独居老人って…
伯母が好きな食パンやジャムを作って、数か月おきに30分ほど、独りで暮らしている家を訪ねます
85歳になる伯母は足が悪いだけで、頭はしっかりしています
自分が食べたいお菓子を買っては、尋ねた人に配るようです
この生き方は、祖母にそっくりです
今回は、まめ玉が出てきました
「ありがとう!まめ玉、好きだわ~」
「そう?」と言う伯母は、読みが当たって得意げです
次に取り出したギンビスのアスパラガスビスケットの袋には、刻んでコーンスープに浮かべた写真が表にあります
裏面には生ハムを巻いたオードブルや、ウエハース代わりにアイスクリームに添えたデザートの写真も載っています
お菓子を、食材として使うアイデアです
「オヤツじゃなくて、スープに入れたりして使えるみたいよ?」と、押し戻してみます
「もう飽きたの」
伯母がこちらへ押し返します
「そう?ありがとう」
次に手にしている森永キャラメルは、あまおう苺味です
「キャラメルは、久しぶり~!あまおう苺って、限定品かしら?」と聞きました
「それ、甘いよ~」と笑いながら、まだお菓子を取り出そうとします
「もう充分よ。いつも『わらしべ長者』になっちゃってる」と、次のお菓子はお断りしました
「この前、『家を売ってください』って男の人が来たのよ」と、お菓子を詰め込んだ袋を手渡してくれながら伯母が言います
「それで?」
「『売りません!』って言ったら、『独居老人は、さっさと施設に入ればいいのに!』って言われたのよ」
私は「なによ、その言い方!」と憤慨します
ところが伯母は、『独居老人』という言葉が面白くて大笑いしたようです
「独居老人って、お家を売ってほしい人によく言えたよねぇ…」と思い出し笑いをしています
スッと真顔になった伯母が、「相続のことだけどね」と話題を変えます
伯父の身内にも遺産をあげたいと前から言っているのですが、いとこが認めないのです
「時間をかけて説得しないとね」と言うと、重いタメ息が聞こえました
(うまくいかないんだ…)
私には無関係な、お金持ちならではの悩みです
「最後の手段は、遺言状を作ることね。おばちゃんからお菓子を買う楽しみを奪わないように、私も体調管理に気を付けるからね。おばちゃんも元気でいてね!」と言って、腰を上げました
「は~い!また来てねぇ!」
独居老人は、いつも元気です