白いアシカ④【私に精★を下さい!】
60代前半  東京都
2018/10/19 7:08
白いアシカ④【私に精★を下さい!】
「秋の七草って知ってる?お庭に二つあるのよ。当ててみて」

台所から亜衣が作るカレーの香りが漂ってくる。

縁側で寝そべっていた僕は、首だけ持ち上げて丸石できれいに仕切られた花壇を見渡した。

山はすっかり秋の装いで、春に来た頃に比べると咲く花も少なく寂しい。


「桔梗と撫子か?」

「良くわかったわね」

「だって、花はそれしか咲いてないじゃないか」

「あ、それもそうね」

けらけら笑う亜衣の声は縁側まで良く通る。


手持ち無沙汰な僕は、いたずらを仕掛けようと、台所の亜衣の後ろにそっと忍び寄った。

でも、慣れない手付きで玉ねぎを必死に炒めている亜衣の後ろ姿を眺めただけで、また縁側に引き返した。

料理をする女の姿はセクシーだ。体の隅々まで知り尽くしている亜衣だから尚更だ。


丹沢の温泉宿で亜衣を抱いてからひと月程経っていた。

十日ほど前、亜衣は電話で生理が来たと伝えてきた。
寂しげな声だったので、僕はすぐに話題を変えた。

生理が終わって一週間。
と言うことは、亜衣はまた危険日に僕を呼んだのか?

