「おばちゃん！早く来て！霧が出てるよ！」
玄関ドアを開けた男子が、私を呼びます
　
「ちょっと待って～！」
洗い物をそのままにして、大急ぎで表に出ました

モヤッとした霧が、町を包んでいました

10ｍほど先に停めてある私の車は、シルエットにしか見えません

近づくと、ボディーに付いた小さな小さな水滴が外灯を反射して、ねっとりとした不思議な輝き方をしています

「うわぁ！走りに行きたい！」

「なんで？」
先程の男子が聞きます

「フォグランプの具合を見たいじゃない？」

「なんで？」

「これに付いてるのが、白だからよ」

「え？白は、いけんの？」

白では光が乱反射して見辛いので、黄色いフォグが好きです

「あ～！俺も白より黄色が好き！」
後から出てきた男子が、私に同調します

今まで乗っていた車のフォグランプを、９月に濃い黄色い電球に替えました

霧を体験できないまま、先月の半ばに夫に渡しました

「あぁあ～！今夜、あれで走りに出たかったなぁ」

霧の高速道路の中を進む様子を、想像することしかできません

「残念やったねぇ」
白と濃い黄色の違いに興味のない男子が、車に乗り込みながら空を見上げます

この男子は、フォグランプどころか、車の全てに関心がありません

今年の２月終わりに声を掛けなかったので、４月までスタッドレスを履かせたままでした

それに気付いて、居合わせた子ども達と一緒に、家の前でノーマルに交換しました

メンテナンスを気にかけるのは、私の担当

「道が凍り始めるから、来月初めまでにはスタッドレスに履き替えるのよ」
発進する車に声をかけました

聞こえた男子が手を上げて応えて、ブゥンと帰って行きました


今の私の車のフォグは、電球を替えることが出来ません

カバーに、黄色いフイルムを張ろうと話していました

他のことに振り回されて、フイルムの手配をする前に霧が出てしまいました


「おばちゃん、やべぇね！こんなん、どこにもおらんよ」
ぼんやり空を見上げていたら、スベスベに仕上がったリアのエンブレム跡を、携帯ライトで舐めるように照らしていた男子が、感動した声で言いました

「最高の誉め言葉を、ありがとう！鈑金屋さんに伝えとくね！これを、こ～んなオバサンが走らせてるの～」

でも、誰の車も、誰とも違う車だと思います
いろいろ個性が出ていて、車の表情が違います


フィルムを貼ったら、次は車番を変えます