強風に吹かれる
60代前半  山口県
2019/10/14 17:16
強風に吹かれる
台風のくる前の、強風が吹き荒れる朝
 
風の鳴る音が怖くて徘徊の度合いを増した犬を、朝のお散歩に連れ出したのは6時過ぎでした

電線が揺れて、ビョンビョンと鳴ります

怖がって、犬が私の足に体をくっつけてきます

道路の小さな砂が、風で舞い上がって足にピチピチと当たります


私は、高校までを関東のいなかで過ごしました

まだ建物の少ない台地は空っ風が吹き付けて、砂がパチパチとスカートから出た足に当たって、痛くて立っていられませんでした

「キャーッ!痛い、痛い!」

登校班のみんなでしゃがみこんで、やり過ごしながらの登下校でした

制服のない学校だったので、誰が一番早くズボンを履くかの我慢比べでした

足に当たる砂が痛かったので、仲よしと話し合って同じ日にズボンを履きました

巻き上がる砂で、町が霞んで見えたのよね…

懐かしい記憶を手繰りながら、強風でスカートを翻しながら歩いていると、前から見たことのないご高齢の女性が来ました

強風に煽られて、足元のおぼつかない歩き方です

すれ違う時に、「台風はまだ来てないのに、台風みたいな風ねぇ」と、話しかけられました

「超大型の台風の雲の端っこが掛かっていますから、夕方くらいまでは強風が続くと思いますよ」

「関東の方は大変よねぇ」

まるで他人事のような、呑気な言い方です

「ここも91年の19号台風では電信柱が倒れましたから…。みんな、台風の備えには馴れていますけど、風は耐えてやり過ごすしかありませんよね」

「怖いわねぇ。その時は介護で東京にいたから、私は知らないわよ」

「そうでしたか。風で転ばないように、気を付けて早めにお帰りくださいね」

やんわりと、お帰りを促しました

「ありがとう」と言うと、強風に立ち向かうように前のめりになりながら、トコトコと歩いて行きます

まだ帰る気はなさそうでした

転んだら自己責任

携帯を持ってなさそうなご高齢なので、救急車を呼んでくれる人のいる場所で、強風に吹かれて欲しいと思いながら見送りました
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