【双子のベビーカー】①出会いは子猫が縁だったんだね。
60代前半  東京都
2018/06/04 6:19
【双子のベビーカー】①出会いは子猫が縁だったんだね。
心に深い闇を背負った少女だった。


後で分かるのだが、美奈の心の傷の殆どは、彼女が幼い頃父親から受けた様々な仕打ちによるものだった。


そんな美奈が、故郷の東北の小さな町を捨てて上京してきたのは、

彼女が地元の高校を卒業したばかり、まだ10代だった。


僕が美奈と出会うのは、それから2年後のことなのだが、

きっかけは、僕が8年前にここで書いた何気ない猫日記だった。


「はじめまして。日記読みました。実はいま私のアパートの裏庭で子猫がずっと泣いているんです」


その日、僕が投稿した日記は、「ゴミ箱の中の天使」

今は14才になった飼い猫のツクネとの出会いを書いた日記だった。


美奈からのサイトメールが届いたのは夜の10時過ぎだった。


コメ欄が賑わっていたので、僕は彼女からのメールをしばらく放置した。


実は、山陰地方の女性からも同じようなメールを貰っていて、少し気が滅入っていたのだ。


僕は、自分が目の当たりに遭遇した幼いツクネとの出会いを書いたのだけれど、

日本中の捨て猫に関われるほどの器量も暇も持ち合わせてはいない。


気落ちしていた僕に、美奈から二度目のメールが入った。


「2階の窓から見えるんです。私、どうしたらいいんでしょう?」


そのメールには、彼女の携帯番号が添えられていた。


プロフによると、美奈の住まいは、千葉寄りの東京都だと言う。

西側の僕の家からは車で1時間ほどの距離だ。


「困ったね。雨降ってるだろ?美奈さんはどうしたいの?」


「三茶さんならどうします?」


いきなり振られて、僕は考え込んだ。
目の当たりに遭遇したら、僕は無視はできないだろう。


でも、山陰の女にしても美奈にしても、
彼女達の生活環境も性格すら僕はまるで知らない。


「オレなら?…そだな…見捨てると一生後悔しそうだからとりあえず部屋に保護するかな。その後は…」


言いかけた僕の言葉を、美奈は大きな声で遮った。

「じゃあ、私もそうします!」


「わかった。だったら、とりあえず段ボールにタオル引いてお風呂場に保護しなよ」


「はいっ、わかりました!」


多分、美奈は僕とコンタクトを取る取らないに関わらず、子猫を保護することは決めていたのだろう。


僕を巻き込んだのは、おそらく彼女の承認欲からなのだ。


その電話を最後に、美奈とのやり取りはプツンと途絶えた。


電話での彼女の印象は、あまりパッとしない東北訛りが抜けない若い女だった。



      ★☆★



その8日後、僕は美奈とメスの子猫「リン」に対面することになるのだが…


美奈の初対面の印象は、

若い女に有りがちな華やかさはあまりなく、化粧気もない華奢な女だった。

ただ、東北人特有の抜けるような肌の白さがやけに目立った。


部屋は、いかにも若い女らしいキラキラ感はなく、ガランとして家財道具も少なかった。


リンは、そんな部屋の隅っこに置かれたふかふかのおうちの中で固まっていた。


小さな体に大きなピンクの首輪がさまになっていない。


「二か月くらいかな?」

ピンクの首輪には「Rin」とローマ字で書かれていた。

覗き込むと、リンは僕に戦慄して震え出した。


「心配すんな。おじさんは女の子の味方だ。猫でもな(笑)」


小さな頭を撫でると、リンは、首を引っ込めてなおさら小さくなり、


「にゃー」と美奈に助けを求めた。


「飼うって決めたみたいだね。良かった」


「お留守番が多いから、リン大丈夫かな?」


「美奈…仕事は?」


僕が聞くと、美奈は少し言葉に詰まった後に、


「午後からの仕事です」と答えた。


午後からの仕事…少し引っかかったけれど、僕はそれ以上の詮索はしなかった。




「三茶さんて、少し恐い人かなって思っていました」

「恐くはないけど、別に優しくもないよ。普通だろ」

「普通ってだけで、十分優しいと思います」


美奈は、そう言うと黙り込んだ。


ふと目を見ると、睫毛に絡んだ大粒の涙がキラキラと光っていた。


普通が優しい…?怪訝な顔をしていると、美奈はやっと重い口を開いた。



どんな小さな生き物でも、生きた命を飼うこと。

それを暖かく人に認められること。

彼女の人生には、そんな当たり前のことが一度たりとも無かったと言うのだ。




僕には十分衝撃的な、そんなことを、美奈は笑いながら言葉にした。


笑いながら…


それが、逆に彼女が育った闇の深さを際立たせ、僕の背筋を寒くした。


どこか暗い影を背負った、まだ大人には成りきれない中途半端な女、美奈…




彼女と僕の長い8年間は、こうして始まった。




       -続-





※写メは訳あって、うちの猫「つくね」です。









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コメント

50代半ば  神奈川県

2018/06/04 9:04

7. ここから、どうやって若い女の子を毒牙にかけたのか、気になります!(笑)

60代前半  東京都

2018/06/04 8:03

6.  >>3 クロコダイル・ダンディ・ケンジさん

おはようございます[晴れ]

ほっとけない性格です。 一時は三茶動物園て笑われるほど、色んなワケ有りの動物を飼っていましたよ(笑)

60代前半  東京都

2018/06/04 7:46

5.  >>2 simonさん

おはようございます[晴れ]

ええ、結局はそうなんですよね[バッド(下向き矢印)]
ま、それでいいんです。

60代前半  東京都

2018/06/04 7:42

4.  >>1 黒の獅子王さん

おはようございます[晴れ]
実話もフィクションも、生々しく書くのが僕ですから(笑)

これも、嘘と本当のmixですが、かなりどちらかに近いです。

いつものように激甘な話ではないかも…

2018/06/04 7:20

3. 
みすぼらしく震えてる子猫を見たら自分もほっとけないでしょ~ね(((^^;)

50代前半  宮崎県

2018/06/04 7:19

2. おはようございます。

続編を読みたくなる文章です[わーい(嬉しい顔)]

つくねにリン、そして彼女・・・・。

今はつくねだけそばにいるのですね。

60代前半  福岡県

2018/06/04 6:32

1. 実話ですか?

なんか妙に生々しい

猫さんの日記はどこまでがほんとでどこまでフィクションかわかんないからなぁ~

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