幸せの玉手箱
「あ~、ケーキが食べたい…」
甘い誘惑が、頭をよぎります
用事に追われて、ケーキ屋さんに寄ることもせずに日が経ちました
一昨日の夜、「明日は休みだから」と言って、だらだらと思い出話や世間話をして帰った近所の男子が、「行くとこないから」と昨日もきました
手には白い箱を提げています
「どうしたの?」
「ん?食べたかったから、ここに寄りかけて、通り過ぎて、そこのケーキ屋に寄ってから、ここにきた…」
「そっか。ちょっと待っててね」
(何かあったかしら?)
ちょっと気になりますが触れずに、最近はアイスコーヒーにハマっていると言う彼に、よく冷えたコーヒーを出しました
(あ…)
向かい合って腰掛けてから、思い出しました
前に受けた資格試験の、合格発表が近いはずです
何度か落ちているので嫌な想像しか浮かばなくて、落ち着かないのかもしれません
提げてきた白い箱を開けると、フランボワーズやガトーショコラや、莓の乗ったショートケーキが入っています
「幸せの玉手箱だ!ケーキが食べたいなぁって思ってた、わかった?」
「ん~ん。オレが食べたかったんよ」
「あらぁ、伝わったかと思っちゃった!はい、お持たせですけど、お好きなのをどうぞ!」
箱を開けて、取りやすい向きで差し出しました
「お母さまがお先にどうぞ」
箱が向きを変えて、こちらにきました
「いいの?なら、これにするわね」
「やっぱ、それかぁ!オレは、ホールで食べたいくらい、これが好きなの」
勘が当たって、その上、自分が好きなのと重ならなくて、嬉しそうです
パクン
濃いフランボワーズと苦味のあるチョコレートが、口の中で混ざって融けていきます
パクン!
一口ごとに、幸せを食べている気分です
「ん~!おいしいねぇ!」
「うん、うまいっすね」
以心伝心?
願いが叶いました