迷い蝶‥私のことかな?令子はそう呟いた‥迷い蝶②
今でこそ、西武球団の本拠地、西武ドームが出来てすっかり整備されてしまった湖畔だが、
当時、狭山湖と隣の多摩湖の周辺には、幾つか手付かずの広い湿地帯があった。
この辺りは、虫達や鳥達や水生動物達の楽園で、
雨上がりの森からは、蝉の声が絶え間なく聞こえ、
カッコウやウグイスの♂達も、♀の気を引こうと必死に歌声でアッピールしている。
ここは、生き物達にとっては楽園に見えても、実は繁殖に命を賭ける戦場なのだ。
「ねえ由宇、そろそろお弁当にしない?どこかいい場所ないかしら」
「ああ、今探してる」
僕は生返事を返して、令子をチラ見した。
僕には、今日中にやり遂げなくてはならない仕事があるのだ。
それは、この世間知らずの上玉を組み伏せて、己のモノにする事。
それは、僕が男で令子が女である以上、
この森の生き物達すべてが秘めているものと同じ、普遍的な欲望なのだ。
でも、令子には交わり合う前の男女にありがちな、微妙に湿気を含んだ空気など微塵もなかった。
僕は少し気落ちして、湖畔を離れ、
木立が切れた広い路肩に令子のクラウンを停めた。
林道を十歩ほど上ると、畳十帖ほどの草原があった。
「ねえ、由宇って彼女に振られたって言ってたでしょ?」
「ああ、先月振られたよ」
僕は、令子に手渡されたレジャーシートを草の上に引きつめながら、そう答えた。
「虫なんかにかまけてる男なんて最低よ!女ってね、みんなそうなのよ」
令子は、バスケットからタッパーを三つ取り出してシートの上に並べた。
「うわっ、美味そうだな。腹減った。もう待ちきれないよ!」
ちょっとご機嫌斜めの令子を癒やすには、彼女が憧れている弟を演じればいい。
「お行儀悪い子は、また振られるわよ」
令子もノリ良く姉さん風を吹かせるのだが、
彼女を姉に見立てるのには、かなり無理があった。
150にも満たない背丈で、
良く動く目を除くと、令子の体はすべて小振りな部品で組み立てられていた。
でもそれは、171センチのケイと別れたばかりの僕にとって、とても新鮮に写ったのだ。
「ね、やっぱり来て良かったでしょ。そう思わない?」
僕は苦笑いを隠しながらうなずいた。
令子のジーンズの膝小僧が丸くて可愛い。
令子は決して安易に性を連想させる容姿ではないが、それが逆に僕を刺激する。
うきうきとタッパーを開けて並べる令子を見ていると、
ますます令子の腹の内が見えなくなった。
共学育ちの女なら、僕の下心などすべてお見通しだろう。
令子は、そもそも今日が初対面な女だ。
でも、この不思議な打ちとけ方は一体なんなんだ。
僕はもしかすると、こんな女と相性がいいのかも知れない。
こんなおままごとを楽しみに用意してきた令子。
そんな令子に野心を持つ自分がたわけ者に思えてきた。
でもそれは一瞬で、令子の襟口から垣間見える白い脇や細い鎖骨。微かな胸の膨らみ。
肩甲骨まである柔らかそうな黒髪、小さな足の爪。
そんな令子を見ていると、くすぶり続けていた野心が再びムラムラと燃え盛ってくるのだった。
令子が作った弁当は、とても手慣れた女が作ったものとは思えなかった。
ヘタを取ったパンに、スライスした玉ねぎやピーマン、
それに、厚切りのロースハムが挟まれているのだが、
ハムの厚さはまちまちで切り口もギザギザだった。
玉子サンドもスライスした玉子が壊れてバラバラになっていた。
もう一つのタッパーにはローストビーフとブロッコリーがぎっしり詰め込まれていた。
下手は下手なりに一生懸命作った跡がありありと見えた。
令子は自分はあまり食べずに、僕が次々と平らげる様子をにこにこしながら眺めている。
「最高に美味しいよ!」
「ほんと?私、あんまり本気で料理ってした事ってないんだ。いつも母に怒られている」
微妙に噛み合わない令子を、この後ホテルに誘う。
どうもその筋書きがしっくり書けい僕は、少しイライラしていた。
そんな時だった。
★☆★
「きゃーっ!」
切り裂くような悲鳴を上げて、突然令子が僕の腕にしがみついてきた。
「どうした?」
令子は僕の背中に回り、僕の腕を掴んでブルブル震えている。
彼女の指は僕の肩ごしに弁当のタッパーを指さしていた。
良く見ると彼女が食べ残したサンドイッチにシジミチョウが止まっている。
「蛾、蛾‥」
よほど怖いのか、令子は僕の脇腹を掴んで爪を立てている。
「蛾なもんか。シジミチョウじゃないか」
良く見ると羽が鮮やかな紫色のシジミチョウだった。
ムラサキシジミ。
それは、九州や三重県の一部にしか生息しない珍しいシジミチョウだ。
