無言さん
夫からのLINEに、いつものお酒屋さんの伝票が写っています
「支払って」と、言いたいのでしょう
ん!?
お酒の請求書ということはわかりますが、『納品書兼請求書』の文字がブレブレです
もちろん、金額の数字も判読不能です
0か6か8か9か読めないので、正確な金額がわかりません
前にも、同じような写メが来たことがありました
帰宅した夫に、LINEの画面を開いて見せながら「また、読めないんですけど」と言いました
「はぁ?これが読めんのか?」
バカにした目付きで見下ろされます
顔を携帯から少し遠ざけて、目を細めて画面を見ます
「…?17,917円!」
沈黙の後に、読み上げました
「ありがとうございます。漢字がこんなにブレていたら私には読めませんから、写メったら1回確認してください」
ん?
無言…
「あ~ぁ!無くなりそうだから手配したのに、届いたら写メだけ送りつけて、お礼もないなんてサイテ~!」
よく聞こえるように、独り言を言ってみました
やっぱり、無言
ベッドに潜り込みます
『無言』さんに変身した夫は、朝の挨拶以外は無言でした
私も機嫌を損ねたくないので、何も言いません
身支度を整えた夫は、朝食も食べずにバタンとダイニングのドアを閉めて、お玄関に行きました
私はごみ袋を持って追い掛けます
ゴミの収集時間が変わってからは、夫の担当になりました
「お願いします」
お玄関で差し出しました
『無言』さんが靴を履いて、黙ってごみ袋を受け取りました
私が「行ってらっしゃい」と言うと、『無言』さんは貫き通すことができなくて、ボソッと「行ってきます」と応えました
(やった!)
心の中で、ガッツポーズ
『無言』さんが、お昼前の変な時間に帰宅しました
「ただいま」
「お帰りなさい。具合が悪いの?」
「はい!ケーキ!」
6個くらい入りそうな箱が、テーブルに置かれます
「ん?どうして、ケーキ?」
「朝、食べたいって言ってたでしょ!」
「え?言ってませんけど…」
ケーキの話題どころか、何も話していません
「いつ聞いたの?」
聞こえたのか聞こえなかったのか、スタスタと出て行ってしまいました
幻聴?
いいわけ?
とりあえず、無言の行はやめたようです
遠ざかる背中に、聞こえるように「行ってらっしゃい」を言いました