イケメン好きな女子に告ぐ
40代前半  大阪府
2017/07/04 19:08
イケメン好きな女子に告ぐ
僕は夏が近づく青い空を見上げた。
空が青いって思えるのは素晴らしいことだ。

イケメン好きな女子に告ぐ!

どうしてもイケメンじゃなきゃダメ?
ブサイクは嫌いですか?

こんな僕にだって子供の頃から苦手で仕方がないものがある。

何ですか、あのルックス?
微妙に膨らんだシルエット。
黒を基調としながらもシックにまとめ切れず受け入れがたい配色。
ブヨブヨとしてそうで実はサクサクした感触。
表を見ても裏返して見ても気持ち悪い箇所しか見当たらないブサイクなデザイン。
完璧だ、完璧すぎる。


そう、僕はセミが苦手なのだ。

しかし、イケメン好きな女子に告ぐ!
「あの人ブサイクだから無理~」
とか言ってる君たちと同類にされては困る。

毎年突然大量に発生し、真夏の暑さの苛立ちを増長させるかのように騒ぎまくるあの神経。
ブサイクという外見的欠陥に加え、徒党を組んで朝から騒ぎ立てるなどこの法治国家で許されてはいけない悪魔の所業だ。

大阪難波に大量に来られる「中◯国人批判」をしてるわけではない。
僕はセミの話をしている。

レモンティーを飲みながらクラシックを聴くという僕の爽やかなモーニング・イニシエーションが彼らの暴挙によって阻害されるのだ。

夏の日に僕がひとたび外出すると、彼らは大空を飛び交い糞尿垂れ流しながら大声で泣きわめき場所もわきまえず交尾しまくった結果、夏も終わりに近づくと至る所で遺体となって目撃される。

彼らに地上で許された時間は短い。

「セミはすぐ死んじゃう可哀想な生き物なんだから大目に見てあげてよ」
なんていう意見もあることだろう。
しかし彼らは好き放題に転がって死んだ後まで我々に迷惑をかけ続けるのだ。

なんて奴らだ!

しかし、しかーーし!!
そこいらのイケメン好きなお嬢ちゃんと一緒にされちゃ困るね。
そう僕はカジノ、ワクワク1の紳士なんだ。

食わず嫌いはよろしくない
というわけで今回は大嫌いなセミについてじっくり考えてみようと思う。

セミの話をすると皆だいたい得意気な顔でこう言うのだ。

「だいたいさぁ俺思うねんけど、あんなでかい声で鳴き続けたら・・そらすぐ死ぬよな!」

浅い

そんな誰かの受け売りのようなセミトークなど、僕クラスの真のセミ嫌いにとっては聞き飽きた話だ。

確かに一理あるのは認める。
親指大程度のボディサイズから発せられるあの音量、確かに尋常では無い。しかも1週間ほど毎朝鳴き続けるのだ。(正確には鳴き声では無いが)
どんなに大きな負荷なのだろうか。
そりゃ早死にするさ!

だがこんなイマジネーションのカケラも感じられない話はやっぱ面白くない。

では「ジャムおじさん」がエロ用語に思えてしまうほど豊富なイマジネーションを持った僕なりの解釈で彼らを考察してみよう。


皆さんセミの幼虫を見たことがあるだろうか?
ご存知の通り彼らの一生はそのほぼ全てを土の中で過ごす。彼らは幼き頃からグロテスクな鎧に身をまとい、その容姿は可愛さのカケラも感じない。そして死期が近付いたある夏に地上に出て繁殖活動に入り子孫を残す。

これが世間一般のセミの生態に関する知識だ。

だが少し考えてみてほしい。

一生のうちほぼ全てを幼虫として過ごす生き物、それは果たして幼虫と呼べるのだろうか?

僕は「セミ」という生き物は幼虫の姿こそが本来の姿なのではないかと思う。セミってのは夏の日に泣きわめく虫ではなく、土の中に生息する幼虫みたいな姿の昆虫なのではないだろうか。

あなた「では僕らが見かける、あの自由に泣きわめく空飛ぶブサイクは何なの?」

非常に良い質問ですねぇ


僕はセミにとっての地上は「天国」なのではないか、と考える。

そう、僕らがセミと呼ぶあの生き物は実は「セミ」の死後の姿なのだ。

土の中で長年生きた「セミ」は、死期を悟ると地底の仲間に迷惑をかけないように地上に出て木に登り、死ぬ。
そして「セミ」の遺体から神様は魂を解き放つ、脱皮という名の死の儀式。


何のため?


