14か月目のマドンナ⑧ 小学生のレッスンの後、Naoは僕の膝に跨がって
ガレージにチャリを乗り入れると、僕は吹き出す汗もそのままに、石段に座り込んでしまった。
真夏の五時は、まだ真っ昼間だ。
おまけに、大門寺家は多摩川を見下ろす南西斜面にあるので、夕方の暑さは並みではなかった。
それでも、急いだ甲斐が合ってピアノ教室がハネるまで後二十分はある。
僕は洗車用の蛇口を捻って頭から水を被り、
尚子さんの117クーペのワイパーに掛けてあったタオルを一枚失敬して、顔と髪を思いっきり拭った。
やっと一息ついて、デッキチェアに横たわっていると、
尚子さんの澄んだ歌声が聞こえてきた。
僕は、この時間が好きだった。
うさぎ追いしあの山‥♪
小鮒つりしかの川‥♪
夏が来れば思い出す‥♪
遥かな尾瀬、遠い空‥♪
生徒達が弾く、まだよちよち歩きの伴奏に合わせて、尚子さんが歌う。
僕が息せき切らせてここに駆けつけた訳は、そんな尚子さんの歌声を聞きたかったからだ。
夏休みに入ると、尚子さんは火曜日と金曜日を小学生のレッスン日に当てた。
リキは、その日だけは裏庭のリキ部屋に閉じ込められてしまう。
リキの巨大さに驚いて、泣き出す子がいるからだ。
そんなわけで、僕が尚子さんと会う日も、教室が早く終わる火曜日と金曜日に合わせた。
今日は、八月最初の火曜日だった。
レッスンは後十分ほどで終わる。
僕は尚子さんの歌が良く聞こえるように、駐車場から道に出た。
大輪の鬼百合が数本、垣根のすき間から顔を覗かせていた。
この時間帯には、緩やかな川風が多摩川から坂道を吹き上げてくる。
垣根のてっぺんには、ナツアカネが二羽止まっていて、その透明な羽根がふわりふわりと揺れていた。
僕が尚子さんと再会してもうすぐ3か月になる。
先月までは週二度の尚子さんに会える日が待ちどうしくて、
僕は、会うなり尚子さんを抱きかかえ、そのまま貪るように重なっていた。
尚子さんは、そんな野獣のような僕にも、優しく耐えてくれた。
でも、長い二回目が終わると、ふとため息を吐いて、少し淋しげな顔を見せることが多くなった。
中学以来、僕のマドンナだった尚子さん。
彼女から性の手ほどきを受けられた僕は、幸運だった。
有頂天になって、本末を見失っていたのだろう。
たまには、我慢することだって彼女への思いやりなんだろう。
そんな風に自分を鎮めているうちに5時半になった。
生徒達が玄関から賑やかに出てくる。
瀬戸は日暮れて夕波小波♪
あなたの島へお嫁に行くの♪
子供達を見送るように、尚子さんがピアノを弾き始めた。
イントロの後、控え目に歌う尚子さんの歌声が聞こえた。
瀬戸の花嫁。
それは、二人だけの暗号‥
「早く来て!」のサインだった。
★☆★
シャワーを終えて、ジャージに着替えると、いつものように尚子さんはコーヒーを煎れて待っていた。
豆から煎れるコーヒーは、家で母が煎れるそれより格段に美味しかった。
でも、一生懸命作ったと言うクッキーは黒ずんで堅く、
お世辞でも美味いと言える代物ではなかった。
大門寺家のキッチンは、いつもピカピカで、
鍋釜どころか包丁ですら使われた形跡が殆ど見あたらなかった。
「美味しいね!」
心にもないことを言いながらクッキーに噛みつくと、ガリガリ割れる音がする。
「あら、ちょっと堅かったしら?」
「いや、普通だろ」
「こうして食べればいいのよ」
尚子さんは、コーヒーにしばらく浸けてそれを口に運んだ。
僕は笑ってしまい、尚子さんの真似をしながら、クッキーを口にくわえ、
テーブルの下から彼女の手を引いた。
子供達にピアノを教え、小学唱歌を一緒に歌う尚子さんの優しい眼差しが、
妖しいメス猫の目に変わって、しばらく僕を睨みつけた。
この劇的な変わり目が大好きで、僕は彼女の手を引き、向かい合わせに僕の膝の上に座らせた。
「さっき待ちながらね、色々考えてたんだよ」