亜衣の真意は分からないし、問い詰めてもいない。

でも、僕はもうその時、腹を括っていた。成り行きに任せればいい。

亜衣が籍を入れたいのなら入れてもいいし、それが嫌なら今のままでもいい。

ただ、どんな状況からも亜衣を守る覚悟はできていた。


ここは、僕の家から高速道を飛ばせば一時間ほどの距離だ。

築二十年の古屋だけれど、3DKで玄関横には小型車なら二台は停められるスペースもある。

車がなけれは生活は厳しい僻地だけれど、七万円の家賃は安いと思う。



亜衣の特製カレーは、ターメリックの量が多過ぎたのか、かなり黄色っぽかった。

味はそれなりだったけれど、僕は食レポの芸人のように驚いて見せた。

「ほんとにそんなに美味しい?なんかウソ臭い」

誉められて、まんざらでもなさそうな亜衣の笑みを見ていると、これが穏やかな幸せなんだなと思う。

でも、ひと月もお預けを食っていた僕の本心はメシがどうこうよりも、
すぐにでも亜衣のジーンズを引き抜きたくて仕方なかったのだ。


「亜衣、やっぱりさ、この後ラブホに行かないか?」

「ラブホって、いつものおばあちゃんのホテル?お金がもったいないよ。由宇って、ほんと経済観念がないんだから…」

「でもね、ここだと何か緊張するんだよな。気兼ねないラブホがいい」

「ダメ!今からよそへは行きたくない。この家に慣れてよね。お風呂だってもう沸いてるんだから」

僕は笑って頷いた。亜衣のご機嫌を損ねると後が大変なのは経験済みだからだ。


     ★☆★


ホームグラウンドだと、女は女豹に化けるのかも知れない。

その日の亜衣は、僕が二年の間慣れ親しんだ受け身の亜衣ではなかった。

一度、腹の上に引き上げると、上下前後左右と髪を振り乱しながら活発に動き回った。

でも最後は、いつもの王道の形に戻って、亜衣は僕の首にしがみついた。

僕は、優しさや愛しさや激しさが詰まったひと月分の思いを、亜衣の奥深くに射ち放った。


放心し虚ろな僕を、一枚のパネル写真が見下ろしていた。

青空をバックに古い洋館の屋根が写っている。
その屋根のてっぺんにはチャペルの古い十字架。

二年前、初めて二人で泊まった宿を去る時に僕が撮った写真だ。


「オレが宿無しになったら、ここに転がり込めばいいな」

「ひと月に一度くらいしか来ないくせに」

頬を膨らませる亜衣を腕枕に引き寄せ額にキスをすると、亜衣は僕を拒んで起き上がった。

僕に背を向けると、髪を整えながらバッグから何かを取り出している。


「何してる?」

「溢れてくるから…」

覗き込むと、亜衣は肩越しに僕を睨みつけた。

「見ないで。あっち向いてて!」

どうやら、生理でもないのにナプキンのようなものをデルタに貼り付けている。

さらに、色気のない黒いブルマみたいなパンツをしっかり履いてしまった。


「亜衣…」

「なあに?」

「そんなに子供が欲しいのか?」

亜衣は瞬きもせず、天井の一点を見つめたまま答えた。

「うん、私の子ってどんな子なのか会ってみたいの」

「私の子?普通、あなたの子が欲しいって言わないか?」

「そうだけど…別に同じことじゃない」


亜衣は、子供は二人欲しいな…でも結婚って私にはやっぱり無理だなあ…とか、現実味のないことをつぶやき始めた。


「そう言えば、可奈ちゃん無事産まれたのか?」

「うん…女の子」

亜衣は短く答えて、後は押し黙ってしまった。



可奈とは以前一度だけ会っていた。半年程前、亜衣に紹介され三人でファミレスで食事したのだ。

亜衣の職場では、僕が知っている唯一の同僚で、確か年は四つほど亜衣の下だったはずだ。

キャリアは亜衣の方が積んではいるが、亜衣が金沢から逃げるようにこの地に来て、今の職場に落ち着けたのは、可奈の助けがあったからだと聞いた。

「良かったな。僕からもおめでとう!って伝えてくれるか」

「わかったわ。可愛かったなあ。3600gの元気な女の子よ。彼女、今はまだ市内の産院にいるわ」

「もう二人に会ったの?」

「うん、産声聞くまでずーっと付き添ってた。私って産科は経験ないから。壮絶でもう目眩がしたわ」

「そうか、分娩まで立ち合ったのか…」



可奈…背丈が男並みの亜衣と並ぶと、子供みたいに小さく華奢に見えたが、意志が強そうな目をしていた。

あの子が、シングルでためらいもなく出産とは…


「あのね、由宇…実は来週ね同居人がうちに引っ越してくるの」

「同居人?誰だそれ?。家賃が苦しいなら何故オレに相談しない?」

「そうじゃないのよ…」



なるほど、そう言うことか…

「わかったよ。同居人て可奈と赤ちゃんなんだろ?」

亜衣は小さく頷いた。



「お前たちって…」

色んな思いが僕の頭の中を駆け巡った。

亜衣の言う悪企みが、その時、おぼろげながら見えてきた。



        ―続―






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コメント

60代前半  東京都

2018/10/19 7:57

6.  >>5 風来坊さん

おはようございます。
ちょっとテーマがいつになく複雑なんですけど、
エロ味も忘れずに頑張って書き切りたいと思います。

60代後半  鹿児島県

2018/10/19 7:49

5. おはようございます。続き待ってます(^-^)/

60代前半  東京都

2018/10/19 7:47

4.  >>2 かよさん

異性との付き合いが不器用だったり、それぞれにトラウマを抱えた独身女性達の新しい生き方への挑戦とでも言うのでしょうか?

可奈と言う女性が加わり、男の立場はとても微妙です。

60代前半  東京都

2018/10/19 7:39

3.  >>1 [桜]恋櫻[桜]さん

おはよう[晴れ]
日記アップの時間が被っていましたね(笑)

結婚?独身?他に人生の選択肢ってないのかな?
そんなテーマで書き始めてみましたが、ちょっと いつもより複雑でハードですね。

50代半ば  大阪府

2018/10/19 7:34

2. おはようございます。
亜衣の友達が子連れで亜衣の家に引っ越して来る。
予想外の展開でした。これから、二人の関係はどうなっていくのでしょう?ますます続きが気になりますね。

70代以上  鹿児島県

2018/10/19 7:21

1. おはようございます

続きが気になります。

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