割り切り珍百景 30才由美の場合★転落から復活★
60代前半  東京都
2021/02/27 0:00
割り切り珍百景 30才由美の場合★転落から復活★
【デヴィルと私とゴリマッチョ】

この世に神様なんていないって知ってはいたけれど、
デヴィルはしっかりいるらしい。

私を奈落の底に突き落としたあの春先の事件から
今日でちょうど半年、

私は色んな死に方を思い浮かべていたけれど、
結局はどれも実行に移すことは出来なかった。

死ぬことだけならともかく、惨めな自分の屍を
他人に晒す勇気がなかったからだ。

だったら、生き恥を曝してでも世の中のあぶく銭を
掻き集め、どん詰まりまで生きてやる!
ともがいた結果がこの有り様だ。

ねえ、デヴィル…あなたを恨むのは筋違いだって
分かってる。

だって、あなたを呼び込んだのは私だから。

でもね、ひどいよ。あんまりだよ!
こんなボロボロの私を一体どこまで苛めたら
気が済むの?





その日、私は一人の男を待っていた。

初対面の男との待ち合わせは、隣の県の道の駅に
決めていた。二十キロの道のりも車を飛ばせば
約三十分。

近くはないが遠過ぎもしない。場所も分かりやすく、
長時間放置駐車しても咎められる心配が少ないから。 

今日のお客は「ヨシキ」と名乗る三十代のリーマン。
私の七人目のお客だった。

メールの受け答えもそつがなく、変な癖もなさそう
なので彼に決めた。

ヨシキの車は、ほぼ時間通りに駐車場に入ってきた。
白のプリウスだった。

私は仕事柄、男が乗ってくる車のメーカーと車種を 
まず見てしまう。ヨシキの車は私の会社が扱う車種
ではなく、ライバル会社のレンタカーだった。

だから、私はついつい警戒心を緩めて彼の車に
走り寄ってしまった。

営業スマイルで軽く会釈はしても、決して相手を
凝視はしない。それが私のマニュアルだった。

ティアドロップの濃いサングラスをかけたヨシキは、
そんな私に軽く会釈を返して助手席のドアを開けた。


「初めまして、奈津子です。今日はよろしくお願い
します」

「ああ…よろしく」

ヨシキは、低い声でそれだけ言って私を招き入れると、
後は無言で車を発進させた。

体はデカく筋肉質。目はサングラスで隠されているので、
一見その筋の人にも見えた。

ヤバっ見立てを間違えたかな?なんてビビったけれど、
それはまるでお見当違いだった。

もっともっと怖いヨシキの正体。私はまだそれに
気づいていなかった。





「この辺りも、もうすぐ紅葉ですね」

会話がないと少し気が滅入る。この人、私のこと
タイプじゃないのかな?そんなことも気にかけながら、
私は無難に季節の話題を投げてみた。

「まあ、来月からだろうな」

それは、どこかで聞き覚えのある声色だった。
はっとして、私は初めてヨシキ見つめた。

振り向いたヨシキは、小さく息を吐き、前を向いたまま
サングラスを外した。


「ええっ、うそでしょ!」

背筋にから首筋に戦慄が走った。次に頭に血が上って、
私は過呼吸になってしまった。

ヨシキと名乗った男は、私が勤めるカーディーラーの
営業三課の課長「薬師寺哲也」だったのだ。


「まあ、落ち着けよ」

「うそよ。うそよね!」




ねえ、デヴィル…あなたなら出来るでしょ!

もし地球に隕石が落ちて、世界中が火の海になるなら、
今、この時にして!

私は目を閉じ、両手を合わせて「南無…」とつぶやいた。

でも車窓から見える景色は、何の変哲もない日常の
切り取りで、火の玉なんか見えるはずもない。

だいたい私、三〇年も生きてきて、流れ星の一つすら
見たことがないのだから。



正気に戻った私は、慌ててシートベルトを外した。
信号で止まったらドアを開けて逃げ出そうと
身構えたのだ。

でも、こんな時に限って、車は一つも信号にかからず、
そのまま高速道路に入ってしまった。

「課長、あんまりです。
なんでスルーしてくれなかったんですか?」 

私は哲也の顔をまともに見ることも出来ず、涙声で
恨み言を呟いた。

「奈津子が、まさか由美だったとはな…」

哲也は、言いかけた言葉を呑み込んで押し黙って
しまった。彼もきっと私以上に驚いたんだろう。

しばらくは助手席の私にまるで目もくれず、
車は無言の二人を乗せたまま、五分ほど走り続けた。

「なあ由美、俺だって焦ったさ。
でも、面が割れてスルーじゃ、後々壊滅的に
ギクシャクするよな?毒を食らえば皿までって言う。
こんな会い方をしたんだから、もう何も考えないで
観念しろ」

ええっ、観念しろ!とか…哲也のヤツ、この場に及んでも
やる気なんだわ。どうしよう!

