【ごみ箱の中の天使】② 手術台の上の子猫は、握りしめた僕の手に小さ
助手が2人呼ばれ、つくねの顎に防具が掛けられた。
メス皿の金属音が不気味に響いた。
僕の手のひら2つにも満たない小さな身体‥
つくねはそんな身体を更に縮めて、クゥッと泣いた。
それでも、一つしか開かない右目で僕を見つめている。
僕はその目を見つめてうなずき返した。
「ボロ雑巾なんて言ってごめんよ‥」
この子猫にとって、生まれてきた‥と言う事はどんな意味があったんだろう?
母親からはぐれ捨てられて、さまよい歩き‥
この傷はカラスか他の猫に襲われたのかも知れない。
このまま死んでしまったら、この子はあの世にどんな思い出を持っていくんだろう?
生きなければダメなんだよ。僕はつくねの白い手を握りしめた。
『少し時間がかかるわよ』
つくねの後頭部の膿溜まりは、ますます膨張して首筋に掛かり始めていた。
『膿が脳に回ったら大変!いいわね‥』
インターンの女性と僕とで、つくねの左右を押さえた。
心配するな‥と僕はつくねの背中をあやし続ける。
そんな僕も、次の瞬間、思わず目を逸らせた。
ヨウコ先生は、つくねの耳の裏側の傷口にメスを当て、一気に2センチほど切り裂いたのだ。
つくねは細かく震えながら、フーッと長い息を吐いた。
助手がガーゼを用意すると、先生は間髪をおかず傷口にハサミを入れた。
つくねが僕の手に小さな爪を立てる。
シャキシャキ…ハサミの不気味な音が響き、薄い毛皮が一気に頭頂部まで切り裂かれた。
黄色い膿が飛び散った。
僕の歯はガチガチなり、つくねの胸は細かく震えている。
ヨウコ先生のゴム手袋が、首筋に溜まった膿を絞り出す。
黄色い膿に赤い鮮血が混じった。
「もう少しだからね…」
ヨウコ先生の額の汗を、助手の女の子が拭った。
「こんな子‥見たことない」
ヨウコ先生がつぶやいた。
「あなた‥とっても素敵な子と出会ったわね」
傷口を注意深く消毒しながら、ヨウコ先生が一人ごとのようにつぶやいた。
「麻酔もかけないで、こんなに大人しく耐えるなんて…」
「本当に利口な子‥宝物よ!」
僕は、ヨウコ先生の目に涙を見つけて、息を呑んだ。
開かない目の処置、膿混じりの鼻水… 注射、抗生物質…
つくね〓の処置は、耳から頭頂部までの傷口の縫合で終わるまで2時間に及んだ。
診療時間はとうに過ぎ、気が付けば外は大雨だった。
その間に、僕に渡された診察券‥
それには‥
【和猫ミックス◎◎つくね‥男の子。推定年齢2ヵ月】そう書かれてある。
僕と同じ名字の子猫…
彼は僕の腕の中で、時々シャックリで小さな体を震わせながら、
僕のワイシャツの袖を掴んで離さない。
「本当は入院なのよ。でもこの子、時々あなたを探してる。片目をあけてね…
心配なのね‥また一人になっちゃうんじゃないかって‥」
手術着を脱ぎながら、ヨウコ先生はつくねに目を細めた。
「心配するな。絶対に離さないから…」
覗き込むと、うっすら目を開けたつくねと目が合った。
ミイラみたいに包帯でぐるぐる巻きにされている。
『痛かっただろ?良く我慢したね』
つくねは、片目を開けるのがやっとで、それも3秒ももたない。
視線が泳いで、また眠りに落ちてしまう。
僕は答える代わりにぎゅっと抱きしめてやる。
小さな口をパクパクする度に、ゴマ粒みたいな歯がキラキラ光っていた。
「先生、本当にありがとうございました。あの‥治療代は?」
「ひどい雨ね…傘させないでしょ。車で送っていかせるわ。」
「先生‥お支払を‥」
僕は耳を疑った。
「5000円です」
★☆★
こうして、つくねと僕‥二人一組の生活は始まった。
そして10年‥
当時は駆け出しだったAクリニックは、設備も一新しインターンも倍以上の6人に増えた。
つくねは、今でも病院の前を通ると、ビビって僕の肩に爪を立てるけれど‥
ようこ先生にギュッと見つめられると、
途端に犬のようにひっくり返って腹を見せ、
蚊の泣くような声で、にゃ~と泣く。
今、僕の布団に潜り込んでいるつくねは‥
かってのちっちゃな子猫ではない。
太い骨格、6.4キロの大型ネコ‥
お腹すいた‥
トイレが汚い‥
退屈だから遊ぼ!
