【双子のベビーカー】セフレからのお別れメール(完結版)
「最後もゴムって…なんか悲しい」
終わった後のゴムを、ベッドサイドの薄明かりにかざしながら美奈がつぶやいた。
「パパ…やっと私から手が離れる!ってせいせいしてるよね?」
僕はフッと笑い、否定も肯定もせずに話しを横に振った。
「お前のことだから、オレとホテルに入ったこと浩史に報告するんだろ?」
「うん、もうline入れたよ」
「彼、なんて言ってた?」
「避妊しろって。後は気が済むまでヤって、パパのことはきれいさっぱり忘れろって」
浩史…会ったこともないまだ26の若僧だけれど、こいつならこの暴れ馬の手綱を引けるかな…
その時、ふとそう思った。
「パパのことね、みんな浩史に話してるんだよ。彼ね、本気でパパに会いたいって言ってる」
「いや、それはやめとこう。いい奴だと思うよ。でもね、わざわざ会うことはない。
目の当たりに相手を見ると、お互い無駄に動揺するもんだよ」
「パパって大人だよね。私ガキんちょだし、ほんとに彼とやっていけるかな?」
「大丈夫だよ。浩史は若いけどお前よりずっと大人だ。美奈のことも良く分かっている」
鼻をグスグス鳴らしていた美奈が、突然しゃくり上げて泣き出した。
「パパと、もうほんとにお別れなんだね」
「裸の付き合いはね。寂しいけど美奈の将来のためだよ」
「大人、大人って、大人がどんだけ立派なの?
パパと私を引き離すヤツはみんな大嫌いだ!浩史も、このゴムも!」
いきなり僕の腕から抜け出した美奈は、替えのゴムが入った小箱を掴むと冷蔵庫へ向かって投げつけた。
「こら、暴れるな。ゴムはともかく、浩史をそんな風に言うんじゃない!好きだから一緒になるんだろ?」
泣きじゃくる美奈を組み伏せ抱きしめると、微かな胸の膨らみを突き抜けて、
美奈の激しいしゃっくりと速い鼓動が直に僕の胸板に響いた。
「パパ…」
「何だ?」
「私ね、一度も呑んだことないんだ…精子。パパの味って覚えておきたい」
「また、そんなこと(笑)
前に一度だけ誤爆したよな。えらく怒って吐き出したじゃないか!」
「うん、だからね…あの後ひどく後悔したんだ」
美奈は腕枕からすり抜けると、僕に覆い被さりながら唇を合わせてきた。
そのまま、半勃ちの僕を根元から締め付けるように握りしめる。
「最後がゴムって悲し過ぎる。だからここにちょうだい」
美奈は長い舌を出して、その真ん中を指差した。
「口に?無理無理、気が引けて射てないよ」
「だめっ、絶対イくまでしゃぶり続けるからね!」
美奈は、途中で何度も髪を掻き上げ、意地になって僕を吸い取ろうとしている。
その姿はあまりに健気で、僕を激しく責め立てた。
八年もの間、もっと優しく接してやれなかったのか…
★☆★
小学生の多感な時期に、大切に育てていた子ウサギや子猫を山に捨てられ、
母親には日常的に暴力を振るった美奈の父親。
そんな父親を警察に通報し留置場にぶち込み、実家を捨て一人上京した美奈。
抱いてみて分かったのだが、そんな美奈の性癖は決してドSではなかった。
彼女が五反田で振るっていたムチは、父親に見立てた同世代の男達への復讐だったのだろうか。
その瞬間、美奈は目を丸くして思わず口を開けたが、
気を取り直したように再び僕に吸い付くと、間を空けずに飲み干した。
「なんかあんまり美味しくないね」
顔をしかめ、口をパクパクさせながら美奈がつぶやいた。
「ごめん…」
慌ててティッシュを差し出すと、美奈はそれを握りつぶして微笑んで見せた。
そればかりか、飛び散った雫まですくい取り、その人差し指を舐めて見せた。
「ちょっと苦くてしょっぱくて、意地悪なパパの味がした」
僕は大きなため息を吐いた。
「パパ…今の幸せって捨ててしまわなくちゃ、次の幸せって来ないの?
やだよ。怖いよ。そんなの信じないよ!」
少し持て余し気味だった野生の女美奈を、その時手放すのがとても怖くなった。
★☆★
あれから、二度目の夏が過ぎた。
美奈からは、
「籍をいれました。パパ色々ありがとう」と最後のメールが届いたきり、一年近くが過ぎていた。
それは、富士山の初冠雪が告げられた初秋の頃だった。
仕事中の僕に一通のメールが届いた。美奈からだった。
【パパ…本当にご無沙汰しています。
私ね、信じてくれないかもだけど、パパと付き合っていた頃よりずっとずっと普通の女になりました。
浩史がね、とっても優しいんです。パパよりずっとね(笑)
本当はパパといっぱい話したいんだけど、さすがに浩史に気を使ってご無沙汰してました。
どう?私って普通の女でしょ?(笑)
あのね、ここからが本題なんです!びっくりしないで下さいね。子供が生まれるんです!
それがね、大変だよ!双子だって!双子の女の子だって。もう私、どうしたらいいの?
お母さんにだってなれるかどうかなのに、いきなり二人だよ。
でもね、怖いけど本当は
嬉しくてしょうがないんだ。早く産まれてきて欲しい。嬉し泣きしながら二人を抱きしめたいの。
それでね、パパに最後のおねだりをします。双子のベビーカーを買って下さい。
浩史にはごめんなさい。母方の叔父からのお祝いだって…最初で最後のウソをつきます。
だからお願い。美奈の最後のわがままです。
だって、だって…パパは私にとって、失ってしまった実家みたいな人なんですから…】
書きかけの書類が、テーブルからパラリと滑り落ちた。
「おめでとう」立ち上がって、そう言おうとしたのだけれど、喉が詰まって声にならなかった。
ベランダを開け、美奈達が住む東の空に目をやった。
「おめでとう」やっとの思いで声を出すと、
涙が止めどもなく溢れ出て、もう何も見えなくなった。
-完-
やっと書き終わりました。
全15編。僕が書いた色んな女性の中でも、最も破天荒なキャラの持ち主「美奈」…
途中で様々なコメントを頂きましてありがとうございました。とても参考になりました。
ま、少し疲れたので、ちょっと充電して、また書き始めますね。
コメント
2018/08/27 8:51
4. おはようございます。
出会いがあれば別れもあるのが人生。
パパのことだから
ベビーカーを買って差し上げたのでしょうね。幸せでよかったね。。
そろそろ大丈夫だあ~饅頭が食べたくなったのではないかな?(笑)
返コメ
2018/08/27 8:48
3.
「双子のベビーカー」てサブタイトルが気になって、電車の中で必死に読みました。
美奈さん、あまり評判良くない女だけど、あちこちで私の人生と被るんで 必死で読みました。
私の浩史はまだ現れません(泣)
最後の締めは、安定のつぶパパマジック。悔しいけどホロリときました。
返コメ
2018/08/27 7:46
2. >>1 風来坊さん
いつもご愛読ありがとうございます。
美奈ってかなりイケイケの荒くれ女なんで、書く僕も緊張しました(笑)
返コメ
2018/08/27 7:41
1. 今回も最後が良かったですね。(^o^)v 次も期待してます(^^)/
返コメ