期待なんてしてなかった
たまには僕の話でもしようかなと思う。
良い意味か悪い意味かは別として、どうやら僕はB型に見えないらしい。なぜか血の繋がっている親戚までもA型と思い込んでいたほどB型っぽくないらしい。そもそもB型とO型の両親からA型が生まれる訳はないのだ。
亡くなったじいちゃんもB型だった。
顔も立ち姿も声も仕草も僕はじいちゃんソックリだと親戚から良く言われた。
自分じゃ自覚無いんだけどね。
つまりA型がいない家系の中で僕がA型であるワケはないのだ。
そして良い意味か悪い意味かは別として、どうやら僕は大阪人っぽくも無いらしい。
でも残念ながら僕は生粋の大阪人。
大阪生まれの大阪育ち。
大阪で生まれた男には宿命のようにつきまとう質問がいくつかある。
「へぇ~、大阪人なんだ!
じゃあやっぱり阪神ファン?」
はい、そうです阪神ファンです。
なぜって言われても分かりません。
生まれた時から阪神ファンで昔甲子園で売り子のバイトしてました。
「へぇ~、大阪人なんだ!
じゃあ なんでやねーーーん! とか言うの?」
もちろん言いますよ!
なぜって言われても分かりません。
ツッコミとか特に意識していません。
なんでやねん、と自然に思うから言うんです。
「へぇ~、大阪人なんだ!
じゃあ家にたこ焼き器あるの??」
そりゃありますよ!
たこ焼き作るとき使うじゃないですか!
「あったら便利」とかじゃないです。
無いと作れないから持ってます。
「へぇ~、たこ焼きが好きなんだ!」
ええ、好きですよ。
でも「たこ焼きと焼肉どっちが良い?」と聞かれたら即答で焼肉を選びます。その程度です。
安心してください、皆さんのたこ焼きを思う気持ちと変わりません。
大阪人は別にたこ焼きばかり食う人種ってわけじゃない。ただ大阪にたこ焼き屋が多いだけ。
ドゥーユーアンダースタンド??
とまぁ大阪人はなぜか特殊な人種として扱われやすいワケ。でも僕は別に構わない。
期待なんてしてなかった
これが大阪に生まれた男のサダメ
そう理解している。
だってたこ焼き屋が多いのは事実だから。
子供の頃、良く近所のたこ焼き屋に行っていた。
「タイガー」って名前の小さな古い店だ。
店の前には古びた看板。
カタカナで「タイガー」の文字。
「◯◯流」とか「◯だこ」とか「◯ちゃん」といった人気たこ焼き屋と違って、近所の人しか知らないであろう小さな店だ。
タイガーの店主は「タイガーのおっちゃん」と言えば近所に知らない奴はいない程の有名人だった。子供にも気の利いた返しをするシャレたオヤジで、子供たちの中でも「カリスマたこ焼き屋」としての地位を築きあげていた。
タイガーでたこ焼きを買って公園で食べる。
何より贅沢な時間だった。
僕らはホテルのラウンジで
「スコッチのシングルをロックで」
と格好付けて注文するかのごとく
「6個入りのソース味、マヨネーズ付きで」
と格好付けて注文する。
するとタイガーのおっちゃんはニヤリとして
「かしこまりました~ぁ。
マヨネーズはシングルでよろしいですか~?」
とオシャレに返す。
僕らは意味も分からないけど、こう思う。
かっこいいーっ!!
「じゃ、じゃあ・・マヨネーズはダブルで!」
まさに子供の心を鷲掴みにするカリスマだ。
タイガーのたこ焼きは本当に美味しい。
近隣のタイガーファンの子供達に「利き酒」ならぬ「利きたこ焼き」をさせたらほぼ全員が正解するはず。
とにかく独特の「モチモチさ」なのだ。
タイガーのたこ焼きを食べた人は笑顔になる。
それぐらい人を驚かせ、喜ばせ、記憶に残る味だったんだろう。
僕らが中学生になった時、
見慣れたタイガーの看板は無くなっていた。
店はシャッターが閉じたまま。
タイガーのおっちゃんが亡くなったと聞いたのはしばらくしてからの事だった。
カリスマの死は瞬く間に僕らの中で広まった。
当然みんなショックを隠しきれなかった。
でもタイガーが無くなっても、この町に住む僕らの生活はさほど変わらない。
日常からタイガーのたこ焼きだけが消えた、ただそれだけ。
平凡な毎日を送りながら僕らは高校に進学し、やがて成人した。僕は住んでいた町を離れ、京都のとある大学で寮生活をしていた。
お盆休みに僕は久々に地元に帰った。
久々に地元のスタジオに顔でも出すか、と思ってたら友達から電話がきた。
みんな帰省してて集まっているから
お前も来いよ
仕方ないなぁと思いながらも、僕はみんなのもとに行った。
気心の知れた小学校からの同級生。
「そうや!久々に小学校行ってみよや!!」
誰かが言い出し、僕らは懐かしい校舎に向かった。
毎日通っていた通学路、見慣れた景色。
「ここ昔犬飼ってて良く吠えられたよなぁ」
「この家のおばちゃん、怖くなかった?」
昔話ってのはキラキラ輝いているもんだ。
「懐かしい~ここの公園良く来たよな!」
「そうそう、このベンチでたこ焼き食って・・・」
そう・・・タイガー!!