朝迄に色んな事を言ってくるに違いない。
「もうすぐ連休だな~、どこか遊びに行こうか?」
「な~つくね‥」
だめだ、もうイビキかいてやがる(笑)
-完-
コメント
2017/04/15 23:18
44. >>43 海斗さん
の話ですけど、
これは、僕とつくね
複数の猫を保護して病気を治したり、
福島の原発被災地域に置き去りにされた猫達を保護する活動をし続けている人達もいます。
人間は欲張り過ぎで、地球の美味しいところを一人占めしようとしていますね。
話が逸れたけれど、僕はそんな人間のエゴには、必ず痛いしっぺ返しが来ると恐れているわけです。
返コメ
2017/04/15 21:11
43. >>42 ツブネコ
さん
つくねの生命力とツブさんの支えがあれば、成人式…大丈夫でしょう!
こういう謂れがある猫がつくねとは知りませんでした
返コメ
2017/04/15 19:44
42. >>40 海斗さん
に老いの影はまるで見えません。
猫の平均寿命は、確か17年位と聞きましたね。
まだ、つくね
でも、まず成人式までは健康を保ってもらわないとね。
返コメ
2017/04/15 19:33
41. >>39 リyo汰さん
は、おしっこが詰まった事件以来、
そうか。幸いつくね
大した病気もしないし、 下痢なんか一度もないんだよ。
でもな、そろそろ高齢猫。健康診断に連れて行こうかな。
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2017/04/15 17:20
40.
![[グッド(上向き矢印)]](https://img.550909.com/emoji/ic_good.gif)
![[グッド(上向き矢印)]](https://img.550909.com/emoji/ic_good.gif)
つくねの壮絶な生命力とツブさんの支えで今があるのだろう。
猫と人間をこえた絆は凄いや
猫の平均寿命は何歳でしょうか?
お二方の幸せを願います。
返コメ
2017/04/15 17:07
39. 猫は本当に我慢強くギリギリまで弱ったとこを見せることがなぃぶん、
まだ元気そうだな。。なんて、悠長なことゆってたら手遅れになるんだょね。
つくね、本当によく頑張ったね!
小さな爪でしっかり掴んだ幸せは離したらダメょ。
って、ツブネコさんが離せないね!笑
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2017/04/15 15:14
38. >>32 ひとみさん
も生まれて間もなくの試練を乗り越えて、今は穏やかに暮らしています。
春眠暁を覚えず…季節の変わり目は、体がだるいですね。
無理せず休んで下さい。
つくね
後頭部の5センチほどの手術跡は、今は毛に隠れていますが、
掻き分けて見る度に、当時のことが蘇りますね。
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2017/04/15 14:56
37. >>31 風来坊さん
長生きして欲しいですね。
僕も今は、犬より猫派寄りかな。
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2017/04/15 14:54
36. >>30 クロコダイル・ダンディ・ケンジさん
欲かいちゃダメそうですね(笑)
返コメ
2017/04/15 14:53
35. >>29 信太さん
64キロの猫がいたら、イビキもでかいだろうし、
ちょっと一緒には寝れないよ(笑)
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