「なに考えてたの?エッチなこと?」
尚子さんの両手が僕の首に回り、小さくてぽっちゃりした下唇が僕の唇に近づいてくる。
「こんなに素敵な人なのに、最近の僕は裸の尚子さんばかり思い浮かべている。そんな自分がさ、時々イヤになる」
尚子さんの顔がグッと近づいて、尖った舌が僕の歯を舐めた。
「あまり美味しくないクッキーの味がしたわ」
僕は、くくっと笑ってしまい、
「ミルクを入れ忘れたコーヒーの苦い味がした」と返した。
額をぶつけ合いながら、僕達はククっと笑った。
「考え過ぎよ由宇。あなたが今したいことは、きっと私もしたいこと」
「いいのかな?」
「ダメって言ったら我慢してくれるの?」
「無理かも‥」
「でしょ?だったらそんなこと言わないの!」
尚子さんは、笑いながら僕のジャージの紐を緩めた。
「そうね、じゃあ今日は一回にして、終わったら自由が丘にご飯食べに行きましょうね」
跨がった尚子さんの全体重が、脚にかかって僕は彼女の腰を支えた。
尚子さんの脚が僕の両脚を挟んで、痛いほどに締め付けた。
「由宇‥」
「なに?」
「抱っこしてベッドに連れてって!」
尚子さんは、いつになく決め付けるような口調で僕に命令した。
―続―
コメント
2015/11/04 19:15
35. >>34 しずく。.:*:・'°☆トミー&ロビン★さん
東京なら、銀座日本橋って感じかな?
そうね。好きな人と一緒なら、ドヤ街で買い物してても楽しいからな~。
返コメ
2015/11/04 19:06
34. >>33 ツブネコ
さん
いや、尚子さんとなら代官山にいくのと変わらず面白いはずです!
てね、
今は、
もっぱら、デパートや、
買い物の、便利なとこになってますね。
北は、梅田に遊びいって、
南は難波、らしいけど、ネイティブオオサカンは確かに南にもっぱら行くらしいです。
返コメ
2015/11/04 18:41
33. >>32 しずく。.:*:・'°☆トミー&ロビン★さん
梅田って、ビジネス街だよね?
神戸にいた子供の頃、オヤジと行った。あんまり面白くなさそうなところだね。
返コメ
2015/11/04 18:23
32. いい青春だね。
わたし、今日一人で梅田にいくんじゃなかった。
地理はわかったけど、
ちっとも楽しくない。
返コメ
2015/11/04 17:52
31. >>29 小鳥遊 (タカナシ )ミー 名前戻しました。さん
こんばんは。
そうだよね‥この組み合わせは、いくら何でもね。
ラストシーンはそれから40年後‥だったりして(笑)
返コメ
2015/11/04 17:46
30. >>28 リyo汰さん
おちかめっ!
歌姫って言ったら、りYo汰の方が上だったよ!
ま、意志よりも欲望の方が強い二人でしたが‥
この後、いろんな障害が二人の仲を引き裂こうとします。
返コメ
2015/11/04 17:18
29. セックスを覚えたての男子には、もうそれしかかんがえられなくなっちゃいますよね。
二人だけの合図。
でも、あまりにもできすぎた二人の時間は長くはないのでしょうね。
返コメ
2015/11/04 17:02
28. 最後の強い口調。。
彼女のなかで終止符へのカウントダウンが始まってたのかな。。と、思ってしまぃますた。
おちかめです(=^ェ^=)
エロさょりも切なさが出てきたって感じでした。
返コメ
2015/11/04 16:36
27. >>26 ツブネコ
さん
♪(´ε` )経験者は語る?
コメ欄占領失礼しました
そろそろ、ドロンします♪
|ω・`o)ノ"
返コメ
2015/11/04 16:22
26. >>25 みいさん
ちなみに、ちょいS同士が付き合うと、
最初の頃は、変なところでぶつかり合います(笑)
でもね、ちょいS女って結構可愛いんだよ。
↑↑
オレのほうがウワテだ(笑)
返コメ