あのモチモチ食感、そしてあの味。
世界から消えた唯一無二のたこ焼き。
僕らはふとかつて伝説のたこ焼き屋のあった聖地を見た。
奇しくも聖地は別のたこ焼き屋になっていた。
ガッカリだ。
多分「改装費も安く抑えられ、公園も近くて儲かる」って安易な目論見でこの場所に店を出したのだろう。
おそらく店主は知らないのだ。
ここが「伝説のたこ焼き屋」の跡地、僕らの聖地だという事を。
「ちょ、マジで!?タイガーの場所、違う店になってるやん!」
当然タイガーを愛していた皆の思いは同じだ。
「ホンマふざけてるよな!
どんなやつがここでたこ焼き屋やってるんかちょっと見に行こや!」
僕らはたこ焼き屋へ向かった。
文句の1つでも言ってやりたい気分だった。
期待なんてしてなかった
店主は以前の「カリスマたこ焼き屋」とは似ても似つかないスポーツマン風の男だった。30代ぐらいだろうか。
「6個入りのソース味をマヨネーズ付きで」
僕は以前と変わらない注文をした。
カリスマはもういない。
期待なんてしてなかった
「はいっ、ありがとうございます~ぅ」
などと気の利かない相槌に、僕らはため息をついた。
みんなの思いは同じだ。
ここはかつて伝説のたこ焼き屋だった聖地。
あんたの出る幕じゃない。
僕らは予想通りとは言え、少しガッカリとしながらセミの鳴く公園の懐かしいベンチに腰かけた。
期待なんてしてなかった
でもやっぱり僕らは聖地にカリスマを重ね合わせてしまっていたんだろう。
あの頃と同じようにたこ焼きを食べた。
期待なんてしてなかった
・・・!!!?
でもそこには懐かしい味があった。
このモチモチ食感、そしてこの味。
様々な記憶がここに呼び戻される。
「えっ、・・・これ・・って・・・
・・・・タイガーのたこ焼きやんっ!」
僕らは目を見開いた。
みんな「利きたこ焼き」で軽くタイガーを言い当てられる地元っ子だ、間違うはずがない。
「えっ・・・どういうこと?」
何度食べてもそれはタイガーのたこ焼きだったのだ。じいちゃんから貰った小銭を握りしめて買いに行った思い出が蘇り、食べ終わった時にはみんなあの頃のような笑顔になっていた。
僕らは店に駆け込んだ。
どうしても聞きたいことがあったのだ。
「タイガーって店のたこ焼き知ってますか?」
期待なんてしてなかった
でもスポーツマン風の男は言った。
「え、みんな・・・タイガーのたこ焼き覚えてるの?」
僕らは胸が高鳴った。
忘れるわけなんてない。
喜ぶ僕らを見て、男は語ってくれた。
彼もまた僕らと同じようにこの町で生まれ、タイガーのたこ焼きを食べて育ち、タイガーのたこ焼きを愛し、カリスマに憧れた1人だった。
弟子入りを志願したこともあったらしい。
期待なんてしてなかった
「儲からないからやめておきなさい」
いかにもカリスマらしい断り方だ。
その後彼はこの町を離れ、数年後地元に帰った時にカリスマの死を知る。
この町からタイガーのたこ焼きが消えてしまった事をひどく悲しんだ彼に舞い降りた一筋の希望の光。
俺がもう一度、この場所に・・・
この場所にタイガーを復活させる!
その後、伝説のたこ焼きを完成させるまでには相当な苦労があったらしい。
期待なんてしてなかった
しかし彼は苦労の末にたどり着いた。
「伝説のたこ焼き」を完成させたのだ。
聖地に今こうして伝説の第2章をスタートさせたのだ。
僕は胸が熱くなった。
この小さな町にこんなドラマがあったなんて。
きっと文化ってやつは、昔からこんな小さなドラマを繰り返して受け継がれてきたんだろう。
時代は流れ、色んな物が消えていき、やがて僕らも消えゆく。
でもきっと「時代が変わっても後世に残っていくもの」があるのだろう。
だから大阪にはたこ焼き屋が多いのかもしれないな、なんてふと思った。
僕は後世に何を残す事になるんだろう
「まだまだタイガーの味には敵わんし、僕もあのおっちゃんみたいな存在にはなられへんねんけどね。あ、あとホンマに儲からんかったわ」
スポーツマン風の大阪人は恥ずかしそうに笑いながらそう言って、チラリと店の外の看板に目をやった。
昔、タイガーと書かれていた看板。
そこにはリスペクトの気持ちがこもった「虎」という店名が書かれていた。
僕は意外にもB型である。
適当過ぎるほど適当。
でも一方で気になることはとことん気になってしまうのだ。
タイガーのおっちゃんに聞いてみたかったことがある。
期待なんてしてなかった
ただ喜びを分かち合いたかっただけ。
カリスマに聞かなかった事を「未来のカリスマ」に聞いてみよう。伝説は第2章に突入しているのだから。
期待なんてしてなかった
いや違う、きっと僕は期待していたんだ。
この地、この店、この看板。
間違いない!!
