言葉にした。
笑いながら…
それが、逆に彼女が育った闇の深さを際立たせ、僕の背筋を寒くした。
どこか暗い影を背負った、まだ大人には成りきれない中途半端な女、美奈…
彼女と僕の長い8年間は、こうして始まった。
-続-
※写メは訳あって、うちの猫「つくね」です。
コメント
2018/06/06 12:47
27. >>26 てんこさん
キリギリスにちょっかい出すと、ドカンと雷落とされるんで、じっと我慢のツクネです(笑)
返コメ
2018/06/06 7:04
26. おはようです。
つくねちゃん可愛いね。
コメント意味不ですが
読みごたえのある日記に
酔いしれてます(╹◡╹)
返コメ
2018/06/05 12:22
25. >>24 ツブ猫
さん
ヘイっ。了解いかした。(笑)
返コメ
2018/06/05 8:33
24. >>23 赤毛のOKOMA(⌒~⌒)さん
寝坊したっ!
おはよう
焦っても仕方ない。電話一本入れてゆっくりしよう。
そろそろ梅雨か。おこまもオレも、梅雨空にメゲずに頑張ろう。
返コメ
2018/06/05 7:01
23. >>11 ツブ猫
さん
おはようございます。
気温差に気をつけてよ~
でさ~おこまか弱い女だからパパおこまを保護してくれないかな???(笑)
返コメ
2018/06/05 1:27
22. >>19 龍(ロン)さん
こんばんは。寝落ちしてて、ついさっき目覚めましたよ。
ま、この話の顛末はおいといて…
明日、故郷に帰した約200匹のキリ達に会ってきます。
うちに残した10匹は、誕生直後の体重の50倍ほどに成長しています。
自然界より半月ほど早く、今月半ばには鳴き始めるでしょう。
返コメ
2018/06/05 1:07
21. >>18 海斗さん
そうですね。
タイトルがこの話の結末を暗示しています。
ま、僕はいつでもそんなにガツガツしてませんから(笑) ←ホントか?
返コメ
2018/06/05 1:03
20. >>17 YADA子さん
やべ、寝落ちしてた!
男と女って、ややこしいですね。
色んな釣り合い、不釣り合いがあって…それでも絡み合います。
そう、一筋縄ではいきません。
返コメ
2018/06/05 0:04
19. ツブねこさん(*^ー^)ノ♪
こんばんは(^-^)/
続編?があるみたいなので
日記コメは そのあとに (’-’*)♪
事実は小説よりも奇なり(´・ω・`)
多分こんな感じになる予想だけどね(^^)
てことで、キリギリスが大きくなってる(*´∇`*)
あと少しで 良い声が出るのかな(’-’*)♪
自然に返した子たちも
元気で居ると良いですね~(^^)
返コメ
2018/06/05 0:04
18. >>16 ツブ猫
さん
表題からして…
そのような展開になるかと、失礼しました。
でも今は、ツブ猫とだけの生活は現実。
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