【ごみ箱の中の天使】② 手術台の上の子猫は、握りしめた僕の手に小さ
60代前半  東京都
2017/04/15 7:42
【ごみ箱の中の天使】② 手術台の上の子猫は、握りしめた僕の手に小さ
助手が2人呼ばれ、つくねの顎に防具が掛けられた。

メス皿の金属音が不気味に響いた。


僕の手のひら2つにも満たない小さな身体‥


つくねはそんな身体を更に縮めて、クゥッと泣いた。


それでも、一つしか開かない右目で僕を見つめている。



僕はその目を見つめてうなずき返した。



「ボロ雑巾なんて言ってごめんよ‥」



この子猫にとって、生まれてきた‥と言う事はどんな意味があったんだろう?



母親からはぐれ捨てられて、さまよい歩き‥


この傷はカラスか他の猫に襲われたのかも知れない。



このまま死んでしまったら、この子はあの世にどんな思い出を持っていくんだろう?




生きなければダメなんだよ。僕はつくねの白い手を握りしめた。




『少し時間がかかるわよ』



つくねの後頭部の膿溜まりは、ますます膨張して首筋に掛かり始めていた。



『膿が脳に回ったら大変!いいわね‥』



インターンの女性と僕とで、つくねの左右を押さえた。



心配するな‥と僕はつくねの背中をあやし続ける。



そんな僕も、次の瞬間、思わず目を逸らせた。



ヨウコ先生は、つくねの耳の裏側の傷口にメスを当て、一気に2センチほど切り裂いたのだ。



つくねは細かく震えながら、フーッと長い息を吐いた。


助手がガーゼを用意すると、先生は間髪をおかず傷口にハサミを入れた。


つくねが僕の手に小さな爪を立てる。



シャキシャキ…ハサミの不気味な音が響き、薄い毛皮が一気に頭頂部まで切り裂かれた。



黄色い膿が飛び散った。


僕の歯はガチガチなり、つくねの胸は細かく震えている。


ヨウコ先生のゴム手袋が、首筋に溜まった膿を絞り出す。


黄色い膿に赤い鮮血が混じった。


「もう少しだからね…」


ヨウコ先生の額の汗を、助手の女の子が拭った。



「こんな子‥見たことない」


ヨウコ先生がつぶやいた。



「あなた‥とっても素敵な子と出会ったわね」



傷口を注意深く消毒しながら、ヨウコ先生が一人ごとのようにつぶやいた。


「麻酔もかけないで、こんなに大人しく耐えるなんて…」


「本当に利口な子‥宝物よ!」


僕は、ヨウコ先生の目に涙を見つけて、息を呑んだ。





開かない目の処置、膿混じりの鼻水… 注射、抗生物質…


つくね〓の処置は、耳から頭頂部までの傷口の縫合で終わるまで2時間に及んだ。



診療時間はとうに過ぎ、気が付けば外は大雨だった。


その間に、僕に渡された診察券‥


それには‥


【和猫ミックス◎◎つくね‥男の子。推定年齢2ヵ月】そう書かれてある。

僕と同じ名字の子猫…


彼は僕の腕の中で、時々シャックリで小さな体を震わせながら、


僕のワイシャツの袖を掴んで離さない。



「本当は入院なのよ。でもこの子、時々あなたを探してる。片目をあけてね…
心配なのね‥また一人になっちゃうんじゃないかって‥」



手術着を脱ぎながら、ヨウコ先生はつくねに目を細めた。


「心配するな。絶対に離さないから…」


覗き込むと、うっすら目を開けたつくねと目が合った。


ミイラみたいに包帯でぐるぐる巻きにされている。


『痛かっただろ?良く我慢したね』


つくねは、片目を開けるのがやっとで、それも3秒ももたない。


視線が泳いで、また眠りに落ちてしまう。


僕は答える代わりにぎゅっと抱きしめてやる。


小さな口をパクパクする度に、ゴマ粒みたいな歯がキラキラ光っていた。


「先生、本当にありがとうございました。あの‥治療代は?」


「ひどい雨ね…傘させないでしょ。車で送っていかせるわ。」



「先生‥お支払を‥」


僕は耳を疑った。


「5000円です」



    ★☆★



こうして、つくねと僕‥二人一組の生活は始まった。


そして10年‥    


当時は駆け出しだったAクリニックは、設備も一新しインターンも倍以上の6人に増えた。



つくねは、今でも病院の前を通ると、ビビって僕の肩に爪を立てるけれど‥


ようこ先生にギュッと見つめられると、


途端に犬のようにひっくり返って腹を見せ、

蚊の泣くような声で、にゃ~と泣く。



今、僕の布団に潜り込んでいるつくねは‥


かってのちっちゃな子猫ではない。


太い骨格、6.4キロの大型ネコ‥



お腹すいた‥

トイレが汚い‥

退屈だから遊ぼ!



朝迄に色んな事を言ってくるに違いない。



「もうすぐ連休だな~、どこか遊びに行こうか?」


「な~つくね‥」


だめだ、もうイビキかいてやがる(笑)




     -完-







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コメント

70代以上  埼玉県

2017/04/15 8:52

14. 
お早うございます。
手術シーンが小さくまとめてあって、
良かった!助かった!

昨日、泣きそうになり、涙が落ちた。
今日は、つくねチャンの64㎏に驚いて
涙は何処かに行っちゃった♪
52㎏のワタシより、小さな身長で、、、
肥満じゃない!?

パパの愛情を一身に受けた13年間が
幸せ太りの貫禄のつくねチャンに(^^)
いつまでも元気に、パパさんを支えて
共に長生きして欲しいでつ。

70代以上  山口県

2017/04/15 8:51

13. おはようございます。

今もつくねをヨウコ先生に会わせることあるのかな?

6キロはデカいわ~パパより貫禄あるね

60代前半  東京都

2017/04/15 8:41

12.  >>9 クロコダイル・ダンディ・ケンジさん

窮地ねえ…何度か切り抜けてきたのは、

つくね[猫]の御利益かも知れないね。

60代前半  東京都

2017/04/15 8:39

11.  >>8 唯我独遊中(アイリ)さん

骨太でガッチリしてるんだよね。

人間の♀にはあまり縁がないけど、なぜかにゃん子には縁があるみたいだ(笑)

60代前半  東京都

2017/04/15 8:35

10.  >>6 ちなつさん

おはよう[晴れ]

犬派(大型犬)だったんで、猫にはあまり関心がなかったんだよ。

手術の間、怖くて震えが止まらなかったよ。

2017/04/15 8:34

9. 
『赤子の魂百迄も』って諺も有る位だからツブさんやようこ先生の窮地にはきっとつくねちゃんが救ってくれるでしょうねぇ~(⌒0⌒)/~~

40代半ば  福岡県

2017/04/15 8:31

8. 
えらく、
立派にデカくなったね(笑)。

もともと、
逞しいタイプだったか・・・。

縁って、あるよね~♪

60代前半  東京都

2017/04/15 8:31

7.  >>5 ブサ男さん

そうかな?

じゃあ、期待しないで待っていよう(笑)

50代前半  埼玉県

2017/04/15 8:29

6. 
お久しぶりです[わーい(嬉しい顔)]

ツブネコさんが猫嫌いとは知らなかったわ[冷や汗2]

つくねちゃん耐えたね[ほっとした顔]

生きるために必至だったのがよく伝わります[わーい(嬉しい顔)]

50代半ば  茨城県

2017/04/15 8:25

5.  >>2 ツブネコ[芽]さん
いやいやきっとありますよ。

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