14か月目のマドンナ⑩ ★怪談★二人の尚子さん!!?
60代前半  東京都
2015/11/24 8:03
14か月目のマドンナ⑩ ★怪談★二人の尚子さん!!?
人の記憶とは、実に曖昧なものだ。


更にその記憶に思いが入り、年月を経ると、それは雲が流れるように形を変えて行く。


そんな事を思い知る事件が起きたのは、僕が高二の秋の事だった。



尚子さんと僕が出会ってから、すでに二年半の年月が流れ、


親密な仲になってからも一年半が過ぎていた。



その頃の僕は、大学受験を控えて塾通いもあり、


週二回の尚子さんとの逢瀬も中々ままならず、気が立っていた。



尚子さんだって、もともとが我がままでご苦労なしのお姫様。



二人の会話の中に、以前はあるはずもない棘がチラチラ見えてきたのもその頃だった。



でも、そんな不満がぶつかり合いそうになっても、寸前で回避できたのは、


彼女に天性の優しさがあったからだろう。




そんな秋晴れのある日に、僕を唖然とさせる事件は起こった。



     ★☆★



その日は、母方の祖母の七回忌の法要だった。


喪主家である両親と僕は、法事の会場である菩提寺に一足早く着いて来訪客を待っていた。



六五歳で他界した祖母にことのほか可愛がられていた僕は、


葬式の時はまだ小学四年生。


まだ、人の死を受け入れられず、納棺の時に大泣きして棺にすがりつき、大人達を困らせた。



結局、そんな僕は同席していた親戚のお姉さんに預けられ、



火葬場には行かず、彼女に手を引かれ家まで送って貰うことになったのだ。



お寺から電車で三駅、三十分ほどの道すがら、彼女は色々なことを話してくれた。



自分は末娘で、兄はアメリカにいること。

今年から大学生になったと言うこと。

亡くなった祖母は、自分の叔母にあたると言うこと。



女性に憧れに似た感情を抱いたのは、その時が初めてだった。



しなやかな指。優しい物腰。澄んだ声。



あれから七年‥彼女はどう変わっているのだろう?


いや、あの時のままの姿で僕の前に現れるに違いない。




小学校四年の僕に、鮮やかな記憶を残して去っていった女。


ただ、彼女がこの七回忌に訪問してくれるかどうかは分からない。



僕は記帳テーブルの前に立って、祈るような気持で彼女を待っていた。





三々五々と参列者が集まり、法要の時刻が五分後に迫ってきた時だった。



年配のご夫婦と、若い女性が石畳をゆっくり歩いて来た。



彼女だ!それは一瞬で分かった。



七年前と同じように黒のスーツにハイヒールの彼女は、



両親の二歩ほど後を控え目に歩いてきた。




「お久しぶりです」



父と母が、その家族に頭を下げると、先方の紳士と奥方も頭を下げた。



「近くに居りながらご無沙汰致しております。皆様お変わりありませんか?」



先方の初老の婦人が、母に歩み寄って微笑みかけた。






その時、僕は‥


もう気が動転していて、視線が定まらなかった。


一体、今僕に何が起こっているのか?



