26才の華奢な人妻と由宇の危険な関係‥迷い蝶①
60代前半  東京都
2016/06/24 6:14
26才の華奢な人妻と由宇の危険な関係‥迷い蝶①
補助自動車教習員。


それは、免許取得中のお客の持ち込み車に、仮免札をつけて路上教習などをすると言う、


一歩間違えれば大変なことになる、危険で怪しげな闇のバイトだった。



話を持ってきた悪友のヒロシによると、時給は当時では破格の二千円だと言う。



夏休みの前半で金を使い果たしていた僕は、そのうそみたいな儲け話に二つ返事で飛びついた。



26才の人妻、高倉令子は、そんな僕についた二人目のお客だった。




     ★☆★



「ねえ、由宇くんてどんな字を書くの?」



僕より五つ年上だと言う令子は、細い指でカーブのハンドルを切りながら助手席の僕に微笑みかけた。



「あ、ちゃんと前見て運転して下さいね!」



新車のクラウンを接輪でもさせたら、気分が悪いので、僕は少し大きな声を出した。




「あなたも、聞いたことには答えてよね!」



令子は、つんと唇を尖らせて僕を睨み付け、そのままアクセルをグイと踏んだので、



クラウンのメーターはいきなり四十を超えた。



「ちょっと危ないよ。左に寄せて一回僕に代わりましょう」



令子は、そんな僕を無視してS字カーブに入ると、難なくそれを通り抜けた。



糞生意気な女だと思った。



それに、令子は僕より頭一つも小さいチビのくせに、


運転している姿勢は、ハンドルにしがみつくでもなく、なぜかサマになっていた。



「あ、さっきの質問ね。自由の由に宇宙の宇って書くんです」



「ふーん、由宇‥素敵な名前じゃない」



令子はそう言いながら、
スタートラインに戻るとサイドブレーキを引いた。



     ★☆★



車を降りると、令子は普通の女に戻っていた。


普通の女‥僕が言う普通の女とは、


大学のキャンパスにごろごろいる、見慣れた女達のことだ。


お金持ちのお嬢で女子校育ち。流行りのキャンパスファッションに身を包んだ彼女達は、



第一志望を落ち、S大に転がり込んで来た僕たちを基本的に見下していた。


まあ、見下されるのも無理はない。ろくに勉強もせず、バイトやナンパに明け暮れ、


教室より雀荘に入り浸っている方が多い不良学生ばかりなんだから。



でも、そんなお姫様たちだって褒められたものではなかった。



鼻は高くても下半身のガードはユルユルだったからだ。



僕は、ふうっと大きな息を吐きながら、


飲み物を買って来るね!と席を立った令子の後ろ姿を目で追っていた。




見慣れた女‥なぜ僕は令子を見てそう思ったんだろう?



