raison d'etre
70代以上  山口県
2022/08/17 20:47
raison d'etre






とある 深い森の中


柏の木があった。


何百年も その森の その世界の


栄枯盛衰を見とどけた


それは それは 立派な大樹だった。





毎年 今の時期になると


その大樹には 近くの水辺から蜉蝣が飛来する。


蜉蝣達は その大樹の幹の周りを


美しくも 舞い踊り続ける。






そして その 一晩だけ


束の間の生を終えるのである。







ある時 大樹は蜉蝣にたずねた。






蜉蝣よ 何故だ。


私は数百年と生きてきたが


未だに 生の喜びを 感じたことが無い。


なのに 何故 お前達は


その短い命を 何故


そんなにも楽しく過ごせるのだ?







蜉蝣達は ただ 笑い続け 


答える事は なかった。


そして 恋をして バタバタと死んでいった。






大樹は 寂しかった。








ところがある日 大嵐が起きた。


それは 数百年に一度の大嵐だった。







大樹は懸命に嵐と戦った。






白鶺鴒の家族が 助けを求め 大樹に飛び込んできた。


その後も たくさんの白鶺鴒達が大樹に助けを求めてきた。






大樹は それを受け入れ


必死に 守り続けた。








翌朝 嵐は 去った。







その やわらかく あたたかい陽差しの中


無残に倒れた大樹があった。







そよ風の中


白鶺鴒の家族達を守り抜いた喜びに


その葉を 揺らせながら。










相反するが


一瞬の生を全うする喜びもあれば


その使命に気づくまで


その生を充足させていく喜びもある。







自分の道は 間違っていたのか?


自分は今 幸せなのか?


自分は今もまだ後悔しているのか?


変わらないものがあるのか?










そんな事 誰にもわからない。


わかるはずがない。












これからだよ ね。


























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