わや
「昨日、寝ている時に『腕やら脇腹やらが、なんかゴソゴソするなぁ』と思って目が覚めて、掴んだ物を見たら手の中にムカデがいて、ビックリして放り投げたらまだ生きて動いてたから、その後でメシッと握り潰した」と、先日のお休みに棚を作ってくれた男子が、握り拳を作って見せながら言います
「マジ、ビビった!」
太い腕を撫でながら言います
「え?掴んだ時に、刺されなかったの?」
「這い回ってる時に腕を刺されたけど、大丈夫よ」
「どうもないの?」
「ちょっと痛痒い、ちょっとね」
数日前に買った、虫刺され塗り薬を渡しました
「たいしたこと、ないけぇ」
太い二の腕にクシクシと塗って、ヌンッと返してきました
「貸すから、持って帰れば?」
「いや、これでもう大丈夫」
「はぁ?ムカデに刺されて『痛痒い』くらいで済むなんて、どんな筋肉してるんだか…」
「頑丈なんよ」
私のふくらはぎほどありそうな、太い二の腕をペシペシ叩きながら笑います
「あ~、お仕事で筋肉が付きすぎて、脳に痛みや痒みが伝わりにくくなったんじゃない?」
「おばちゃん、わやいうけぇ…」
「なんて?」
「わや言う!」
時々、彼の使う山口弁についていけません
隣の女の子が通訳してくれます
「むちゃくちゃ言う、みたいな?」
「そかそか!『わや』ね。聞いたことある気がする」
「そう!わや!」
伝わった安心感からか、どや顔で言います
「あ!鍛えすぎて脳みそも筋肉になっちゃって、痛みや痒みがわからないとか?」
「いやいやいや!いくらなんでも、それは変やろ?」
「ますます、わや!」と私が言って、3人で笑いました
お布団は「気持ち悪いから、クリーニングに出した」そうです
この男子、スーパーマーケットの『アルク』は、日本全国にあると思っています
「ないからね」
「おばちゃん、マジで言いよん?」と、目を大きく見開いて聞き返してきます
「検索してみたら?」
しばらくして、呟きました
「…マジかぁ」