親達が談笑している間、僕は彼女を見つめ続け、



彼女もまた、僕を見つめ続けた。



「ご記帳お願いできますか?」



やっとの思いで気を取り直し、僕は彼女に記帳を勧めた。



間違いなかった。



七年前のあの夜、泣きべそをかく僕を優しく宥めながら、家まで送ってくれた彼女だった。



そして、彼女もまた震えていた。



僕が差し出した記帳簿に彼女は、震えるその指先で筆を取った。



そして僕をキリッと見つめ、流れるような草書でしっかりと記帳した。




「大門寺尚子」




     ★☆★



尚子さんが行き着けの自由ヶ丘のイタリアンは、日曜日のせいか若いカップルで賑わっていた。



一つのレスカを二本のストローで啜り合っているカップル。


指を絡め合って、無言で見つめ合っているカップル。



そんな女達の中でも、当時流行りのホットパンツに、薄いアンバーのグラサンを掛け、


水玉のヘアバンドで髪をふわりと浮かせた尚子さんは、



どう見ても、僕より九つ上には見えず、ひときわ輝いていた。




「ねえ、冷めちゃうわよ。早く食べなさい」



姉のような言葉使いがしっくりくるのは、女系図で血が繋がっているせいかも知れない。



僕は、頷いてアンチョビオニオンのピザを一欠片かじっただけで、半分を取り皿に戻した。



考えるのはよそうと思っていた事が頭をよぎり、また僕はフッとため息を吐いてしまった。



「五親等ってことだったんですね」



尚子さんは、亡くなった祖母の十一年下の妹の末娘だったのだ。


つまり、僕の母方の祖母は、尚子さんの母方の叔母だった。



「そうみたいね」



尚子さんは、そう言いながら僕を睨みつけた。



「もうやめてよね。今さら敬語なんて‥」



「なんか振り出しに戻っちゃった気分だ」



「振り出し‥」僕の言葉を繰り返して、尚子さんはフッとため息を吐いた。



「泣き虫のチビ助が、その女子大生に恋しちゃったってわけ?」



「そうかも知れない。早くこの混乱を収めないと‥」



「もうやめましょうよ。自分が自分に妬きもちを妬くなんて‥もう、頭が変になりそうだわ!」




「縁は異なもの‥か?」



「ほんとね。でも今の私を置き去りにしないで!」


尚子さんの足が、すーっと伸びて来て、


ガラステーブルの下の僕の足を軽く蹴った。






「抱きたくなった」



「ふーん、今日はどっちの尚子を抱くの?」



「もちろん、僕の大事ないつものNaoさ。」



「もう一人の尚子は忘れるのね?」



「忘れはしないさ。もう少しで一つに合体させる」




      ―続―




また、完結が伸びちゃいました。


性格のしつこさが出るみたいだ(笑)


ごめんなさい。




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コメント

60代前半  東京都

2015/11/24 10:20

8.  >>7 [クローバー]あゆ ふわりん[クローバー]さん

おはよう[晴れ]三人目の尚子さん(笑)

三人目の尚子さんは、リアル充実してますか?

僕は多忙で欲求不満気味(笑)

秋って、そんな季節らしいですね。

40代半ば  鹿児島県

2015/11/24 9:30

7. 尚子ってつく女は、男好きなのか?と思って読み進めたら、まさかの同一人物(◎-◎;)

ま、確かに男好きです。
こちらの尚子も(笑)

さあ、どうなる?

60代前半  東京都

2015/11/24 8:27

6.  >>3 ひろりん[黒ハート][ウィンク]さん

おはよう[晴れ]

ひろりん亭モーニングはもう時間切れですか?(笑)

さ、僕はコーヒーだけ飲んで出かけなくちゃ!

60代前半  東京都

2015/11/24 8:24

5.  >>2 [王冠][猫]ニャンコ先生[猫][王冠]さん

別人だと思っていた二人の女が、実は同一人物だった。

これは、かなり混乱しますよ。マジに(笑)

60代前半  東京都

2015/11/24 8:21

4.  >>1 小鳥遊 ミーさん

僕の日記の最長記録を更新中ですよ[バッド(下向き矢印)]

付き合ってくれてありがとう。この章は削れないんですよ。

まあ、好きにダラダラ書いてゆきます(笑)

50代後半  兵庫県

2015/11/24 8:19

3. おはょです[わーい(嬉しい顔)]

何とまあ
縁はいなものですなぁ[手(パー)]

30代前半  埼玉県

2015/11/24 8:16

2. 
おはょ~ございます[手(パー)]

世間て狭いな~(@_@)

続きが楽しみデス[グッド(上向き矢印)][グッド(上向き矢印)]

40代半ば  岩手県

2015/11/24 8:13

1. 最終回だと思ってました。

書いていくと色々な背景も書き足したくなるものですよね。

意外に葬式などで親戚だったと知らなかった知人と出会ったりするものですよね。
大人になると同時に気づいていく世間の狭さ。

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