きっと「狭い地球のスペースを僕らに譲るため長らく地底で生きてくれた」感謝の証として、神は形を変えた姿で「自由に何をしても良い1週間のボーナスステージ」を彼らに与えたのではないだろうか。

これが僕の思う天国だ。

朝から近所迷惑を考えずみんなで歌を歌いまくって、ワイワイガヤガヤと空を飛び回り、幸せに地上で生きる人間に仕返しとしておしっこを引っ掛けつつ、欲の限りに交尾しまくって過ごす。まさになんでも有りの1週間。

そして満足しまくった結果、1週間のボーナスステージの姿から魂が抜けてその遺体だけが地上に残り、雨に溶けたカラダが養分となり土壌を豊かにして後世への財産となる。


2年ほど前、僕は最愛の愛犬を亡くした。
子供のいない僕らは本当に心から、心から彼女(愛犬)を愛していた。
空ってどんな色だったっけ?
彼女がいなくなった時から僕にとってこの世界は色を失った。

でも彼女がいなくなっても普通に地球は回り、何事もなかったかのように世界は動いていた。

ただ彼女だけがいない。

それが悲しかった。

僕はその頃同じ夢を良く見ていた。
海で溺れてもがき苦しむ夢。
僕は沈んでいく、暗い暗い海の中。
その時の僕には空気も光もある世界が天国に思えた。

暗闇の中、ふと一筋の光が射し込む。
僕は救いを求めるように光をたどり必死にもがいて、やっと水面の上に顔を出せた瞬間に夢から覚める。

空気もあって光もある、でも君はいない。
ただ君だけがいない「色のない世界」

真っ暗な海に沈んでる時、天国だと思った世界。

そこはただの現実だった。

獣医師から余命を宣告された時に、僕の中で彼女は亡くなっていた。
僕は愛犬との別れを過去にも経験して、知っていたことがある。

1000万円払ってでもいい。

もう一度だけ会いたい。
もう一度だけ頭を撫でたい。
もう一度だけ一緒に寝たい。
もう一度だけ散歩をしたい。
もう一度だけ声を聞きたい。

もう一度だけ、もう一度だけでいい
その瞳に僕を映して欲しい。

いつか必ずそう思う時が来るのだ。

彼女はまだここにいる。

そう、僕にとって残された彼女との時間は「いつか1000万円払ってでも戻りたいと思うボーナスステージ」なのだ。

だから僕は残された時間、出来る限り彼女とたくさんの思い出を作った。

たくさん頭を撫でた。
たくさん一緒に寝た。
たくさん散歩に行った。
たくさん声を聞いた。
そしてたくさんの僕の顔を彼女の瞳に映した。

僕らはこの世界にたくさんの色を何重にも重ねて塗りまくった。今から思うと僕らはあの時、天国にいたのだろう。

数ヶ月して彼女は歩けなくなり、まもなく僕と彼女の世界から色が消えた。

愛してる

最後に僕は横たわる彼女にそう伝えた。
ボーナスステージは終わったんだ。

教えておくれよ。
僕との日々は幸せだったかい?

色のない世界に残された僕はきっと自問自答し続けるんだろう。

でもセピア色になった素敵な思い出はきっと僕の中に永遠に残り続ける。
僕が誰かの思い出に変わるその日まで。

教えておくれよ。
僕との日々は幸せだったかい?


きっとセミはあの日の僕らのような限られたボーナスステージを過ごしているんだ。

空気があって光もあるこの素晴らしい世界、天国のようなこの世界を心から満喫している。
彼らの身勝手な行為を誰が責められるだろう。
出来ることなら、この天国でセピア色になっても色あせない素敵な日々を送って欲しいな。

僕と彼女のようにたくさんの愛を感じられる日々を。


イケメン好きな女子に告ぐ!
ここまで読んでもらった上で質問します。

あなたはセミが嫌いですか?