僕より一世代も年上の既婚女で、普段あんまり関わりのないタイプの女なのに‥



令子は、ホールの隅の自販機に屈んで、何やらスチール缶を取り出していた。



小ぶりな尻を膝下までの細いジーンズに包み、足には白いヒールサンダル。

薄いシャツをお腹の前で無造作に結ぶのは、


その頃の女子大生の流行りのファッションだったからだ。




それに、華奢で薄化粧で少し目が開き気味で、


どちらかと言えば童顔の令子は、とても26の奥様には見えなかったからだ。



戻ってきた令子は、カナダドライの缶を二本共僕のテーブルの前に並べ、プルトップを開けてくれと言う。



僕は笑いながら、いかにもな令子のリクエストに答えて、プルトップを引き開けた。




「はいどうぞ、奥様」



「やめてよ!奥様とか‥酒屋さんの御用聞きみたいで、可愛くないわ」



僕はその例えに受けて、笑い転げてしまった。



「私はあなたを由宇って呼ぶわ。だから由宇は私をレイって呼んで」



令子はカナダドライを一口飲むと、小さな口をキュッと結び、僕を睨みつけながらそう言った。



恐い顔を作ったつもりなんだろうが、テレビの幼児教室の先生に
「めっ!」て怒られたみたいで、僕はついつい笑ってしまう。




「いや、呼び捨ては良くないでしょ。五つもお姉さんなんだから」



「いいのよ、レイで。それから二度と歳の話とかしないでね」



僕は、思わず顔をしかめた。確かに女に歳の話を持ちかけるなんて最低だ。


素直に謝ると、令子はクスクスと笑い始めた。



「いいのよ由宇、やっと弟っぽくなったね」



弟?令子のその言葉が僕の頭の中をグルグルと回った。



「マミがね言ってたわ。由宇のこと、素直で可愛い弟タイプだって」



「マミって、ヒロシのお客さん?僕はそのマミさんには会ったこともないよ。」



「え、そうなの?」



また、ヒロシが適当なこと言いやがったな!そう思ったが、僕は今の状況に満足していた。



どう考えても、これは普通の補助教習ではなさそうだ。


まず、令子は運転が上手すぎる。


免許は持っているのだろう。それも結構ベテランだ。



僕は新ためて目の前の令子を見つめた。


いきなり僕に見つめられて、令子の鎖骨がピクリと動いた。



「弟タイプじゃなくて悪かったね」



「まだ分からないわ」



「ボタンが取れてるポケット♪汚れて丸めたハンカチ♪」か?



僕が歌い出すと、遮るように令子も歌いだした。



「あいつはあいつは可愛い年下の男の子♪」



二人で笑い転げていると、色んなわだかまりが急に吹き飛んで行った。



「私ね、一人っ子で女子校育ちでしょ。マミも同じで、私達幼稚園からずっと一緒なのよ」



「それで、可愛い弟が欲しいって?そいつはお生憎さまだったな」



「でも、まあいいか!って感じだわ。憎らしい弟だって普通にいるものね」



そんな他愛ない会話が途切れると、

令子は立ち上がって、突然、狭山湖に行こうと言いだした。



「狭山湖?」



僕は、さり気なく令子の横顔を伺った。


高速道路が不十分だった当時、狭山湖は数少ないラブホテルの密集地だったのだ。



「マミは、ヒロシさんと狭山湖まで行ったそうよ。すごく楽しかったって言ってたわ」



「ヒロシと狭山湖‥?」



僕はそう言いかけて、口をつぐんだ。


あの糞野郎、食いやがったな!



「楽しかったって、どんな風に楽しかったかマミさんに聞いた?」



「なんかね。詳しく聞かなかったけれど、とにかく楽しかったみたいなのね‥」



探りを入れてみても、令子は天然なのか、とぼけているか、全く要領を得ない。



「ね、早く行きましょ!お弁当作ってきたんだから」


「お弁当?」



多分、この脳天気な姫様は、意味が分かっていないのだろう。



僕は、屈託なく目をキラキラ輝かせている令子を見つめた。



成城の豪邸に住み、結婚三年目で医者の亭主は学会で渡米中だと言う令子は、僕から見れば宇宙人だ。





手こずりそうだな。



それとも‥?




僕は苦笑しながら、令子からキーを受け取った。




      ―続―





その一日は、二人の仲のただの始まりだった。


でも、それが長く険しい35年の歴史の、最初の1ページに過ぎない事など、



若い二人は、当然気付いてはいなかった。


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コメント

60代前半  東京都

2016/06/24 8:00

4.  >>2 ちゅろ[台風]じゅん〓さん

YモバイルのCMね(笑)

あれ、ソフバンのお父さんを超えた!と思うのは僕だけかな?

これは、バブルより少し前の話ですよ(笑)

60代前半  東京都

2016/06/24 7:55

3.  >>1 サンタさん

おはよう[晴れ]

そうですね。若者には不安もあったけれど、その倍の夢もあった。

引きこもりなんて、聞いたこともなかったな。

60代半ば  富山県

2016/06/24 7:53

2.  おはようございます。
私より少し上、20代でバブル経験、とにかく良かった!飲みの帰り道タクシー代下さったみたいなの。〓何もありませんが。YモバイルのCMを見て懐かしい自分ですよ(笑)[わーい(嬉しい顔)]

60代半ば  山口県

2016/06/24 6:26

1. あの頃はいい時代でしたね。金無くても毎日が楽しかった!
何となく金と女は集まって来てました(*^^)

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