世紀の大不倫とその結末‥迷い蝶⑧(完結編)
排卵日が近づくと無性に由宇が恋しくなった。
でも、大手電機メーカーに就職し福岡支社に配属になった由宇とは、明らかに会える回数が減っていった。
それでも、私達は月一の逢瀬を重ねていた。
中間点の岡山、京都、大阪、神戸‥
観光もそこそこに、私達はお互いの体を生で貪りあった。
安全日だと偽っても、私は生を貫いた。
それは、無機質なゴムに二人の粘膜を遮られたくなかったから。
全てを捨てる覚悟だって出来ていた。
私は由宇と繋がりを解いた後も、脚を強く閉じて
彼の種を私の中に閉じ込めた。
一滴の由宇も手離したくなかった。
でも、私は妊娠することはなかった。
私にはきっと欠陥があって、子供なんか産めないんだ。
神様だって、こんな半端な私に子供なんか授けてくれない。
だいたい、出産などと言うグロテスクな儀式に私は耐えられるのだろうか。
怖い。恐ろしい。
でも、それがもし由宇の子なら…私はどんな事にだって耐えて見せる。
その頃はそう思っていた。
狂っていたのだろう。
夫、達也への負い目は常に私の中にあった。
留守がちな達也だったけれど、彼は医局での地位を確実に上げ出世していった。
達也は、常に何も言わなかったけれど、
優秀な医者である彼が、私の体の変化に気付かなかったとは、今は思えない。
達也は、全てお見通しだったのではないか?
だったら、私は彼の何だったの?
長い出張先に、彼女がいたとしても不思議じゃない。
でも、何も言わない彼には、私だって何も言えない。
そんな達也は、以前より明らかに私を求めて来るようになった。
私は求められれば、人形のように、でもそつなく彼に応えていた。
由宇に叩き込まれた性癖をしっかり封印して…
微笑みと達也の背に手を回す行為だけが、私ができる夫へせめてもの罪滅ぼしだったのだ。
そんな二年半の月日が流れ、私は三十三になった。
社会人として男盛りを迎えて行く由宇を、私は眩しく見ていた。
今までは考えても見なかった年の差を、ぼんやり意識するようになったのもその頃だ。
そして、更に気が遠くなるほどの月日が流れた。
★☆★
「凄ーい!お母さん、体操男子、団体で金メダルだって!」
次女の由香が、テラスから私とマミに手招きをする。
「マミさんもバアバも部屋に戻りなさいよ。山は紫外線が強いのよ。顔のシミが増えるわよ」
私の二人の娘、長女の愛と由香は、早起きしてリオオリンピックの速報を見ている。
この二人の娘はまるで性格の違うので、とても仲が良い。
「まったく由香のヤツは言うことがいちいちキツいね。でも憎めないから不思議よ」
マミの問いかけを、私は静かに笑いながら聞き流した。
私には、ここから動けないわけがある。
四年生になった孫の由一郎が、次から次へと色んな獲物を私に見せにくるからだ。
私は、そんな由一郎を溺愛している。
「バアバ!見て見て!」
近くの雑木林から戻ってきた由一郎は、真っ白な捕蝶網の中を私に見せた。
「へえ、ユウくん、あまり見かけない蝶々ね」
「アカボシゴマダラって言うんだよ。ほら‥」
「ふーん、きれいな蝶々ね」
それは、アゲハ蝶ほどの大きさで、色も鮮やかな
蝶だった。
「この蝶々ね、本当は沖縄の蝶々なんだよ。台風で飛ばされてきたり、誰かが幼虫を放して増えたんだね」
「へえ、そうなの?ユウくんて凄いね。理科の先生みたい!」
「でもね、ママは虫が大嫌いなんだよ。だから僕はバアバが好きなんだ」
私と由一郎のやり取りをミカがニヤニヤ笑いながら見ている。
「ユウくん、迷い蝶かも知れないわ。逃がしてあげなさい」
「迷い蝶ってなに?」
「そうね、今度ゆっくり話して上げるね」
「ぜったいだよ!」
「はい、約束ね」
私が出した小指に、由一郎が小さな小指を絡めてきた。
「うん、でも明日まで虫かごで飼っちゃダメ?」
「ダメダメ、バアバがカメラで撮って上げるから、バイバイしましょうね」
「うん、分かった」
カメラを取りに駆け出した由一郎の後ろ姿を見やりながら、ミカが意地悪そうに私の顔を覗き込んだ。
「ほんと、誰に似たんでしょ?血は争えないわね」
「ミカ、何度も言うけどね、愛も由香も達也の子よ。変な詮索しないで」
今日の富士山は、少し霞んで見えた。
三十七年前‥排卵日の二日前だった。
達也の子、愛を産んで二年後、私が泣きながら由宇に別れを切り出した日、
ベッドから見えた富士山も、今日のようにい霞んでいた。
由宇には、私がお腹に由香を宿した時点で、本当に別れを告げた。
だから、由宇は由香が生まれたことも、
その由香に由一郎が生まれたことも、な~んにも知らない。
子供や孫達には罪はない。
罪は私が墓まで背負って行けば良いんだから‥
