割り切り珍百景 30才由美の場合★転落から復活★
【デヴィルと私とゴリマッチョ】
この世に神様なんていないって知ってはいたけれど、
デヴィルはしっかりいるらしい。
私を奈落の底に突き落としたあの春先の事件から
今日でちょうど半年、
私は色んな死に方を思い浮かべていたけれど、
結局はどれも実行に移すことは出来なかった。
死ぬことだけならともかく、惨めな自分の屍を
他人に晒す勇気がなかったからだ。
だったら、生き恥を曝してでも世の中のあぶく銭を
掻き集め、どん詰まりまで生きてやる!
ともがいた結果がこの有り様だ。
ねえ、デヴィル…あなたを恨むのは筋違いだって
分かってる。
だって、あなたを呼び込んだのは私だから。
でもね、ひどいよ。あんまりだよ!
こんなボロボロの私を一体どこまで苛めたら
気が済むの?
その日、私は一人の男を待っていた。
初対面の男との待ち合わせは、隣の県の道の駅に
決めていた。二十キロの道のりも車を飛ばせば
約三十分。
近くはないが遠過ぎもしない。場所も分かりやすく、
長時間放置駐車しても咎められる心配が少ないから。
今日のお客は「ヨシキ」と名乗る三十代のリーマン。
私の七人目のお客だった。
メールの受け答えもそつがなく、変な癖もなさそう
なので彼に決めた。
ヨシキの車は、ほぼ時間通りに駐車場に入ってきた。
白のプリウスだった。
私は仕事柄、男が乗ってくる車のメーカーと車種を
まず見てしまう。ヨシキの車は私の会社が扱う車種
ではなく、ライバル会社のレンタカーだった。
だから、私はついつい警戒心を緩めて彼の車に
走り寄ってしまった。
営業スマイルで軽く会釈はしても、決して相手を
凝視はしない。それが私のマニュアルだった。
ティアドロップの濃いサングラスをかけたヨシキは、
そんな私に軽く会釈を返して助手席のドアを開けた。
「初めまして、奈津子です。今日はよろしくお願い
します」
「ああ…よろしく」
ヨシキは、低い声でそれだけ言って私を招き入れると、
後は無言で車を発進させた。
体はデカく筋肉質。目はサングラスで隠されているので、
一見その筋の人にも見えた。
ヤバっ見立てを間違えたかな?なんてビビったけれど、
それはまるでお見当違いだった。
もっともっと怖いヨシキの正体。私はまだそれに
気づいていなかった。
「この辺りも、もうすぐ紅葉ですね」
会話がないと少し気が滅入る。この人、私のこと
タイプじゃないのかな?そんなことも気にかけながら、
私は無難に季節の話題を投げてみた。
「まあ、来月からだろうな」
それは、どこかで聞き覚えのある声色だった。
はっとして、私は初めてヨシキ見つめた。
振り向いたヨシキは、小さく息を吐き、前を向いたまま
サングラスを外した。
「ええっ、うそでしょ!」
背筋にから首筋に戦慄が走った。次に頭に血が上って、
私は過呼吸になってしまった。
ヨシキと名乗った男は、私が勤めるカーディーラーの
営業三課の課長「薬師寺哲也」だったのだ。
「まあ、落ち着けよ」
「うそよ。うそよね!」
ねえ、デヴィル…あなたなら出来るでしょ!
もし地球に隕石が落ちて、世界中が火の海になるなら、
今、この時にして!
私は目を閉じ、両手を合わせて「南無…」とつぶやいた。
でも車窓から見える景色は、何の変哲もない日常の
切り取りで、火の玉なんか見えるはずもない。
だいたい私、三〇年も生きてきて、流れ星の一つすら
見たことがないのだから。
正気に戻った私は、慌ててシートベルトを外した。
信号で止まったらドアを開けて逃げ出そうと
身構えたのだ。
でも、こんな時に限って、車は一つも信号にかからず、
そのまま高速道路に入ってしまった。
「課長、あんまりです。
なんでスルーしてくれなかったんですか?」
私は哲也の顔をまともに見ることも出来ず、涙声で
恨み言を呟いた。
「奈津子が、まさか由美だったとはな…」
哲也は、言いかけた言葉を呑み込んで押し黙って
しまった。彼もきっと私以上に驚いたんだろう。
しばらくは助手席の私にまるで目もくれず、
車は無言の二人を乗せたまま、五分ほど走り続けた。
「なあ由美、俺だって焦ったさ。
でも、面が割れてスルーじゃ、後々壊滅的に
ギクシャクするよな?毒を食らえば皿までって言う。
こんな会い方をしたんだから、もう何も考えないで
観念しろ」
ええっ、観念しろ!とか…哲也のヤツ、この場に及んでも
やる気なんだわ。どうしよう!
私は、全身がさっと紅潮した。
「ただ俺とじゃ生理的に無理ってなら話は別だが…」
「ええっ、そんなことありません!」
私は慌てて否定した。
哲也と私。会社ではとても相性が良かった。私は彼の
仕事ぶりや時折見せる優しさに、
憧れに似た好意を持っていたから。
哲也はどう思っていたか知らないけれど、私はそんな彼に
淡い恋心を抱いていた時期があった。
哲也だってきっとそう。一昨年の社内旅行で鴨川に行った
時なんか、シャチのショーで水を被りそうになった私を、
哲也は大きな体で傘になってくれた。
宴会がハネた後には二人でそっとカラオケに行って、
恋歌をデュエットで歌いながら、
あと二センチでキスするところだったのに。
でも、歯車はどこかで微妙にズレ狂ってしまった。
三十の私と三十五の哲也。二人は、それぞれ別の恋路を
歩いて行くことになってしまった。
そして、とどのつまり…二人の再会は私は売り手で、
哲也が買い手だなんて。
最低よ、デヴィル!
私、明日からの毎日…どうすればいいの?
(続く)
コメント
2021/02/27 1:12
3. 久々ですね(^-^)/ 大丈夫でしたか? 復活をお祝いします〓
2021/02/27 0:37
2. >>1 海斗さん
大変ご無沙汰してました!お元気でしたか?
僕は実は、2年近くの間に、色々ありまして…死にかけたり、
生き返ったり…
また、ぼちぼち書いて見ようかな?と思っています。
これは、以前書いたストーリーを投稿用に変更校正した
ものです。
2021/02/27 0:21
1. あらら 珍しい方の日記に。
楽しみが戻りました。(笑)