放置扱い
60代前半  山口県
2017/07/13 12:18
放置扱い
「転居した人達の使っていた自転車が、自転車置き場に放置されています。住んでいる人達の自転車が停めにくいので、放置自転車を撤去してください」

アパートを管理している不動産屋さんに、ずいぶん前から夫がお願いしていました

『放置自転車を撤去します。お使いの自転車に紙が貼られていたら、お手数ですが剥がしてください』
プリントが入りました

「やっとボロ自転車がなくなって、置きやすくなるぞ」
喜んでいます


その話をした翌日の朝は、燃えるゴミの日

ゴミ袋を持って、自転車置き場の前を通りました

「あれ?」
夫の使っている自転車に、放置自転車の貼り紙があります

「放置自転車の苦情を言った人の自転車が、放置自転車扱いされてますよ~!」
写メってLINEで送りました

子どもにもウケたくて、同じ写メを送信しました

「よいよ、やれんのぉ」
帰ってきた夫が、ぼやきます

翌日、自転車で出掛けようと言うと、「パンクしちょる」と言います

車に乗せて、5分ほどの所にある大きな自転車チェーン店に行きました

タイヤを確認する店員に、夫が言います
「しょっちゅう、パンクするんちゃ。誰かがいたずらするんかねぇ」

「体重が問題じゃないんですか?」
突っ込みたいのを、我慢します

「そうですかぁ?チェーンが外れてるのは、わざとですかぁ?」
この店員は、ふざけた喋り方で言いました

「え?!」
夫が、驚いて覗き込みます
「ほんまじゃ…」

「カバーも割れてますしぃ、チェーンのサビがすごいのでぇ、油も射さないといけないしぃ、これを修理すると結構かかりますよぉ?」
チェーンを触りながら言います

「えぇ?!だから、貼られとったんか…」
夫が、挙動不審になりました

「5年半も、メンテナンスなしで乗ったんですから…。これからを考えたら、修理するよりも新しいのを買う方が、いいんじゃないですか?」
私が言いました

店員の目が輝いて、態度が本気モードになりました

突然の展開にあきれた夫は、店員に説明されながら付いて回るだけです

「これでいいよ」

「変速機も付いてないし、自力発電のライトだし…。最低でも3段変速でオートライトの方が、乗るのが楽です」

私がインチや変速機やライトのことで、細かい条件を出すと、それに合うのが何台か出てきました

夫の気に入った形と色に、決めました

店内に入って支払いをして、保険と防犯登録の手続き書類を書きました

「廃棄自転車手数料は1,080円いただきますが、新車ご購入の場合は半額の540円です」

「かかるものは、仕方ないね」
夫が私を見ます

「いえ、お金は出さない方向でお願いします」
私が言いました

「え?!」
夫と店員が、私を見ます

「放置自転車扱いで…」

「あ~、そういうこと?」
夫が納得しました

店員がキョトンとして、夫を見ます

「持って帰ります」
夫が、ひと言で説明を終えました

「はい~、わかりましたぁ」

店員にホッチキスを借りて、ついさっき捨てたばかりの『放置自転車の目印の紙』を、夫が車のゴミ箱から取り出して、壊れた自転車のハンドルに取り付けました

「最低でも2~3ヶ月に1回くらいは、メンテナンスに寄ってくださいねぇ」
サビて壊れた自転車を見せられた店員が、くどいほど念を押します

買ったばかりの自転車には夫が乗って、私は壊れた自転車を積み込んだ車を運転して、別々にアパートに戻りました

修理を断念した故障自転車を、自転車置き場の元の場所に戻しました

放置自転車扱いはかわいそうですが、このステキなタイミングを使わない手はありません

華奢な車体が悲鳴を上げそうな、重たい夫を乗せてよく働いてくれました

「ありがとう」

6段変速の折り畳み自転車の、サドルを撫でてお別れを言いました
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