14か月目のマドンナ⑩ ★怪談★二人の尚子さん!!?
人の記憶とは、実に曖昧なものだ。
更にその記憶に思いが入り、年月を経ると、それは雲が流れるように形を変えて行く。
そんな事を思い知る事件が起きたのは、僕が高二の秋の事だった。
尚子さんと僕が出会ってから、すでに二年半の年月が流れ、
親密な仲になってからも一年半が過ぎていた。
その頃の僕は、大学受験を控えて塾通いもあり、
週二回の尚子さんとの逢瀬も中々ままならず、気が立っていた。
尚子さんだって、もともとが我がままでご苦労なしのお姫様。
二人の会話の中に、以前はあるはずもない棘がチラチラ見えてきたのもその頃だった。
でも、そんな不満がぶつかり合いそうになっても、寸前で回避できたのは、
彼女に天性の優しさがあったからだろう。
そんな秋晴れのある日に、僕を唖然とさせる事件は起こった。
★☆★
その日は、母方の祖母の七回忌の法要だった。
喪主家である両親と僕は、法事の会場である菩提寺に一足早く着いて来訪客を待っていた。
六五歳で他界した祖母にことのほか可愛がられていた僕は、
葬式の時はまだ小学四年生。
まだ、人の死を受け入れられず、納棺の時に大泣きして棺にすがりつき、大人達を困らせた。
結局、そんな僕は同席していた親戚のお姉さんに預けられ、
火葬場には行かず、彼女に手を引かれ家まで送って貰うことになったのだ。
お寺から電車で三駅、三十分ほどの道すがら、彼女は色々なことを話してくれた。
自分は末娘で、兄はアメリカにいること。
今年から大学生になったと言うこと。
亡くなった祖母は、自分の叔母にあたると言うこと。
女性に憧れに似た感情を抱いたのは、その時が初めてだった。
しなやかな指。優しい物腰。澄んだ声。
あれから七年‥彼女はどう変わっているのだろう?
いや、あの時のままの姿で僕の前に現れるに違いない。
小学校四年の僕に、鮮やかな記憶を残して去っていった女。
ただ、彼女がこの七回忌に訪問してくれるかどうかは分からない。
僕は記帳テーブルの前に立って、祈るような気持で彼女を待っていた。
三々五々と参列者が集まり、法要の時刻が五分後に迫ってきた時だった。
年配のご夫婦と、若い女性が石畳をゆっくり歩いて来た。
彼女だ!それは一瞬で分かった。
七年前と同じように黒のスーツにハイヒールの彼女は、
両親の二歩ほど後を控え目に歩いてきた。
「お久しぶりです」
父と母が、その家族に頭を下げると、先方の紳士と奥方も頭を下げた。
「近くに居りながらご無沙汰致しております。皆様お変わりありませんか?」
先方の初老の婦人が、母に歩み寄って微笑みかけた。
その時、僕は‥
もう気が動転していて、視線が定まらなかった。
一体、今僕に何が起こっているのか?
親達が談笑している間、僕は彼女を見つめ続け、
彼女もまた、僕を見つめ続けた。
「ご記帳お願いできますか?」
やっとの思いで気を取り直し、僕は彼女に記帳を勧めた。
間違いなかった。
七年前のあの夜、泣きべそをかく僕を優しく宥めながら、家まで送ってくれた彼女だった。
そして、彼女もまた震えていた。
僕が差し出した記帳簿に彼女は、震えるその指先で筆を取った。
そして僕をキリッと見つめ、流れるような草書でしっかりと記帳した。
「大門寺尚子」
★☆★
尚子さんが行き着けの自由ヶ丘のイタリアンは、日曜日のせいか若いカップルで賑わっていた。
一つのレスカを二本のストローで啜り合っているカップル。
指を絡め合って、無言で見つめ合っているカップル。
そんな女達の中でも、当時流行りのホットパンツに、薄いアンバーのグラサンを掛け、
水玉のヘアバンドで髪をふわりと浮かせた尚子さんは、
どう見ても、僕より九つ上には見えず、ひときわ輝いていた。
「ねえ、冷めちゃうわよ。早く食べなさい」
姉のような言葉使いがしっくりくるのは、女系図で血が繋がっているせいかも知れない。
僕は、頷いてアンチョビオニオンのピザを一欠片かじっただけで、半分を取り皿に戻した。
考えるのはよそうと思っていた事が頭をよぎり、また僕はフッとため息を吐いてしまった。
「五親等ってことだったんですね」
尚子さんは、亡くなった祖母の十一年下の妹の末娘だったのだ。
つまり、僕の母方の祖母は、尚子さんの母方の叔母だった。
