白いアシカ【完】ここは天国?或いは?★新説…現代の浦島伝説★
可奈のリズミカルな寝息が、僕の裸の腕をしっとり湿らせている。
時々口をパクパクさせたり、額を僕の肩にこすりつけたり、その仕草はまるで幼子のようだ。
思い出せば、初めて可奈に会ったのはもう三年も前のこと。あれは確か川越のファミレスだった。
亜衣が「私の彼よ」と僕を紹介すると、可奈は唇をきっと結び、あからさまな敵意で僕を睨みつけた。
そんな可奈が、今は思いがけず僕の二人目の妻となり、丸裸のまま僕に寄り添いすやすやと寝息を立てている。
張り詰めていた緊張が解けて、気が抜けてしまったのだろう。
僕は、乱れた上掛けを首まで引き上げてやり、そっとベッドを立った。
亜衣が、きっと心配しているに違いない。
風呂場のラッチ窓を開けると、天頂の日が傾き始めていた。
すっかり冷めた湯舟に足を泳がせていると、
先週亜衣と交わした会話が甦ってきた。
「亜衣、いつこんな大それた家族計画を思いついたんだ?」
「赤とんぼよ。覚えてる?丹沢の露天風呂で会ったアキアカネのカップル」
「ああ…」
何となく思い出した僕は曖昧に相槌を打った。
「由宇が繁殖の仕組みを教えてくれたじゃない。あれって、私には目からウロコだったわ」
「そうか、あの話が…」
→(白いアシカ①)
僕は頷きながら、亜衣の突き出したお腹に手をやった。
「摩耶ちゃん、ほらパパが何かお話したいんだって」
手のひらをそっとお腹に当てると、摩耶のかかと蹴りが僕の手に炸裂した。
「怒ってるよ!」
「やあね、喜んでるのよ」
「樹里とは年子の姉妹か…きっと、仲良し姉妹になるだろうな」
「そうね。きっとご近所でも有名な美人姉妹になるわよ」
そこまでは、ごく普通の夫婦の会話だった。
だが、亜衣はひと呼吸おくと、僕を見据えてこう告げた。
「それより由宇…来週可奈ちゃんを抱いて上げて。彼女もう卒乳したし、体はもう大丈夫。とてもきれいよ。彼女もあなたを待ってるわ」
「いま、その話か?」
「私達家族には、とても大切なことなの。あなたにしか出来ないことなのよ」
「いいんだな?」
「じゃなくて、私がお願いしてるのよ!」
★☆★
むず痒い思いで駐車場に車を停めると、
樹里を抱っこした亜衣は、満面の笑みで可奈と僕を出迎えた。
ダイニングには、三膳の赤飯に紅白の割り箸までがすでにセットされていた。
「心配してたのよ。途中で電話って変でしょ?
で、由宇どうだった?」
小声で話しているつもりなのだろうが、亜衣の声はとても良く通る。
「由宇ね、いっぱい話してくれたし、ほんとにすごく優しかった」
「そうなの、良かったね!」
亜衣は腰を折って、可奈の髪をもみくちゃにしながら抱きしめている。
僕はそんな二人を遠目に、全力疾走ハイハイで駆け寄ってきた樹里を抱え上げた。
抱きしめると、少し前に吸い上げた可奈の乳の甘い香り鼻腔いっぱいに広がった。
「赤飯とか何の儀式だよ?まったくねぇ」
そっと樹里に語りかけると「パッパ、パァパ!」と目をキラキラ輝かせ、覚えたての言葉で僕に語りかけてくる。
「三人の女達、みんなそれぞれだけれど、お前が断トツ可愛いよ!」
樹里の耳元でそう囁くと、僕は庭に出て「高い高い」と天高く彼女を持ち上げた。
「樹里をあんまり興奮させないでね!さ、乾杯するんだからこっちへいらっしゃい」
亜衣の声が間近に聞こえた。
僕は、なぜだか急に涙が溢れてきて、慌てて亜衣の後ろ姿から目を逸らせた。
亜衣…お前、本当にこれで良かったのか?
