小学１年の正月、隣が火事になった
隣と言っても、８軒分の長屋だ

親戚一同が宴会する中、
窓越しに、ゆっすらと立ちのぼる煙。。。
マルちゃんが最初に発見したが
親戚は誰も信じなかった。

しばらくすると、火の手が見えはじめ
遠くからサイレンが聞こえてきた
消防車が到着する頃
親戚は、早々に帰って行った



６台の消防車は、フル活動で放水。
マルちゃんの家の中は
消防車のホースが、何本も通り抜けた
そして、隊員たちの靴とホースで
家の中は、泥水だらけになった

消防隊員が、庭から放水するものの
火の勢いが止まらない。
その日、乾燥した東京は、西風で
マルちゃんの家は、風下となり
どんどん、火の手が迫って来ていた。

その様子を庭の端っこから見ていたマルちゃん。
それでも、煙と熱風が襲ってくる…




「　キィィキュゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ………　」




「火柱」は、音をたてながら
龍が如く、天に渦巻いて、噴き上げた



「　ゴォーバッチバチバチバンバチ・・・・　」

「火柱」は、一帯を焼き尽くしながら
ゆっくりと向かってくる

梅の大きな枝も、熱にさらされ
だんだん、家の壁が焦げてきた
消防隊員が、避難指示を始めたその頃




「あっ！危ないっ！！！下がれ！！！下がれ！！！」




パッっと見ると・・・

消防隊員が叫ぶ中、、、
マルちゃんのおばあちゃんが
「火柱」に近寄って行く


数名の隊員が、おばあちゃんを止めた
だが、持ってるホースも手放せない

その隊員たちの静止を振りきって
おばあちゃんは、「火柱」から数m先にある
家境の、梅と杉の木のあいだに
「赤い腰帯」を結んでいた

おばあちゃんは、あとを追ってきた
消防隊員に引きずられ、救出された。
そして、軽いが、ヤケドを追い
救急車で運ばれた。




しばらくすると、、、風の向きが変わる

風は、東風になった

「火柱」は、ゆっくりと反対の方へと進み始めた

そして、隣の駐車場のトラックを焼き
さらに越えて、先の家に飛び火。。。
その１軒まるごと焼いて、
火事は、夕方になって、ようやく鎮火した


マルちゃんの家は、奇跡的に残った
外壁が焦げただけで済んだ
だが、２日目、家では大掃除…
すごい正月だったなぁ…

その３ヶ月後、、、
心臓が弱かったおばあちゃんは
息をひきとった





話は変わりますが、
今日は、町会の集金当番でした。


「マルちゃん～大きくなったなぁ～
暑いだろ～麦茶でも飲んできねー！」



昔から、土地の人が多い町だけあって
近所の爺さん婆さんも顔なじみ。


「マルちゃんのーばあちゃんはすごいべ！！
自分の命と引き替えに、家を守ったんだなぁ！！！」

近所の爺さん婆さんと話すと
いつも、この話が出る、今日も、もれなく。
正月の火事の話は、昨日のようだ(笑)




この土地の、古い言い伝えによると…

火事があった時
「赤い布」をかざすと
「火の神様」は逃げていくそうだ、
その人の命と、引き替えに…




おばあちゃんには、めちゃくちゃ
可愛がってもらった記憶しかない

毎日、着物をきて、髪もビシッと結って
身長も高く、腰が曲がることもなく
酒を飲んでも酔っぱらうこともなく
キセルで、刻みタバコを吸いながら
毎日、パチンコ行っては
オヤジどもに打ち負けることもなかった。


初めて乗った自転車は
おばあちゃんがパチンコで勝ちまくって
買ってくれたものだった(笑)

おばあちゃんから電話があったので
母がボクを連れて迎えに行くと
自転車屋のオヤジに、自転車と荷物を持たせ
パチンコ屋の入り口で、腕を組んで
キセルくわえて、立っていた。


物心ついた頃、家が貧乏の為
あちこち奉公に出されたらしいが
義理人情が厚く、豪快で、男勝り。




生き方も死に方も、おばあちゃんらしい