「そうみたいね」
尚子さんは、そう言いながら僕を睨みつけた。
「もうやめてよね。今さら敬語なんて‥」
「なんか振り出しに戻っちゃった気分だ」
「振り出し‥」僕の言葉を繰り返して、尚子さんはフッとため息を吐いた。
「泣き虫のチビ助が、その女子大生に恋しちゃったってわけ?」
「そうかも知れない。早くこの混乱を収めないと‥」
「もうやめましょうよ。自分が自分に妬きもちを妬くなんて‥もう、頭が変になりそうだわ!」
「縁は異なもの‥か?」
「ほんとね。でも今の私を置き去りにしないで!」
尚子さんの足が、すーっと伸びて来て、
ガラステーブルの下の僕の足を軽く蹴った。
「抱きたくなった」
「ふーん、今日はどっちの尚子を抱くの?」
「もちろん、僕の大事ないつものNaoさ。」
「もう一人の尚子は忘れるのね?」
「忘れはしないさ。もう少しで一つに合体させる」
―続―
また、完結が伸びちゃいました。
性格のしつこさが出るみたいだ(笑)
ごめんなさい。
コメント
2015/11/24 21:15
18.
素敵な思い出話に(人*´∀`)ウットリ
続きが楽しみです♪
返コメ
2015/11/24 18:59
17.
️
こんばんニャッ(=^. .^=)
しれっと戻ってきました(笑)
またよろしくでぇす^_-☆
日記おもしろく読ませてもらってます
不倫でなくても背徳感のある関係あるんですね。
いろんな意味でドキドキします
恋はやっぱりいーね(✻´ν`✻)
返コメ
2015/11/24 17:07
16. 遠い親戚だったなんて!
びっくりぽんな展開。
確かに脳内は混乱しますね。
返コメ
2015/11/24 14:43
15. 親戚関係!!Σ(゚∀゚ノ)ノ
親戚間は
安心感や懐かしさがあるのかな~…
由宇君、
憧れの人と知らずに
男女関係になれて
びっくり&感無量だったでしょうネ!!(*^^*)
でも、
周りからの物言いが、しんぱーい!
(✘д✘๑;)
返コメ
2015/11/24 14:35
14. ええぇーっ?て読んでて、まさかーっ
「大門寺尚子」って、彼女が記帳するシーンで、
うわっ、ネコパパやるな!って思っちゃいました。
返コメ
2015/11/24 14:16
13. こんにちは。(^◇^)┛
口紅まーくがない日記は、平静心で読めます(笑)
流れるような文章にうっとり。★☆★の前後の切り替えも鮮やかですね。
拍手です!
返コメ
2015/11/24 14:03
12. >>10
あゆ ふわりん
さん
ほんと、子育てって大変だよね。それも三人。
まあ、こんな恋バナにうつつを抜かす男女も、親の苦労があって成長したわけで‥
ゲーム親父には蹴りを入れて(笑)
子離れできるまで、もう少し。そこから、もうひと花咲かせましょう!
返コメ
2015/11/24 13:51
11. >>9 信太さん
最後まで同一人物だと気付かずに、混乱する由宇の気持ちを
読者の方にも少しだけ味わって頂きました(笑)
それにしても、戸惑うのは由宇ばかり。やはり女って肝っ玉が座っています(笑)
返コメ
2015/11/24 12:13
10. >>8 ツブネコ
さん![[涙]](https://img.550909.com/emoji/ic_face_tear.gif)
![[!?]](https://img.550909.com/emoji/ic_question.gif)
![[目がハート]](https://img.550909.com/emoji/ic_face_hearteye.gif)
3人の子育てに追われて色恋沙汰とは、無縁ですね~
ある意味リア充
子育てを理由にしてはいけませんね(笑)
人間ができてないので?心の余裕が無いんですよねぇ(;^_^A
色恋のリア充……憧れる
返コメ
2015/11/24 11:57
9.
こんにちわ。
待ちに待った続編ですが、頭が混乱してます。
二人の尚子さんが別人!と読み(笑)
再度読み直しをしました。
朝の頭はボンヤリしてて、、、
二人の出合いは、会うべくして会った!
ようですね。この後の二人の展開がますます
楽しみになりました(^^)v
続きを早く読みたいです。
もうアダルトマークはないのかな!?
返コメ