強風に吹かれる
台風のくる前の、強風が吹き荒れる朝
風の鳴る音が怖くて徘徊の度合いを増した犬を、朝のお散歩に連れ出したのは6時過ぎでした
電線が揺れて、ビョンビョンと鳴ります
怖がって、犬が私の足に体をくっつけてきます
道路の小さな砂が、風で舞い上がって足にピチピチと当たります
私は、高校までを関東のいなかで過ごしました
まだ建物の少ない台地は空っ風が吹き付けて、砂がパチパチとスカートから出た足に当たって、痛くて立っていられませんでした
「キャーッ!痛い、痛い!」
登校班のみんなでしゃがみこんで、やり過ごしながらの登下校でした
制服のない学校だったので、誰が一番早くズボンを履くかの我慢比べでした
足に当たる砂が痛かったので、仲よしと話し合って同じ日にズボンを履きました
巻き上がる砂で、町が霞んで見えたのよね…
懐かしい記憶を手繰りながら、強風でスカートを翻しながら歩いていると、前から見たことのないご高齢の女性が来ました
強風に煽られて、足元のおぼつかない歩き方です
すれ違う時に、「台風はまだ来てないのに、台風みたいな風ねぇ」と、話しかけられました
「超大型の台風の雲の端っこが掛かっていますから、夕方くらいまでは強風が続くと思いますよ」
「関東の方は大変よねぇ」
まるで他人事のような、呑気な言い方です
「ここも91年の19号台風では電信柱が倒れましたから…。みんな、台風の備えには馴れていますけど、風は耐えてやり過ごすしかありませんよね」
「怖いわねぇ。その時は介護で東京にいたから、私は知らないわよ」
「そうでしたか。風で転ばないように、気を付けて早めにお帰りくださいね」
やんわりと、お帰りを促しました
「ありがとう」と言うと、強風に立ち向かうように前のめりになりながら、トコトコと歩いて行きます
まだ帰る気はなさそうでした
転んだら自己責任
携帯を持ってなさそうなご高齢なので、救急車を呼んでくれる人のいる場所で、強風に吹かれて欲しいと思いながら見送りました