「もしかして・・阪神ファンですか?」
第2章のカリスマは恥ずかしそうに僕をみた。
目が合うと僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
「ううん、巨人ファン」
っっっっ・・・・おいっ!!
なんでやねーーーん!!
僕は後世に何を残す事になるんだろう
期待なんてしてなかった
自分に絶望していた。
僕は天才じゃなかった。
自分の才能の無さに打ちひしがれ、進むべき道が分からない。誰にも言えず1人で悩んでいる僕に大好きなじいちゃんが言ってくれた言葉がある。
才能がない?
お前は天才じゃないのかもしれない。
でも俺はすごい奴やと思ってるで。
きっとお前は「天才よりもすごい奴」
そう思えばきっと素直になれる。
自分が本当に進みたいと思っている道を、素直に歩むことが出来る。
巨人ファンの作ったたこ焼きを食べた後、僕は急ぎ足で家に帰った。景色は大して昔と変わっていない。
大丈夫、時間はたっぷりと残されている。
伝説は始まったばかりだ。
下手くそ?
センスがない?
外野は黙っててくれ。
そんな事は自分で分かってる。
期待なんてしてなかった
きっと俺には才能なんてない。
だけど俺は天才よりもすごいやつ。
家に帰った僕は急いでギターを取り出した。
自分の中で何かが燃えあがっている。
どうやらB型は我が道を進む負けず嫌いらしい。
俺だけはお前に期待してやる
玄関で鏡の向こうの自分に向かって、
何気なくうなずいてみた。
そしてまだ暑さの残る夕焼け空の下、
小走りでスタジオに向かったんだ。
後世にまで語り継がれるような
「誰よりも心震わす伝説のミュージシャン」
にでもなってやろうかな
なんて思いながらね。
コメント
2017/10/23 9:57
32. >>31 アイさん
コメントありがとうございます。
あ、間違えた!コメントごちそうさまでした(笑)
ストーリーの中に引き込むことが出来たみたいで何よりです^ ^
文章を書き疲れてちょっと休んでたのですが、最近やっと新作を書き始めましたので良かったらまた見てやってくださいね~。
返コメ
2017/10/22 23:26
31. 遅ればせながら、初コメントを失礼します
タイガーの話、拝読させていただきました♪
ひとつのストーリーが見事に描かれていて
引き込まれました
素敵な文章をごちそうさまでした(*´∇`*)
返コメ
2017/10/06 7:07
30. >>29 はらぺこさん
長文読破ありがとうございます^ ^
最後まで読むの大変だったでしょ?笑
さすが、食べ物にはこだわるね!
野菜も食べましょう。
返コメ
2017/10/06 3:37
29. 読んでしまった。最後まで。
この後、私はググるのです。
タイガーを。
ΣΣΣ≡┏|*´・Д・|┛ダッシュ
返コメ
2017/08/23 10:03
28. >>27 愛~恋してます(*´∀`)さん
ありがとうございます(^-^)
5000文字フルに使い切りました!笑
返コメ
2017/08/22 12:38
27. 凄く良い日記です♪(*´∀`)
返コメ
2017/08/10 13:13
26. >>24 孤蝶✝心~孤独ではなく孤高に生きる~さん
あら、また吸引力出ちゃってた?笑
お楽しみいただけましたでしょうか?(^^)
ホンマ昔の事って思い出したら懐かしいよね。
つまらない話もセピア色のフィルターがかかると美しく見えるもんだなぁと実感。
関西人in Tokyo知らないなぁ、今度一度聴いてみますね!
コメントありがとー!!
返コメ
2017/08/10 13:09
25. >>23 Coccoさん
コメントありがとうございます(^^)
紛れもなくリアルな話なのでエピソードそのものはそんなに面白い話では無いんですけどね。
僕も記憶から消えかかってたんだけど一昨年じいちゃんが亡くなって思い出しました。
楽しんでもらえて良かった良かった!
またぜひぜひ読んでくださいね~
返コメ
2017/08/10 9:02
24. 相変わらずの吸引力!w
似たようなたこ焼き屋があったわぁ☆
うちは海が近いからスクール水着に浮き輪はめてビーサンでそのまま海まで行ってたのネ?w
で、泳いで遊んだ帰りにそのたこ焼き屋行ってた☆
マヨネーズとすり胡麻をかけてくれてその味が忘れられんかったなぁ・・
近くに駄菓子屋もあったなぁ☆
赤くて丸いポストがあった☆
タイムスリップしたいなぁ☆
そうそう!
関西人in Tokyo(トーキョー?)って歌知ってる?
あの歌面白くて好き☆
PVにあの人出てくるし
(*´艸`*)
返コメ
2017/08/10 7:28
23. 思い出を共有できる仲間や
お爺さんの言葉…
スクリーンで映画を観ているような
気持ちになりました(*´꒳`*)
ノンフィクション好きなので
リアルなお話ってグッときます…
カジノさんの日記、
また楽しみにしています♪(*^ω^*)
返コメ