大人の恋愛と云うけれど vol.49
50代前半  大阪府
2023/05/27 21:47
大人の恋愛と云うけれど vol.49
トオルから連絡があり、トオルに会える日は明日の夜19時で、トオルが通勤に利用している地下鉄の路線の繁華街の駅の改札口を出たところで待ち合わせることになった。
皮肉なことに、この待ち合わせ時間も場所も、トオルと初めて会った日と、何一つ変わらぬ待ち合わせだった。最後の逢瀬が初対面と全く同じ場所から始まるなんて、なんだかとても滑稽に思えた。

トオルはあきが明日を最後にトオルとの関係をきっぱりと絶つとはさらさら思っていないので、仕事終わりに行きやすい場所を指定してきたに過ぎないのだが。

最初、あきはトオルと会ったあとに「話したいことがあるから、どこかお店に入りたい」と告げて、そこで
この関係を今日限りで終わりにしたいと告げて、トオルの前から姿を消すつもりだった。
だが、今は気が変わりトオルと最後に身体を重ねて
今までの私との性愛の全てをぶつけようと決めた。

トオルが、私との性愛を忘れられなくしてやりたい。
あきを、自分の都合のいい女として扱ってきた結果
こういう別離を選ばれてしまったことを後悔させてやりたい。 いわば、明日の逢瀬はあきからのトオルに対するリベンジ(報復)の戦場といっても大袈裟ではないのだ。

あきは、戦場で闘う戦士のつもりで、武装として
新しく、品のよいオフホワイトの絹の下着を用意した。普段は木綿の下着しか着けない自分が絹の下着を纏い、トオルを抱く。これまでのどんな性愛よりも
濃密で官能的な行為にして、トオルから私が去っていくことを惜しいと思わせてやりたい。
そんな女の意地が、あきの胸のなかで沸々と沸き上がって、胸の高鳴りを抑えることが出来ないほどだった。


「ごめん、ごめん。待ったよね?」と、小走りで私の元にトオルがやってきた。
「LINEで少し遅れるって連絡くれたから、分かってたし。」と、それだけ言って、トオルの後ろをついて歩く。 トオルは、あきが何も言わなくてもホテルへと向かって歩いているはずだ。ただ黙ってその後に続くだけ。 5~6分も歩けば、居酒屋が沢山建ち並ぶ繁華街へとたどり着き、さらに歩いているとやがてファッションホテルが建ち並ぶホテル街へと、街並みはその姿を変える。
平日の夜と云うのに、満室のホテルが多く空き部屋のあるホテルを見つけると、そこは奇しくもトオルとあきが初めて身体を重ねたホテルだった。

最初と最後の逢瀬が全く同じホテルになるなんて
本当に皮肉な話でしかないと、あきは感じていた。
そんなあきの胸の内を知ることのないトオルは
足早にホテルのロビーにある掲示板の写真を見て
数少ない空き部屋のボタンを押した。
「あまり選べないから、ここでいいよね?」
後ろを振り返り、あきにそう告げる。
あきは無言で首を縦に振り、トオルに続いてエレベーターに乗り込んだ。

二人してエレベーターに乗り、横に立つトオルの横顔をまじまじと見つめていると、その視線に気づいたトオルが不思議そうに、「どうしたの?僕の顔をじっと見たりして。」と言うので、恥ずかしくなってあわてて顔を背けながら、「何でもないの。」と言うのが精一杯のあきだった。

エレベーターが到着して、ゆっくりドアが開く。
トオルが先に降りて、あきはその後に続く。

いよいよ、戦闘開始だわ。 心のなかでそう呟いた時
選んだ部屋のドアの前にたどり着いていた。 
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