「ただいま～！」
免許をとって１週間の、居候君が帰ってきました

「おかえり～！あら、駐車場で一緒になったの？」

「そうそう！すごい偶然～」
一緒に入ってきた、同級生カップルの男子が笑います

女子が、居候君に聞きます
「ねぇ、なんでロングナットを赤にしたん？」

「ん？！」
私の視線が、居候君を突き刺します

「何？お父さんの所に、車高を上げに行ったんじゃないの？」

居候君が買ったのは、違法改造車です
一体型サイドミラー＋違法な足回り部品＋シャコタン＋ハミタイヤ＋レッドテール

直すと言いながら、手を加えています
＋ロングナットになりました


「レッドテールのウインカーの場所を入れ替えて、車検に通るようにしました」
俯き加減の居候君が、小さな声で答えます

「はぁん？バカチン！それでもレッドテールは違法改造でしょ！」

「ん…」

「で？サイドミラーを可倒れ式に交換もせずに、ナットを外したのに車高を上げもせずに、お父さんとロングナットを付けた？本当に、あなたの父親も手を貸した？」

「はい…」

「バカ親子が！言うことを聞かないなら、あなたの全ての事から、手を引きます！それが嫌なら、今すぐ外しなさい！」

「赤のロングナットが夢だったんです…」

「ここまで走らせて、夢が叶ったわね！バカチン！」

「あぁぁ…」

「外したくないのね？！わかりました」
私の工具箱から金槌を出して、車の前に立ちました

居候君が、大急ぎで出てきます

「フロントガラスとボンネット、フルボッコにして走れなくしたら許してあげる」

「すぐに外します！」
言いながら、トランクからレンチを出します

私の剣幕に驚いたカップルが、大急ぎで出てきました
「手伝ってあげるから、早ようしぃ」
女子が急かします

居候君がため息をつきながら、レンチをナットに被せただけで手を止めました

「こうやって下に蹴り落とすと、回しやすくなるわよ」
女子に教えながら、ガンガン！とハイヒールでレンチを蹴りました

「あ～！キズがつく～！」

「はぁん？！なに言ってんの？車高３cm上げなさいね！」

「え？２cmって…」

「すぐに言うことを聞かなかった罰！３cm！嫌なら、金槌でボッコ！」

しぶしぶと、ナットを外し始めました


「タンタタ・タタ～ンタ・タンタタ・タタ～ンタ・タンタタ・タタ～ンタ・タ～ン！」
金槌を振り回して、野球の素振りをします

「おばちゃん、危ないけ～」
金槌を振り回す手を掴まれて、素振りを止められました

「ふん！」
ふと見ると、リアウィンドウの中に新免マークがあります

「トランクに貼っていたのに、何してる？カッコつけたいなら、自立してからにしなさい！」

「はぁぁ…」
レンチを回してナットを外しながら、ため息で返事をしました

「返事は？リアウィンドウを叩き割って、新免マークを取り出すわよ！」


「おばちゃんが怒ってるの、ひっさしぶりぃ～！」
へらへらしているのは、カップル男子です

しょっちゅう叱られていたのに、最近は誉められることが増えたので、調子に乗っています

「それ、出してトランクに貼って！」
その男子に命令します

「オレ、デカイから入りにくいんよ？」
180cm超えが、ブツブツ言います

「それが？！」
へらへら男子に、とばっちりがいきます

ペチッと、トランクに新免マークが付きました


「おばちゃん、メジャーを貸してください」
後輪の車高を上げている居候君が、恐る恐る頼んできました

「どうぞ」
工具箱から出しました

「足りん…」
上げ足しています


後輪があがって、次は前輪です
「おばちゃん、木を貸してください」

タイヤが角材を踏みました
車高がタイヤ分、上がりました
ジャッキを入れました
前輪を外しました


「あれ？メジャーは？」
居候君が、寸法が計りたいのに見当たらなくて、うろうろしています

後輪の真下に、メジャーが踏み潰されています

メジャーの紐がタイヤから出ていますが、19歳３人組は気付いていないようです

「踏んどる！」
女子が、叫びます
メジャーに付いている紐に、やっと気付きました

「車を前に出す時に、タイヤの前後をどうして見なかったの？」
居候君に、お説教します

「出ん！」
女子が紐を引っ張ります

「ちぎれる！」
私が叫びます

前に出したくても前輪がないので、また付けないといけないのかと、居候君が頭を抱えています

しかたないなぁ…
出て来ないでお部屋でくつろいでいる、助っ人を呼びます
「ちょっと手伝ってあげて～！」
車好き女子に、声をかけました

この子は、しょっちゅう自分の車をいじっています

「はぁい！」
現場を一目見て状況うを察した彼女は、自分の車のトランクを開けます
「うちのジャッキを貸してあげる」

後ろにジャッキをはめて、カタカタと持ち上げます

持ち上がるタイヤの下で、メジャーがビシッ！ビシッ！と、鳴ります

「割れちょるかもしれんよ～？」
カップルの女子が紐を軽く引っ張りながら、心配そうに言いました

居候君は、私が怖すぎて固まっています

「取れたぁ！」
女子の声が響きました

踏まれて、キズがありましたが割れてはいませんでした

ほっとした顔の居候君が謝ってきました
「ごめんなさい」

「いいから、さっさとやりなさい」


前輪も付けて、終わったと報告してきました

メジャーを持って、車の横に腹這いになります

みんなが、見守ります

「9.5！」
私が数字を読み上げると、みんながほっとしたようです
「良かったじゃん！」

「ん…」

不満そうな居候君に言いました
「0.5cm足りない」

「えっ？」

「でも、許してあげる」

「ありがとうございます！」


サイドミラーをトランクにある可倒式と交換して、足回り部品を交換して、アライメントに出したら、いくらかマシな車になります


車の部品を変えて痛め付けても、良い走りはしません

車に失礼でしょ