お前がもし男だったら、
もし男だったら…
オレ達はきっと親友になっていただろうな。
お前がたまたま女だったばかりに、オレはお前を抱くことばかりに現を抜かしていた。
ダメな男だよ。オレは…
でも、お前の笑顔を見ていると、この家族もまんざらじゃない。
罪滅ぼしじゃないけれど、オレの余生は全部お前に捧げるよ。
使い物にならなくなったらいつでも切り捨ててくれ。
来月、こんな家族にもう一人の女が加わる。僕と亜衣の娘で樹里の妹「摩耶」だ。
暮れ始めた西の空から、オレンジ色のナツアカネが数羽飛んで来て、
ふわふわと舞いながら東の空に飛び去って行った。
僕は樹里を抱っこしたまま食卓に向かい、プレモルが泡立つグラスを高く掲げた。
亜衣の悪企み?
いや、赤とんぼが亜衣に教えた新しい家族の形は今、もう一つの実を結ぼうとしている。
それとも…
ここは、僕が傷ついた白いアシカの背に乗ってたどり着いた竜宮城?
だったら、きっとこの家のどこかには、玉手箱が隠されているはずだ。
でも僕は今、
それをあえて探しはしない。
―完―
一夫一婦制って、文化人が無理やり作り出した秩序ですよね。
世の中の仕組みって、全てそれを基本に定められています。
でも、そんな家族が不幸にも破綻したら…女性にかかる負担は計り知れません。
破綻はしなくても、子供を作る余裕のない夫婦は
世の中に溢れています。
その結果が少子化?
外国人移民の受け入れ?
亜衣の決断って、果たして荒唐無稽な暴挙なのでしょうか?
ま、これは、そんな疑問をテーマにして、だらだらと綴った、
浦島由宇太郎の【おとぎ話】でした(笑)
コメント
2018/11/06 8:33
8. >>7 ゆーくんさん
![[バッド(下向き矢印)]](https://img.550909.com/emoji/ic_bad.gif)
![[バッド(下向き矢印)]](https://img.550909.com/emoji/ic_bad.gif)
おはよう。コメありがとう!
今までの亜衣のイメージをブチ壊した…なんて怒りのコメも頂きましたが
ご指摘通りのいい女ですよね。
返コメ
2018/11/06 8:17
7.
亜衣さん、魅力的な女性ですね。頭が良くて、謙虚で優しくて、それでいて実行力もある。
もし、こんな女性が目の前に現れたら、やるやらないじゃなく、俺はすべてをかけてプロポーズするだろな。
返コメ
2018/11/06 7:59
6. >>5 風来坊さん
おはようございます。
今回も何とか着地(エンディング)が決まりました。
D難度くらいかな?
ウルトラE難度をいつか決めてみたいものです。
返コメ
2018/11/06 7:30
5. 今回も面白かったです(^-^)/ 次回も楽しみに待ってます(^^)v
返コメ
2018/11/06 1:22
4. >>3 かよさん
こんばんは。僕は脳天気な性格なんで、この話も結末など何も考えずに書き始めたんです。
連載はみんなそんな感じで、途中で結末を思いつくのです。
それがしっくりこないと 途中で連載中止も時々
厳しい読者さんも多いので、気合いを入れ直してまた書きますね。
長い話を、いつもご愛読本当にありがとう。
返コメ
2018/11/06 1:10
3. こんばんは。
由宇が、浦島太郎で浦島太郎を竜宮城に連れて行ったのは、亀じゃなくて「白いアシカ」の亜衣・・・。由宇が竜宮城で出会った乙姫さまは、樹里と、これから生まれて来る摩耶ってことなんですよね?? こういう結末だったのか~。というのが、直後の感想です。
こんなお話、こんなエンディング、よく創作出来ましたね。単なるハッピーエンドでなく、その後を読者の想像力に委ねる感じが、憎いなぁ・・・。
返コメ
2018/11/06 1:09
2.
お前がもし男だったら、
もし男だったら…
オレ達はきっと親友になっていただろうな。
お前がたまたま女だったばかりに、オレはお前を抱くことばかりに現を抜かしていた。
↑↑
これは、男が良く陥る後悔です。時の流れって思うより早いんです。
女は天女のように優しくて、鬼のように怖い…
そんな物語でした。
返コメ
2018/11/06 0:57
1.
亜衣さん?愛さん?
ツブパパの日記に何度も 登場してるのに…キャラがメチャクチャ!(-"-;)
と、怒り心頭でしたが、さすが最後はきれいに纏めてくれてありがとう。
ほんと今回は、ハラハラドキドキものでした(笑)
返コメ