どうしてこんなところにいるんだろう。
僕は、弁当を包んでいたビニール袋を手に取って、令子を遠ざけた。
「ねえ、ねえ、何するの?やめてよ!」
「うるさい!ちょっとあっち行ってろ!」
僕を睨み付けふてくされた令子を尻目に、ビニール袋を泳がせると、ムラサキシジミは難なくその袋の中に収まった。
「ね、そ、それどうするつもり?」
「迷い蝶か…」
僕は袋の中の蝶を見ながら小さくため息を吐いた。
「えっ、何?」
「迷い蝶なんだよ」
「迷い蝶?」
戻ってきた令子は、恐る恐るビニール袋の中を覗き込んだ。
「迷ってるようには見えなかったけど」
僕は逃げようとする令子の手を引いて、彼女の目の前に袋の中の蝶をかざした。
「怖がらずに良く見てごらん。これはムラサキシジミっていうシジミチョウの一種でね、
本来は九州辺りにしか生息しない蝶なんだよ。
きっとこの前の台風で天高く吹き上げられて、ここまで飛ばされて来たんだろうね。
そんな可哀そうな蝶を迷い蝶って言うんだよ」
「迷子になってしまったのね。心細いだろうな、この子」
令子は、もう怖がることもせず、袋の中のムラサキシジミに優しい眼差しを送っている。
僕は、そんな令子が急に愛しくなって、肩を抱き寄せた。
「本来は蝶に迷いなんてないのさ。吹き飛ばされてたどり着いた新しい土地で初めて迷う。命をかけてね」
「由宇ってすごいね。理科の先生見たい」
「でもね、この蝶は新しいこの場所で繁殖することはまず無理だろうね」
「恋のお相手がいないもんね」
「そう。それに食性だって違うからね」
「どうするの?その蝶」
「稀にだけれど、同じ境遇の蝶と巡り会うこともある。諦めるなよ!」
僕は、そう言いながらムラサキシジミを低木の茂みの中に放った。
「迷い蝶….私のことかな?」
僕の腕から離れて、令子がポツリとつぶやいた。
「ん?何か迷ってるの?」
「本当は、マミにあなたのこと、いっぱい聞いたわ」
令子は、蝶が消えた林の方に目をやりながらつぶやいた。
「で、結局はみんな妄想だったんだろ?ヒロシが適当なことを吹き込んだだけだよ」
「でもね‥」
「ん、でもどうした?」
「由宇を好きになりそうになった」
「なんだ。過去完了形かよ?」
「まだ完了してない私が怖い」
令子は、僕から数歩後ずさり、まるで恐ろしいものでも見るような目で僕を見つめた。
―続―
続き③には、強烈な絡みシーンが入るので、
アダルトマーク付きになります。
気分が悪くなりそうなお嬢様は、
ここで、お引き返し下さい。
↑↑
えっ何?そんな女いないって?
コメント
2016/06/25 10:20
10. >>8 ノルネコ兎 ̄(=∵=) ̄さん
主婦失格級の料理の腕前ですた(笑)
ま、それは些細なこと。 ご愛嬌です(笑)
返コメ
2016/06/25 10:17
9. >>5 ノルネコ兎 ̄(=∵=) ̄さん
![[バッド(下向き矢印)]](https://img.550909.com/emoji/ic_bad.gif)
本当はまだ続きがあるんだけど、字数制限で載らなかった
迷い蝶は、学術的には「迷蝶」メイチョウて言うんだけれど、
僕が勝手に直しました(笑)
返コメ
2016/06/25 10:11
8. ?卵スライサーなかった?ボソッ(笑)
返コメ
2016/06/25 9:59
7. >>4 くまちゃんさん
ま、男は見てもいいでしょう(笑)
返コメ
2016/06/25 9:58
6. >>3 綾さん
絶対に見てはいけません!
後の責任は持てません!(笑)
返コメ
2016/06/25 9:57
5. >>2 ツブネコ
さん
迷い蝶って響きと完了けいになってない言葉(*^m^*) ムフッ
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2016/06/25 9:55
4. 今度はアダルトを必ず見ます。
返コメ
2016/06/25 9:50
3. >>2 ツブネコ
さん
激しいアダルト(^w^)
絶対見ます!
返コメ
2016/06/25 9:46
2. >>1 綾さん
はい、まさにキューピットですね(笑)
次は激しいアダルトなんで、よい子は絶対に見てはいけませんよ〓〓(笑)
返コメ
2016/06/25 9:42
1. 迷い蝶が、いい引き立て役になってますね(^w^)
次、アダルトーーーー(*^¬^*)
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