好きとか嫌いってのは単にルックスだけで判断出来るもんじゃない。

セミが土の中で耐え忍んで生きてきたように、ブサメンはブサメンで彼ら一人一人に物語があるのだ。

何で自分はこうなんだと自問自答したことがあるだろう。
人に優しくした事もあるだろう。
人に冷たくされた事もあるだろう。
失恋して傷ついた事もあるだろう。
大切な存在を失って涙したこともあるだろう。

そして誰かを愛したこともあるだろう。

「ブサイクだから無理」とか簡単に言っちゃいけない。

色んな経験をして人間は形成されていく。
そうして磨かれていく中で、決してイケメンじゃなくても僕らは「素敵なブサイク」に成長していくんだ。そして人は愛し合う。
僕はこれが美しく、素晴らしいことだと思う。

イケメン好きな女子に告ぐ!

「ブサイク」は嫌いですか?

嫌いでも良いと思う。
でもね、イマジネーションを働かせて深く深く考えてから「それでもやっぱりイケメンが良いっ!」って言ってください。

きっと誰も文句は言わないから。


カレンダーは7月。
最近暑い日が続いている。
梅雨が終わればもう夏だ。
今年もセミはこの地上のどこかしこで醜い姿で大きな声を出し最後の時間を過ごすのだろう。

「何事も見た目で簡単に判断しちゃいけない」

真実はいつも見えにくいものだ。
そして真実はいつも小さな声で語られる。


あなたはセミが嫌いですか?

僕ならあらゆる考察の結果こう答える。
そう僕はカジノ、ワクワク1の紳士なんだ!

「はい、大嫌いです」

なぜかって?

長くなっちゃうから簡単にまとめます。

「あのデザインが苦手なんだよね。
あと、うるさいし。」



僕は夏が近づく青い空を見上げた。
世界に少し色が戻ってきたみたいだ。

彼女が嬉しそうに走り回ってる

ふとそんな気がしたんだよ。
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コメント

40代前半  大阪府

2017/07/04 20:41

6.  >>3 チェリーさん
コメントありがとう。
モテ方講座までしっかりと読んでいただいていた証明ですね!
次回女性編までしばしお待ちを。
そうですね!
そんな紳士はなかなかいないなぁ。

(´-`).。oO(僕はエロくないから当てはまらないや)

40代前半  宮崎県

2017/07/04 20:23

5. 皆さまの真面目コメントみたら
イケメンがすきなおばさんですって
かけないわ
どうしよ?←
エッセイストかと思いました♪

[退]
40代半ば  大阪府

2017/07/04 20:12

4. 相変わらずお見事な文才!
エッセイストへの転職をお勧めします。

私は父親を高校生の時に脳出血で突然亡くしたので、余命宣告されて死を迎える辛さはわからないけど、わかっていたらしてあげたかった事はたくさんあるなぁ。

カジPの色は取り戻せたなら良かったですね。

そして、結局セミは嫌いなんか~いっ(笑)

30代半ば  京都府

2017/07/04 19:36

3. 友達がセミを捕まえてカゴに入れてるのを見て、「少ししか生きられなくてかわいそうだからやめてあげて」と泣いた、心優しき少女がこの私です。

外見は内面の一番外側って誰かが言ってたっけ。
それなりに生きてきたら、心の綺麗なイケメンかそうでないかの見分けはつきます。
心の綺麗なイケメンで、ギターも歌も絵もうまくて、文才があって、愛犬家だけどセミは嫌いで、エロくてテクニシャンな紳士なんかこの世に存在しないけどね。

40代前半  大阪府

2017/07/04 19:26

2.  >>1 やまださん
いつもいつも温かいコメントありがとう(^^)
今回はセリフが無いから読みにくいかなぁと思ってたんだけど楽しんでもらえて良かったです。
書籍化された時はぜひぞひお買い求めくださいね 笑

30代前半  北海道(道央)

2017/07/04 19:18

1. 笑って読んでたのに、途中目から汗が止まらなくなりました(;_;)
そして最後笑いました!
カジノさんの文章、書籍化されたらぜひぞひ買いますよ(・ω・)ノ

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