私は、全身がさっと紅潮した。

「ただ俺とじゃ生理的に無理ってなら話は別だが…」

「ええっ、そんなことありません!」

私は慌てて否定した。



哲也と私。会社ではとても相性が良かった。私は彼の
仕事ぶりや時折見せる優しさに、
憧れに似た好意を持っていたから。 
 
哲也はどう思っていたか知らないけれど、私はそんな彼に
淡い恋心を抱いていた時期があった。 

哲也だってきっとそう。一昨年の社内旅行で鴨川に行った
時なんか、シャチのショーで水を被りそうになった私を、
哲也は大きな体で傘になってくれた。

宴会がハネた後には二人でそっとカラオケに行って、
恋歌をデュエットで歌いながら、

あと二センチでキスするところだったのに。

でも、歯車はどこかで微妙にズレ狂ってしまった。

三十の私と三十五の哲也。二人は、それぞれ別の恋路を
歩いて行くことになってしまった。

そして、とどのつまり…二人の再会は私は売り手で、
哲也が買い手だなんて。



最低よ、デヴィル!

私、明日からの毎日…どうすればいいの?

                                      
         (続く)
コメント不可

コメント

60代前半  東京都

2021/03/01 6:28

58.  >>56 クロコダイル・ダンディ・ケンジさん
いいですねぇ。蜜蜂の飼育セットって売ってるんだね。
なんか、手間かからないらしいね。やってみてよ!
お宅のまわり、蜜蜂だらけだろ?

60代前半  東京都

2021/03/01 6:22

57.  >>50 海斗さん
病気とは縁がない…なんて変な自信があったんですが、
いやいや、並な人間でしたよ。40代の主治医が
回復の早さと後遺症がないのに驚いていました。
海斗さんも、そろそろ油断できないお年頃。
気をつけて下さいね。
あ、虫たちは元気ですよ!キリは早々、孵化しました。

2021/03/01 6:12

56.  >>51 ツブ猫[猫]さん
その辺りは大丈夫だと思っています、今は実家から離れてアパートに一人暮らししてますが地元での付き合いの慶弔事とか地区費等も継続してます

いずれ退職したら実家を片付けて小さな家でも建ててのんびり暮らしたいですねぇ~(^~^;)ゞ

60代前半  東京都

2021/03/01 6:08

55.  >>49 *あゆふわりん*さん
あゆさん、お久しぶり。
大人はあまり変わらないけど、お子達は2年でずいぶん
成長したでしょうね。旦那は?まあ、それはいでしょう(笑)
また、時々顔を出しますので宜しくです。

60代前半  東京都

2021/03/01 6:04

54.  >>48 yu…o(^-^o)さん
お久しぶりです。覚えてくれててありがとう。
もうすぐ春ですね。最近は寒いのが苦手になったよ。

60代前半  東京都

2021/03/01 5:59

53.  >>47 ちなつさん
コロナは本当にしつこいね。
亡くなった岡江久美子は、週2くらいで寿司屋の
ランチで会ってた顔見知りだったから衝撃だった。

60代前半  東京都

2021/03/01 5:53

52.  >>46 ☆ノーサイド☆通りすがりにつぶやきや日記にいいね!しますm(さん
何年ぶりだろ?お元気そうで何よりです。
単身赴任の自由を満喫されてるみたいで、裏山です!

60代前半  東京都

2021/03/01 5:49

51.  >>45 クロコダイル・ダンディ・ケンジさん
仕事があって、退職金も年金も見込めるなら、贅沢は
言えないよ。後は、日々の過ごし方だね。
人と関わるのを、面倒くさがっててはダメだよ。
偉そうな事を言っちまった。ごめん。

60代前半  鹿児島県

2021/03/01 1:41

50.  >>2 ツブ猫[猫]さん
知らないこととはいえ、恐ろしい病気されたんですね。
ご自愛ください。
虫たちもまた飼えると良いですね。

70代以上  鹿児島県

2021/03/01 0:33

49. うわぁ、懐かしすぎます。
久しぶりにワクワクをのぞきましたが、もうここでお会いできるとは、正直思っていませんでした。
パパさんのこと、ずっとずっと気になっておりました。てか、私のこと、覚えてもらっていないかもだけど(笑)

ご病気されたようで。何も知らず、何もできず。すみません。くれぐれも、お身体ご自愛くださいね。

日記、読ませて頂きました。相変わらず文才がおありですね。その場の情景が事細かに浮かんできます。2人の行く末が楽しみです。

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