あきの仕事は短時間の為、終業時刻が15時30分だったのでトオルが指定してきた19時30分まで、時間がたっぷりあったので一旦、自宅に戻ってからトオルとの待ち合わせ場所に行くことにした。　いつもなら、今回指定してきた時間より1時間以上早い時間なのだが、最近は仕事が忙しいらしく、定時上がりがなかなか出来ないと言っていた。
　トオルの仕事内容の詳細は聞いていないが、社内のIT関連を整備する業務を担当しているらしく、社内のパソコンを入れ替える時などは、パソコンの設定を何十台分もしなくてはならないようで、とても大変だと言っていた。
　トオル１人でその業務を担当している訳ではないということだったが、担当している人数が少ない為、１人当たりの業務が膨大になるのだと言っていた。
その為か、最近は会っても疲れた表情を見せる事が増えているように思えた。
そんな疲れた表情を見るたびに、「男の仕事は女の仕事とは違った大変さがあるのだな。」と思うあきだった。
トオルに好意を抱いていた頃は、トオルの悩みや愚痴を聞いて、自分がトオルを癒やせたらと考えていて、たまに、ちょっとした手土産を持参したりもした。
そういうあきの行為を、特別喜ぶ訳でもなかったが
素直に受け取って、菓子などはその時に食べたりしていた。(疲れているので、甘いものが食べたかったのかも知れないが。)

初めて会った日を除いて、会っても、いつもホテルに行くだけで、食事やお茶を一緒にしたことがなく、あきが持参した手土産を食べるのもホテルの部屋だった。　だけれど、今夜はホテルではない場所で話したい事があるので、どこかでお茶でもしようと言うつもりだった。
トオルがそれに難色を示したら、その時はそこでトオルとの関係を終わらせると告げて帰って来よう。
話したい事があると言っても、それを嫌がるような男なら、正真正銘の「捌け口」としてあきを利用しているだけということになるのだから、即切りが賢明な判断だと言える。
今日の逢瀬も、トオルはいつものようにホテルに行くと思っているだろう。　あきが「話したい事があるから、お茶でもしよう」と言ったら、どんな反応をするのだろうか？　あきの申し出を受け入れて、話をする場所と時間を提供してくれるだろうか？　それとも、ホテルに行かないのなら、今日は帰ろうと言うのだろうか？　トオルと会う時間になるまで、あきはその事ばかり考えていた。
そして、話したいという自分の申し出を受け入れてもらえた場合の話の切り出し方をどのようにすべきが
なかなか考えがまとまらなかった。
単刀直入に、「トオルさんと、私の関係って、何？」
と聞くしかないのだろうか？　もっと大人らしく聞き出す方法はないものか？　そんなことばかりが頭の中を占めていて、考えれば考えるほど、どう言えばいいのかわからなくなっていた。

考えても考えても、考えがまとまらないのなら、トオルの顔を見た時の自分の気持ちに素直に従おうと思った。

そうして、逡巡しているうちに時間は過ぎて行き
トオルとの待ち合わせ時間が迫って来ていた。
あきは、意を決するような心持ちで部屋のドアを閉めて、トオルとの待ち合わせ場所へと向かった。
今夜で、トオルとの関係性がはっきりする。
トオルと自分の「これからはまだある」のか、それとも
今日を限りにトオルとの関係が終わるのか？
どちらに転んでも、後悔しないようにする為に
自分の気持ちをはっきりトオルに伝えようと心に決めたあきだった。