迷い蝶、遠い昔由宇が多摩湖畔で見つけたシジミチョウ。
台風や暴風で巻き上げられ吹き飛ばされ、本来の生息地でない場所で発見される蝶のことらしい。
多くは、新しい環境に馴染めずに死に絶えてしまうらしいが、
メスはオスに比べるとふてぶてしく生き延びることもあるらしい。
卵を孕んだメスは更に強く、血にまみれても次の世代に運命を託す。
私もそんな迷い蝶。でも私は今日まで生き続けた。
強く生き延びて好きな人の血を残した。
だって女だから。
救いようのない女だから。
女に生まれたのだから。
―完―
不倫を題材にした官能ものでしたが、
最後は少し急いでしまいました。
本人は無意識ながら、肉食系悪女の令子の生き方には、多くの異論もあるでしょうが、
なにもかも全部含めて、
女ってずるく、生々しく、官能的で、でも優しい
‥
まあ、そんな話でした。
コメント
2016/08/10 16:42
18. >>15 ゆういちろうさん
こんにちは
ゆういちろうさんの書く話とは、登場人物の数や事象の多さがまるで違うので、比較の対象にはなりません。
僕には、あんな緻密な話は書けません。
でも、テンポの良さってのは絶対必要ですね。 この話は中盤の絡みシーンがしつこ過ぎました
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2016/08/10 15:44
17. >>6 ツブネコ
さん
これからがもっと暑くなるから気をつけてね。
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2016/08/10 15:39
16. ツブネコさんこんにちは(^^)
①から一気に拝読しました。
夫と以外の子どもを産んで、こんな強かに生きていける女性がいたらすごいですよねぇ…
もし書き直して、読ませていただける機会があればお願いしますm(._.)m
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2016/08/10 14:50
15. こんにちは。
大河的ストーリーを堪能させて頂きました。
やはり、話の流れをスピーディーにしなければならないなあと、自作と比較して反省しきりな気持ちになりました(>_<)
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2016/08/10 14:16
14. >>13 萌
萌
さん
これは女目線だけれど、僕が書いてる話だからね(笑)
あなたの雫なら一滴だって零したくない‥と実際言われたら、
うーん、ちょっと怖いかも(笑)
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2016/08/10 13:35
13. 脚を閉じて‥一滴の由宇も手放したくなかった。
↑
これ、エロ過ぎくない?
ほんと、こんな気持ちになったら怖いよww
返コメ
2016/08/10 13:12
12. >>10 信太さん
![[バッド(下向き矢印)]](https://img.550909.com/emoji/ic_bad.gif)
書き直すかもだけど、ここには投稿しないよ。
⑧まで書いたけれど、読み直すと全体的に流れが悪いな
改善点いっぱいだよ。
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2016/08/10 13:05
11. >>8
Mr・Crazy for you
さん
こんにちは
ハンネが華麗に変わりましたね!
夏は厳しいけど、去って行くのも寂しい。
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2016/08/10 13:01
10. >>9 ツブネコ
さん
えぇー!
書き直すんですか?
書き直しは、半年位先がいいわ。
やっとこ時代が今、オリンピック開催で
完結だから。
人肌恋しい冬に、、、エロだして
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2016/08/10 12:40
9. >>4 信太さん
昭和もバブル前の話から、一気に平成末期に話を飛ばしました。
タイムマシンに乗ったみたいだね。
この話、最初の出会いが安直だから、最初と最後に少し手を加えて、まじめに書き直してみようかな?
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