幸せの玉手箱
60代前半  山口県
2018/07/01 12:08
幸せの玉手箱
「あ~、ケーキが食べたい…」
 
甘い誘惑が、頭をよぎります
 
用事に追われて、ケーキ屋さんに寄ることもせずに日が経ちました

一昨日の夜、「明日は休みだから」と言って、だらだらと思い出話や世間話をして帰った近所の男子が、「行くとこないから」と昨日もきました

手には白い箱を提げています
「どうしたの?」

「ん?食べたかったから、ここに寄りかけて、通り過ぎて、そこのケーキ屋に寄ってから、ここにきた…」

「そっか。ちょっと待っててね」

(何かあったかしら?)
ちょっと気になりますが触れずに、最近はアイスコーヒーにハマっていると言う彼に、よく冷えたコーヒーを出しました

(あ…)
向かい合って腰掛けてから、思い出しました

前に受けた資格試験の、合格発表が近いはずです

何度か落ちているので嫌な想像しか浮かばなくて、落ち着かないのかもしれません


提げてきた白い箱を開けると、フランボワーズやガトーショコラや、莓の乗ったショートケーキが入っています

「幸せの玉手箱だ!ケーキが食べたいなぁって思ってた、わかった?」

「ん~ん。オレが食べたかったんよ」

「あらぁ、伝わったかと思っちゃった!はい、お持たせですけど、お好きなのをどうぞ!」
箱を開けて、取りやすい向きで差し出しました

「お母さまがお先にどうぞ」
箱が向きを変えて、こちらにきました

「いいの?なら、これにするわね」

「やっぱ、それかぁ!オレは、ホールで食べたいくらい、これが好きなの」

勘が当たって、その上、自分が好きなのと重ならなくて、嬉しそうです

パクン

濃いフランボワーズと苦味のあるチョコレートが、口の中で混ざって融けていきます

パクン!

一口ごとに、幸せを食べている気分です

「ん~!おいしいねぇ!」

「うん、うまいっすね」


以心伝心?

願いが叶いました
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